サメの二尾付け
文字数 732文字
覗けばサンゴ礁の見える、透き通った海。その真ん中にて一人、人が溺れていた。
両手を使いもがく彼女に、漁船が迫る。溺れている彼女を救助しようとしていた。
漁師が投げた救命用のうきわが、無事彼女のそばへ落ちる。助けを察知した彼女はとっさに掴まった。
「大丈夫か!?」
全力でロープを巻き手繰り寄せる、海の男達。目の前の命を助けるために、皆が必死となっていた。彼らの鍛えられた腕は、とうとう彼女を船へ上げることに成功した。
「…………」
「大丈夫、見てえだな」
助けることができた命に、皆が見とれていた。ケガは特になく、低体温などの症状が出ているわけでもない。
――が、それは長年漁師をやってきた彼らには、いささか不自然な様にも見えた。
「……立てるか?」
海の真ん中で溺れていた割には、不自然なくらいに早く息を整えている彼女。だが彼らは、救助の成功にばかり気を取られて、その違和感を忘れて手を差し出した。
――その時だった。
「マシッケッタ(美味しそう)」
掴まって立ってもらおうと差し出したその手に、牙がむかれた。
「――!?」
人間の歯によるものとは思えない、肉を切り裂くような痛みにより叫びを上げた。
「あ、あんた何を……!?」
他の船員達の驚愕を意に返さず、肉を食いちぎった彼女は、その船員を強く突き落とした。
「――!?」
――そして彼女は、再び海へ飛び込んだ。
美しい海の中、彼は自分の死を見た。傷口から出た血液が、まるで煙のように周囲を包んでいくその様を。そして、決して浮かばないように叩きつけ、己を沈めていく三角の頭を持った彼女を。
自分の死によって、海が汚れていく。たとえ目先だけの景色だとしてもそれは、海を愛した男にとっては死に引けを取らない恐怖だったのかもしれない。
両手を使いもがく彼女に、漁船が迫る。溺れている彼女を救助しようとしていた。
漁師が投げた救命用のうきわが、無事彼女のそばへ落ちる。助けを察知した彼女はとっさに掴まった。
「大丈夫か!?」
全力でロープを巻き手繰り寄せる、海の男達。目の前の命を助けるために、皆が必死となっていた。彼らの鍛えられた腕は、とうとう彼女を船へ上げることに成功した。
「…………」
「大丈夫、見てえだな」
助けることができた命に、皆が見とれていた。ケガは特になく、低体温などの症状が出ているわけでもない。
――が、それは長年漁師をやってきた彼らには、いささか不自然な様にも見えた。
「……立てるか?」
海の真ん中で溺れていた割には、不自然なくらいに早く息を整えている彼女。だが彼らは、救助の成功にばかり気を取られて、その違和感を忘れて手を差し出した。
――その時だった。
「マシッケッタ(美味しそう)」
掴まって立ってもらおうと差し出したその手に、牙がむかれた。
「――!?」
人間の歯によるものとは思えない、肉を切り裂くような痛みにより叫びを上げた。
「あ、あんた何を……!?」
他の船員達の驚愕を意に返さず、肉を食いちぎった彼女は、その船員を強く突き落とした。
「――!?」
――そして彼女は、再び海へ飛び込んだ。
美しい海の中、彼は自分の死を見た。傷口から出た血液が、まるで煙のように周囲を包んでいくその様を。そして、決して浮かばないように叩きつけ、己を沈めていく三角の頭を持った彼女を。
自分の死によって、海が汚れていく。たとえ目先だけの景色だとしてもそれは、海を愛した男にとっては死に引けを取らない恐怖だったのかもしれない。