兄と弟
文字数 704文字
サッサと実家を去ろうと玄関で靴を履いていると、悠斗が声をかけてきた。
悠斗は今でもここに住んでいる。勤務する大東亜石油の本社が大手町にあり、ここからならチャリでもタクシーでもすぐだから、引っ越すのが面倒だったらしい。
ちなみに俺は就職が決まってすぐ、銀座の外れに1LDKを借りて移り住んでいた。蒼通の近くが便利だったからというよりも、単にオヤジと距離を置きたかったのだ。
いずれ織葉家の後継者として指名されることを、悠斗は知らない。きっとその辺りのことは何も考えず、俺が継ぐと思い込んでいるに違いない。弟とはそういうものだ。
俺としては、悠斗がオヤジから後継者として指名されたときに、あまり俺に気を遣わないようにしてやりたい。
悠斗の声が追いすがってきたが、俺は振り向きもせずに正門を抜け出した。