第１話

「ねぇねぇしのぶ、相澤陸はかっこいいよね」

　線が細いイケメンの相澤陸と細マッチョの安部和也が立ち話をしていた。
　美人の新庄明日香が、目をキラキラさせて山田しのぶに、そう耳打ちした。

　しのぶは、なにも言えず、ただどんよりと濁った眼を明日香に向けるだけだった。

　明日香は、かわいいし、綺麗だし、イケメンの相澤くんときっとお似合い。私なんて、私なんて、声は低くて、ぜんぜんかわいくないし、胸もないし、そんな心の声がしのぶの頭の中でこだましていた。
　
「か、かっこいいよね、明日香」
「何、さっきの変な間、ひょっとしてあなたも相澤狙いかな？　だったら、正々堂々と戦うからね」

　明日香は、右手で握り拳を作り、ゆっくり、しのぶの目の前に突き出した。しのぶは、それに反応して握り拳を作り明日香の握り拳にコツンと当てた。

「あ、しのぶ、相澤狙いって認めたね！」
　明日香がひまわりのような笑顔を顔いっぱいに広げた。

　しのぶは、驚いたように目を見開いて、懸命に自分の行動を誤魔化す言葉を探していた。そして、その唇から、小さな声がこぼれた。
「私なんて」