第6話

文字数 2,147文字

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大きな台風が去った後、小さな雲は心配していました。
女の子が最近、ベッドに寝たままでいるのです。
目はつむったまま、窓を見る事もありません。
台風の後に、カーテンを開けて今まで見た笑顔の中で1番の笑顔を見せてくれたのに、小さな雲には理由がわかりませんでした。

「あの子は、熱が下がらなくなったみたいだよ」
小さな雲がビックリして声がした方を見ると、
小さな雲の上に、いつのまにか1羽のスズメが休んでいました。
「君、いつもあの子を見ているね。ボクもあの子の窓際で時々、休ませて貰っているんだ」
「病気が悪くなっているのかな」小さな雲が心配そうにききましたが、
「そうみたいだね」そう言うと
スズメはあっさり飛んで行ってしまいました。
それから何日たっても
寝たまま目を開けない女の子を見ていると、
小さな雲は心配で心配でたまりません。
心配しすぎて青くなったり、黄色くなったり、黒くなったり、不思議な色にコロコロ変わっていると、
通りすぎる雲達が「変な雲がこの場所に居ると聞いていたけれど、ここまで変だとは思わなかった」とあきれ顔で流れて行きました。
何を言われようと構わない小さな雲は、
「あの子を助けてください、あの子を助けてください」と毎日必死に祈っていました。
くる日もくる日も必死に祈っていました。
そんな小さな雲がある日、温かい大きな空気に包まれたような気がしてハッとしたのです。
そして自分の周りを静かにゆっくりと回っている龍雲がいる事に気がつきました。

「また、会えたのぉ」龍雲はにっこり笑っています。小さな雲はひっくりかえりそうになるほど
ビックリしました。
まさか、もう一度 龍雲に会えるとは思ってもいなかったのですから。
「どうして」小さな雲は、そう言うのが精一杯でした。
「君の思いが空いっぱいに広がっていたようじゃ、わしに出来る事があるかな?」
小さな雲は、龍雲に出会えたら一度だけ、願いを叶えてもらえると言う噂をおもいだしました。
「一つだけ、お願いを聞いて頂けると言うのは
本当でしょうか」
「そんな噂が広がっているようじゃが、それは
本当でも、ウソでもないとだけ言っておこうかの」
龍雲は大きな片目をパチッと閉じました。
「でも、聞いてみたいのぉ、君にはどんな願いがあるのかな」
「ボクには、大切なお願いがあるんです」
「ほぉ、たとえばもっと体を大きくして欲しいとかかな?君は小さすぎるからな、旅をするには
大きな雲でいる事も重要じゃ」
「違います」
「ほぉ、じゃもっと早く旅ができるように、
つばさでも欲しいとかかな?旅をより楽しむ事が出来るぞ」
「いえ、違います」
「そうか、じゃあもっといろんな形になれるような変身の術を教えてほしいとかかな?」
小さな雲は、そんな術があるのなら女の子の為に教えてほしいと思いましたが、今は違うのです。
「違います。助けて欲しいんです」
「助けて欲しい?」
「あの女の子を助けて欲しいんです」
小さな雲は丘の上の窓を指しました。
「人間の子供を助けたいと言うのかな、
自分の願いではなく、あの子供を助けたいと」
龍雲は小さな雲の願いが最初から解っていたかのように、楽しそうに話していました。
「はい、そうです。あの女の子を助けて欲しいんです」
「不思議な願いもあるもんじゃ、して何故あの
女の子を助けたいんじゃ」
「なぜ、、、、理由はありません」小さな雲の声は消えてしまいそうなほど小さくなりました。
「理由もなく、あの子供を助けたいとな
不思議な話だ」
龍雲はイタズラっぽく話します。
「理由はないんです。ただ、あの女の子が苦しんでいるとボクも苦しいんです。あの子が笑っているとボクも嬉しいんです。ずっと苦しんでいる
あの子に早く笑って欲しいんです」
「なるほどのぉ、そんな願いもあるんじゃな。
しかし、わしはあの子を助けてやる事はできんぞ」
「えっ」期待を持って、龍雲と話していた
小さな雲はビックリしてガッカリしました。
「わしには、出来んが君には出来るだろう。
君は、わしを呼び寄せる程の大きな力も持っておる、それに君はどんなものにでも自分を変える事が出来るんじゃから。
でも、何かを手に入れると言う事は何かを手放す事でもあるがな。
君には前に一度会った事があったな、わしは天へ帰る途中じゃった。君は輝いていたのぅ。旅する事を充分楽しんでおった。今も楽しんでおるかな?」
「はい」
「なら良い なら良い」
龍雲は楽しそうに、小さな雲の周りを回って、ゆっくりと空高く登っていきました。
小さな雲にはわかりませんでしたが、小さな雲の周りを回っている時に、龍雲はそっと金色の粒を2つ小さな雲に埋め込みました。

「あー龍雲が行ってしまう。ボクにあの子を助ける力なんてあるはずないのに。そんなものボクにはないのに」
小さな雲は悲しくなりました。
でも、苦しそうな女の子を見ていると、
そんな弱気な自分を責めました。
あの龍雲が言ってくれたんだ、僕にも何か出来るはず。
ボクにも出来る、出来る、出来る。
ふっと、スズメの言葉を思い出しました。
女の子は熱を出していると言っていた。
熱が下がらなくて苦しんでいる。熱を下げてあげれば元気になれるんじゃないかな。
熱を下げるには、氷だ!でも、ボクは氷になる事は出来ない。でも、雪だるまにはなれるぞ!
そうだ!雪だるまだ!
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