第2話

文字数 1,099文字

「じゃあ、作戦会議を始めよう」
 いつの間にか、相澤がそばに立っていた。その横には、安部。

 四人は、同期で同じ新入社員。新人研修もいよいよ終わりに近づき、「夢のある図書館」の設計を新入社員が四人グループで考えるという最後の課題を残すだけになった。

「やっぱり、外観にインパクトがある方がええんちゃうか? 例えば一階を駐車場にして、二階以上が、宙に浮かんで見えるように二階を支える柱を目立たなくするんや。ごっつい夢があるで」

 細マッチョの体育会系の安部くんが熱く語る。

「外見のワクワクも必要だけど、お年寄りや小さいお子さんにも来てほしいから、一階を有効に使った方がいいと思う。一階をぶち抜くのは反対かな」
 明日香が言葉を選びながら否定する。

「新庄さんの意見に僕も賛成。図書館は心が落ち着いた方がいいから、窓の外を見た時に、日本庭園が見えるとか、芝生が見えるとかがいいんじゃないかな」

 相澤の発案に明日香がにんまりと笑う。

「私も相澤くんの意見に賛成。建物に入る前のテンションも大事だけど、居心地の良さが一番だから。この時点で安部くんの意見は却下! 絶対窓の外に見える庭っていいよね、しのぶ」

 きっと、明日香は、意見の内容なんて関係なく相澤くんの意見に賛成なんだと思えた。

 急に振られたしのぶは、一瞬息を飲み、ついで首を縦に何度も振りながら「いいと思います」と力のない言葉を漏らした。「却下」とか一刀両断にできる明日香の性格は羨ましいとしのぶは思っていた。

「あ、そら、ええわ。その方向で決まりやな。ほな、空から見た配置を考えよか? どーんと、真ん中に大きな中庭、それを取り囲むように口の字の建物ってどうや?」
「いいかも、相澤くんやしのぶはどう思う?」

 相澤は即座に親指を立てて、いいねの形にする。
 
 しのぶが三人の顔を覗き込むとみんなしのぶを見つめ、しのぶの答えを待っていた。

「庭は、奥行きがあると手入れが大変です。雑草がどんどん生えるんです。うちの実家の庭は枯山水と言いながら土もあり、木もあります。蹲から川が流れているのを白川砂が表して、やがて大海に出ます。龍安寺のような石庭のあるうちの庭でも手入れはある程度手間がかかります。庭は奥行きがないものを周りに囲むだけで十分です」

「すごい! 経験があるだけ説得力があるわ。じゃあ、建物の基本構造はI字型、庭はそれを取り囲むようにL字型で決まり! 文句は言わせないわよ」

 明日香が仕切る。明日香は竹を割ったような性格で、しのぶは、色々と決断してもらって心地いいと感じていた。

「終業時間だ、あとは居酒屋で話を詰めようか」
 相澤くんの意見にみんなが首を縦に振った。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

相澤 陸

 爽やかイケメン。女の子に興味がなく、安部和也のことが気になっている。

山田しのぶ

少し声が低く、胸もなかったため昔はよく男の子に間違えられた。

相澤陸のことが気になっている。

安部和也

細マッチョで大阪出身。関西弁が抜けていない。山田しのぶのことが気になっている。

新庄明日香

ハキハキと自分の考えを言える美人さん。相澤陸のことがスキ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み