第4話

文字数 1,022文字

あの時、小さな雲はのんびりと低い空に浮かんでいました。
ふと丘の上に目が止まりました。なぜならその丘の上から雨が、小さな雲の方へ登ってくるからです。
「何?」小さな雲はビックリしました。透明な丸い玉がどんどん登ってきます。
近づいてきた玉は、雨粒より大きく、虹色の渦巻き模様がキラキラしていました。
とてもきれいなのです。
小さな雲の近くまでくると、パチッ!パチッっと弾けて消えました。
「雨じゃない」小さな雲はそのきれいな玉をしばらく眺めていました。そして気づいたのです。
丘の上の建物からこの玉は登ってくるのだと。
建物をじっとみていると、1つの窓から小さな女の子が口をすぼめて何かを吹いているのが見えました。
細い筒の中から玉が現れてキラキラ光りながら、小さな雲の方へ飛んできました。
小さな雲がその女の子を見ていると、女の子が玉を吹くのを急にやめ空をみはじめました。
空と言うより、小さな雲をじっと見ています。
「お母さん、シャボン玉みたいな丸い雲さんが
いるよ、見て、見て、可愛いよ」
小さな雲はたくさんの玉を見ているうちに、
いつしか同じような丸い玉の形になっていたのでした。
女の子が嬉しそうな顔をして見ているので
小さな雲もなんだか嬉しくなりました。

すると、今まで楽しそうだった女の子が急にうずくまり、窓から見えなくなったのです。
「ゴホッゴホッゴホッ」
小さな雲にもかすかに聞こえる女の子の苦しそうな声。
「はるちゃん、シャボン玉はもうおしまいね。
一杯吹いたからちょっと苦しくなっちゃったね。
さあ、ベッドに入って」
小さな雲からは女の子の背中しか見えなくなりました。
その時からです、小さな雲は女の子が見えるその場所から動けなくなったのです。
あの時、小さな雲をじっと見ていた女の子の
笑顔、その後の苦しそうな顔を忘れる事が出来なくなりました。

女の子はシャボン玉を吹いた次の日から、ベッドでおとなしく空を見ていました。
小さな雲は、女の子の笑顔がもう一度見たいと思っていました。
そして、丸くなって見せたのです。
すると、空を見ていた女の子の目が急にビックリ
目になり、この間のように笑っているのが見えました。
それから毎日、女の子に笑って欲しくて、
お花になったり、船になったり、うさぎになったり、お団子になったりしていたのです。
その間にも、女の子はベッドから運ばれたり、戻ってきたりをくり返していたので、
小さな雲は女の子の事が気になり、ますます目を離す事が、出来なくなったのでした。
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