第2話 ボスキャラ

文字数 3,266文字

 そんな日が、続いたある日、利用者の新人のリサが、誠の仲間達の所に、来るようになると、どこから聞いたのか? 誠が、ボス・キャラになりたいと思っていることを、知って、誠を捕まえて、ボス・キャラになる様にと、迫まってくる様になった。
 
 「貴方、自分のやりたいことは、やらなきゃダメよ」
 誠は、リサの話を聞きながら、やりたいことがあっても、やっていいことと、やってはいけないことが、あると、思うのだけど……。リサは、「ぷっく」っと膨れて、誠を非難する。
 「根じょうなし、何のために生きているの?」
 誠は、素直に答える。
 「分からない」
 そこで、リサは、宣言した。
 「貴方、ここのボス・キャラになりなさい」
 誠は思った。
 ……ボス・キャラかぁ、悪くない……
 誠は、リサの剣幕に押されて、リサと二人三脚で、ボス・キャラを目指す事になった。

 そこで、誠は、手始めに、支援員さん達のする作業の準備を、勝手に、代わりにするようになった。
 誠は、そうして、作業の準備の手順を理解したら、仲間たちに声を掛けて手伝ってもらうつもりだった。
 誠は、作業の準備をしながら思った。
 ……これは、仲間たちの仕事ではないかもしれない……
 それから1、2か月位経った頃、一人で準備をしている、誠の様子を、みんなは、不思議そうに見ていた。
 やがて、誠は、学習した。
 ……手順はわかった……

 そこで誠は、人の良さそうな仲間達に声を掛け始めた。
 「手伝ってくれませんか?」
 すると、綾香ちゃんが答える。
 「はい」
 二人は、楽しそうに作業の準備をした。
 準備が終わると、誠は綾香にお礼を言った。
 「ありがとう」
 そう言って、誠は綾香に、にっこりと、ほほ笑んだ。支援員のソルトさんは、そんな誠を苦々しく思っていた。
 「誠さん、アンマリ、周りの人達を、自分の思い道理に、動かさないでください」
 「いいじゃん」
 誠は、支援員さん達の事なかれ主義を、眉をひそめて聞いていた。

 そんなある日、光ちゃんは、仲の良い綾香と、誠について感じたことを言いあった。
 「誠の奴、ちょっと、偉ぶっているよね」
 「まあまあ……」
 綾香は、にっこり笑ってその話を濁した。

 誠は、作業所『ハトさん』の仲間たちにとっては、3年しか経ってない、新参者と云うだけでなく、それ以上の何か、悪い所があるようで、彼らの心を何故か? 不快にさせていた。更に、リサと組んで、ボス・キャラを目指している事が、彼らとの間に大きな軋轢を生んでいた。

 いつものように、空気の読めないリサは、誠を見つけると、「こっちに、おいで」と、言って手招きした。
 誠がリサの傍に行くと、リサは、上機嫌で話し出した。
 「おい、誠、リーダーシップの本に書いてあったぞ、褒めて、叱って、励ましてってねぇ……」
 「……」

 誠は、リサの言う、ボス・キャラになる為の硬い話もいいが、リサを自分の彼女にして、一緒に楽しく、「恋人ゴッコ」したい気持ちもあるのだが……。
 そこで、誠は、リサに言った。
 「リサポン、その淡い色のズボン素敵だね」
 「そうか」
 リサは、誠の脱線する話が、リサの硬い話のバランスを 取り、満更でもなく喜んでいた。
 誠も、ちょっと変わった、リサに心奪われていた。
 誠は、そんなリサを見て思った。
 ……リサのことが、少しづつ、好きになっている? ……
 そして、もっと、誠の仲間たちとも、もっと深い、仲間同士の付き合いをしたいと、勝手に考えていた。
 そして、なれるのなら、誠は、ボス・キャラになって頂点に立ってみたいと妄想を膨らませた。

そんな誠には、親友の悠作がいるが、リサとの相性が悪いのである。誠は、賢い悠作を、相談相手にしようとするが、誠の気分が乗ってくると、悠作は、勝手に休もうとするので、深く付き合おうとしても、思うほど当てにはならなかった……。

 リサは、放っておくと、周りの環境に配慮しないで、重戦車の様に、誠と一緒にボス・キャラを目指して、勝手に驀進して、進んで行くようになった。
 しかし、リサと誠は、ものすごい精神エネルギーを消費した割に、満足な結果を得られなかった。
 誠は、その結果が不満だった。

 すると、リサは、何処から、持ってきたのか? 誠に一冊の本を差し出した。
 でも誠は、リサの持ってきた『リーダーシップ』の本に、書かれたように、ボス・キャラを目指す気になれなかった。
 リサは、肩を怒らして興奮している。
 誠はリサに聞いた。
 「リサポン、これでホントにいいの?」
 「これでいいのよ」
 リサの話は、きっと、何かおかしいのだが、リサの説明を聞いていると、誠は、自分の力が足りないのだと、思って、何とか、リサの期待に応えようと、更に、頑張った……。

 そんな様子を見かねた支援員さんの一人のソルトさんが、気に掛けると誠に注意した。
 「誠さん、本のようにはいかないのよ」
 ソルトさんは、無表情に流すように言った。
 誠は、自分が、支援員のソルトさんに一度否定されると、誠の全人格の全てが否定されたという思いになって、言われたことを、理解することが出来なかった。

 誠は、その事を、リサに話すと、「ソルトさんの言う事は、違うわ」と言って、言葉を濁すばかりだった。
 心が折れた、誠は綾香に、つらい気持ちを打ち明けた。
 「みんなのためだったのに……」
 すると、綾香は、可愛そうな人を見る様な顔をしてその場を離れた。
 誠は綾香に、すがった自分に憤慨した。
 ……自分は、こんなに、情けない人間だったのか? ……

 誠は、家に帰って一人で考えてみると、知識と現実は、少し違っている事を理解していった。
 誠は思った。
 ……ボス・キャラを目指すからいけないんだ。これからは、皆の一段上に立って、声掛けするまい……。
 そこで、悩んだ末、今までとは違う方向に、方針転換することにした。

 誠は、次の日、作業所『ハトさん』で、おっかなびっくりしながら、言葉を選んで話しかけていた。
 誠は、一つ一つ、納得できる言葉を、確かめるように、支援員さんの人達に言われたことを守りながら、作業全般でなく、自分の作業に限定して、声をかけた。

 綾香は、今まで作ってきた、作業所ハトさんの雰囲気を、壊すような誠の行動を、何処かで憎んでいた。
 しかし、これからどうなるか、彼らの行く末を見てみたいとも思っていた。実は、綾香は、誠の行動力を、買っていたのである。

 そんな中で、作業が終わると、支援員さんのソルトさんは、誠が、良く使っていた『ありがとう』の声かけを、支援員・特権でするようになった。
 それは、やがて、支援員さんたちの方針が、ほめて伸ばそうとする流れに、向かっていった。
 その事で、作業をしている場の空気が良くなっていった。
 その事で、作業をしている場の空気が良くなっていった。

 そのきっかけを作った、誠は、支援員さんたちから、褒められる事はなかった。
 誠は、何だか、疎外感を感じた。
 誠は、その心を抑え込みながら、頑張った。
 この経験をきっかけに、誠は、仲間たちと一緒に成長する「癒し・キャラ」で、行こうと考える様になった。

 そんなある日、博学な悠作が、誠が、心を入れ替えた事を、感じて一冊の本を貸した。
 「マコたん、この本読んでみる?」
 「いいの?」
 その本は、機能的な記録の付け方であった。
 誠は、その本を元に、他の人達の優れた点を記録して、その点に関連する本を漁って、その事について研究して、自分の行動に、取り入れようと考えた。

 その事をリサに伝えると、リサは憤慨した。
 「思いついたら一直線、初志貫徹しなきゃダメじゃない」
  誠は言った。
 「可能性のないことにエネルキーを、つぎ込むわけには、いかない」
  リサはハッとした。
 ……そんな事を言った、人が、いたっけ、その人は、私に、そんなに強くなくたって、いいじゃないって……
 リサは、ガクッとうなだれて、「いつでも良いから、困った時は、相談に乗るから話して……」
 誠は、「うん」と、寂しそうに一つ頷いた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み