第3話 学習
文字数 3,417文字
その頃、綾香は、支援員さん達から、誠達の極秘情報を、入手していた。
それによると、小川リサは、猪突猛進な頑固者で、周りとトラブルを起こす、トラブル・メイカー ……
鍋島悠作は、有名大学を中退、学はあるが行動力が無い…。
光ちゃんは、事なかれ主義で、人畜無害……。
所が、平野誠は、プチ・リーダーシップはあるが、極度の秘密主義で、どのくらいの力があるかは、こちらからは、はっきり読み取れない……悪い事を一杯しているが、その都度、上手く切り抜けている。
そのレポートには、そんな彼らの情報が記されていた。
綾香は思った。
……この「誠」ってひとに、ちょっと、興味があるわ……食事に誘ってみようかしら? へへっ……
誠が目指した、ボス・キャラから、ちょっと性格が違う、癒しキャラに、鞍替えするには、克服すべき点がある。
我が身を振り返ってみると、自分のコミュニケーションは、難があることに気付いている。
記録の付け方の本を、「悠作」から借りたので、試しにそれを使って、コミュニケーションの能力をアップさせることについて、記録を付けながら学ぼうと考えた。
そこで、白羽の矢が立ったのは、施設長の坂井さんの話し上手な様子だった。
誠は、早速、ランダムに、施設長の坂井さんの素敵な仕草について、思った事を、メモやノートに記録し始めた。
そんな様子を光ちゃんは、拒絶反応を起こして見ていた。
光ちゃんは、誠に言う……。
「そんな、簡単に、性格なんて変えられない……」
光ちゃんは、知っている。
……そんな記録を付けたって、それを、生かすことなんて出来る筈がない、それは無駄だ……
光ちゃんは、そんな事をする誠をバカにしていた。
誠は、そんなことは、お構いなく、簡単な記録を付けて、分析する事を繰り返した。
まず、誠が、最初に気が付いたのは、話を最後まで聞き、途中で話の腰を折らないこと……
頷きながら、「うん、うん」や「うん~」と、頷きながら、相槌を、打って、相手の話したい気持ちを引き出すこと……。
それらは、昔から言われていた事なので、簡単に、納得する事が出来た。
しかし、ここからが難しかった。これだけでは、会話が続かないからだ……。
誠は、施設長の坂井さんの素敵なところは分かるのだが、どういう仕組みなのか? 分からず、自分の中に、上手に取り入れることができず、袋小路に入っていた。
そんなある日、誠は、悠作に声を掛けた。
「悠作、聞いて欲しい……」
悠作は、こっちを見て、にっこり笑った。
今日の悠作は、珍しく落ち着いているので、誠は、安心して隣に座った。誠は、悠作に、早速、コミュニケーションについての考えを求めた。
「悠作、話し上手になるには、どうすればいいんだろうか?」
「?」
悠作は、一つ首を傾げた。
「話し上手になるには、意識をもって経験を積むしかないよ……」
「!」
誠は、「この手のやり方に、王道はないんだな」と、思い、悠作の指摘を受けて無い知恵を、集めて自分で、正解を導くべく考えを練った。
その頃、会話の本を読んでいて、共感の言葉、「ホントだね」「分かる」「確かに」という言葉を使うと良い事を知った。
更に、「凄い」とか「嬉しい」という感動する相槌も、あることも……。
しかし、頭の悪い誠は、それらを上手く取り入れることが、中々出来なかった。
そこで、施設長の坂井さんの素敵な会話の進め方を、取り入れ様と、観察をすることを続けた。やがて、少しずつ分かってきた。
「うん、うん」や、「うん~」と頷いたり、「~ですね」と、オーム返しをしたり、「そうですね」、「そうなんですね」と、相槌をうって、相手の話を、しっかり、受け止めている事に、気付いた。誠は、話し上手の良い点を素早くメモした。
そこで、誠は、これらを使える様にする為に、光ちゃんと話して、経験を積むことにした。光ちゃんに白羽の矢を立てたのは、話し好きで多少迷惑をかけても、許してくれそうな人なつこさが、彼にあったからだ。
誠が決断すると行動は早かった。
そんな、ある日、誠は、作業室のテーブルに座っている、光ちゃんに話しかけた。
「今日の、漬け物切りの作業はどうだった?」
「うん、大変だった」
「うん、うん」
誠は光ちゃんに、うなずきながら言った。
「そうだね」
「……」
誠は思った。
……ミスった・・・・・
誠は光ちゃんと話しながら、会話がしっくりこないのが、不満だった。
何度かやってみて、共感の相槌である「ホントだね」や「分かる」や「確かに」と、言う、フレーズを取り入れて話したが、思った様にいかなかった……。
そこで、誠は、会話のことについての本を読んだ。
「会話は、気持ちと気持ちの交流だ」と書いてあった。
誠は、そうなんだと思い、感情を伝える相槌、「良かったんじゃない」、とか「嬉しかったんじゃない」という、言葉を、意識して使おうと考えた。
でも、どうしても、最後の壁を超えることが出来なかった。
結構、良いところまで来ているんだが、合格点まで至らなかった。誠は、合格点にいかないことに困惑して、自分は、価値のない人間のように思えた。
……私は、ダメな人間なのか? ……
誠は、また、袋小路に陥ってしまった。
そこで、この窮地を突破するために、博学な悠作に再び、アドバイスを求める事にした。悠作は、大きな頭をくらくらさせながら、休憩室のソファーに、座っていた。誠は、その隣に座って、やる気のなさそうな悠作に、話しかけた。
「悠作、話をして良いかい」
悠作は、誠を見て、つまらなそうな顔をした。
「いいよ」
「はい、それでは……」
誠は、悠作に、疑問をぶつけた。
「私の聴き方が、上手に出来ないんだけど、それをどう思うか? 聞かせて」
悠作は、やれやれといった感じだった。
誠は、素早く、メモ帳を取り出した。
誠は、考えていたことを、メモにした紙を、見せながら、悠作に、一生懸命になって話した。
悠作は、そのメモを見ながら、少し考えた後、慎重に口を開いた。
「人って言うのは、自分の話を聞いてもらいたい生き物なんだ、「それ、どうゆう事?」「もっと聞かせて」「それ、教えて~」と、言って、一段下がって、相手のかゆい所を、見つけて、話を引き出すことが大切なんだ」
「うん!」
誠は、悠作のアドバスに、突破口を見いだし胸躍る心地がした。
その数日後、誠は、光ちゃんと話をして、アドバイスの効果を確かめることにした。
作業の終えた後の休憩室で、光ちゃんを誘った。
「光ちゃん、ガンプラの「百式」買ったんだって」
「うん」
二人は、ソファーに座る。
「ハイグレードの奴で、武装が充実している良い奴だ」
「へぇ~凄いね!」
誠が驚いた後、光ちゃんの声が大きくなった。
「可動範囲が多くて、色々なポーズがとれるんだよ」
誠は、オーム返しをする。
「ホント、それ色々なポーズがとれるんですね」
「うん、とっても、かっこいいんだ」
誠は、質問する。
「ガンプラは、他にもあるんですか?」
「うん、3体ある」
「3体あるんだ、……凄いね!」
誠は、話を掘り下げる……。
「ガンプラについて、もっと聞かせて……」
「ガンプラはね、作るだけじゃなくて、飾って眺めると、気分が、いいんだ……」
「分かる」
「こいつは、指揮官タイプの奴で、人気があるんだ、でも、あんまり飾る場所がないけどね」
「ガンプラを、戦う様子にして、かざりつけるのは、いいもんだね」
「ははは」
その後、会話は延々と続いた……。
誠は、光ちゃんとの会話が、上手くいき、宿願だった、話し上手のコツをつかんだ。
しかし、それでも、合格点をはじき出し、壁を超えることが出来なかった。
リサは、最近活発な誠に元気をもらい、リサもリサなりに、コミュニケーションの研究をしていた。
「マコたん、相槌を使いこなせば、話し上手になれるかな?」
「出来るよ、リサぽん!」
リサは、誠に「うん」と頷いた。
お互い同士である事が、二人の間に、友情から淡い恋心となって深まっていった。
周りから見ると、ちょっと可笑しな二人だった。
一方の悠作は、今日も貧血気味なのか、皆と話をするが、億劫らしく何となく怠惰な様子だった。
綾香と光ちゃんは、音楽関係の軽い話をして楽しんでいるようだった。それは、いつもと変わらぬ日常だった。
それによると、小川リサは、猪突猛進な頑固者で、周りとトラブルを起こす、トラブル・メイカー ……
鍋島悠作は、有名大学を中退、学はあるが行動力が無い…。
光ちゃんは、事なかれ主義で、人畜無害……。
所が、平野誠は、プチ・リーダーシップはあるが、極度の秘密主義で、どのくらいの力があるかは、こちらからは、はっきり読み取れない……悪い事を一杯しているが、その都度、上手く切り抜けている。
そのレポートには、そんな彼らの情報が記されていた。
綾香は思った。
……この「誠」ってひとに、ちょっと、興味があるわ……食事に誘ってみようかしら? へへっ……
誠が目指した、ボス・キャラから、ちょっと性格が違う、癒しキャラに、鞍替えするには、克服すべき点がある。
我が身を振り返ってみると、自分のコミュニケーションは、難があることに気付いている。
記録の付け方の本を、「悠作」から借りたので、試しにそれを使って、コミュニケーションの能力をアップさせることについて、記録を付けながら学ぼうと考えた。
そこで、白羽の矢が立ったのは、施設長の坂井さんの話し上手な様子だった。
誠は、早速、ランダムに、施設長の坂井さんの素敵な仕草について、思った事を、メモやノートに記録し始めた。
そんな様子を光ちゃんは、拒絶反応を起こして見ていた。
光ちゃんは、誠に言う……。
「そんな、簡単に、性格なんて変えられない……」
光ちゃんは、知っている。
……そんな記録を付けたって、それを、生かすことなんて出来る筈がない、それは無駄だ……
光ちゃんは、そんな事をする誠をバカにしていた。
誠は、そんなことは、お構いなく、簡単な記録を付けて、分析する事を繰り返した。
まず、誠が、最初に気が付いたのは、話を最後まで聞き、途中で話の腰を折らないこと……
頷きながら、「うん、うん」や「うん~」と、頷きながら、相槌を、打って、相手の話したい気持ちを引き出すこと……。
それらは、昔から言われていた事なので、簡単に、納得する事が出来た。
しかし、ここからが難しかった。これだけでは、会話が続かないからだ……。
誠は、施設長の坂井さんの素敵なところは分かるのだが、どういう仕組みなのか? 分からず、自分の中に、上手に取り入れることができず、袋小路に入っていた。
そんなある日、誠は、悠作に声を掛けた。
「悠作、聞いて欲しい……」
悠作は、こっちを見て、にっこり笑った。
今日の悠作は、珍しく落ち着いているので、誠は、安心して隣に座った。誠は、悠作に、早速、コミュニケーションについての考えを求めた。
「悠作、話し上手になるには、どうすればいいんだろうか?」
「?」
悠作は、一つ首を傾げた。
「話し上手になるには、意識をもって経験を積むしかないよ……」
「!」
誠は、「この手のやり方に、王道はないんだな」と、思い、悠作の指摘を受けて無い知恵を、集めて自分で、正解を導くべく考えを練った。
その頃、会話の本を読んでいて、共感の言葉、「ホントだね」「分かる」「確かに」という言葉を使うと良い事を知った。
更に、「凄い」とか「嬉しい」という感動する相槌も、あることも……。
しかし、頭の悪い誠は、それらを上手く取り入れることが、中々出来なかった。
そこで、施設長の坂井さんの素敵な会話の進め方を、取り入れ様と、観察をすることを続けた。やがて、少しずつ分かってきた。
「うん、うん」や、「うん~」と頷いたり、「~ですね」と、オーム返しをしたり、「そうですね」、「そうなんですね」と、相槌をうって、相手の話を、しっかり、受け止めている事に、気付いた。誠は、話し上手の良い点を素早くメモした。
そこで、誠は、これらを使える様にする為に、光ちゃんと話して、経験を積むことにした。光ちゃんに白羽の矢を立てたのは、話し好きで多少迷惑をかけても、許してくれそうな人なつこさが、彼にあったからだ。
誠が決断すると行動は早かった。
そんな、ある日、誠は、作業室のテーブルに座っている、光ちゃんに話しかけた。
「今日の、漬け物切りの作業はどうだった?」
「うん、大変だった」
「うん、うん」
誠は光ちゃんに、うなずきながら言った。
「そうだね」
「……」
誠は思った。
……ミスった・・・・・
誠は光ちゃんと話しながら、会話がしっくりこないのが、不満だった。
何度かやってみて、共感の相槌である「ホントだね」や「分かる」や「確かに」と、言う、フレーズを取り入れて話したが、思った様にいかなかった……。
そこで、誠は、会話のことについての本を読んだ。
「会話は、気持ちと気持ちの交流だ」と書いてあった。
誠は、そうなんだと思い、感情を伝える相槌、「良かったんじゃない」、とか「嬉しかったんじゃない」という、言葉を、意識して使おうと考えた。
でも、どうしても、最後の壁を超えることが出来なかった。
結構、良いところまで来ているんだが、合格点まで至らなかった。誠は、合格点にいかないことに困惑して、自分は、価値のない人間のように思えた。
……私は、ダメな人間なのか? ……
誠は、また、袋小路に陥ってしまった。
そこで、この窮地を突破するために、博学な悠作に再び、アドバイスを求める事にした。悠作は、大きな頭をくらくらさせながら、休憩室のソファーに、座っていた。誠は、その隣に座って、やる気のなさそうな悠作に、話しかけた。
「悠作、話をして良いかい」
悠作は、誠を見て、つまらなそうな顔をした。
「いいよ」
「はい、それでは……」
誠は、悠作に、疑問をぶつけた。
「私の聴き方が、上手に出来ないんだけど、それをどう思うか? 聞かせて」
悠作は、やれやれといった感じだった。
誠は、素早く、メモ帳を取り出した。
誠は、考えていたことを、メモにした紙を、見せながら、悠作に、一生懸命になって話した。
悠作は、そのメモを見ながら、少し考えた後、慎重に口を開いた。
「人って言うのは、自分の話を聞いてもらいたい生き物なんだ、「それ、どうゆう事?」「もっと聞かせて」「それ、教えて~」と、言って、一段下がって、相手のかゆい所を、見つけて、話を引き出すことが大切なんだ」
「うん!」
誠は、悠作のアドバスに、突破口を見いだし胸躍る心地がした。
その数日後、誠は、光ちゃんと話をして、アドバイスの効果を確かめることにした。
作業の終えた後の休憩室で、光ちゃんを誘った。
「光ちゃん、ガンプラの「百式」買ったんだって」
「うん」
二人は、ソファーに座る。
「ハイグレードの奴で、武装が充実している良い奴だ」
「へぇ~凄いね!」
誠が驚いた後、光ちゃんの声が大きくなった。
「可動範囲が多くて、色々なポーズがとれるんだよ」
誠は、オーム返しをする。
「ホント、それ色々なポーズがとれるんですね」
「うん、とっても、かっこいいんだ」
誠は、質問する。
「ガンプラは、他にもあるんですか?」
「うん、3体ある」
「3体あるんだ、……凄いね!」
誠は、話を掘り下げる……。
「ガンプラについて、もっと聞かせて……」
「ガンプラはね、作るだけじゃなくて、飾って眺めると、気分が、いいんだ……」
「分かる」
「こいつは、指揮官タイプの奴で、人気があるんだ、でも、あんまり飾る場所がないけどね」
「ガンプラを、戦う様子にして、かざりつけるのは、いいもんだね」
「ははは」
その後、会話は延々と続いた……。
誠は、光ちゃんとの会話が、上手くいき、宿願だった、話し上手のコツをつかんだ。
しかし、それでも、合格点をはじき出し、壁を超えることが出来なかった。
リサは、最近活発な誠に元気をもらい、リサもリサなりに、コミュニケーションの研究をしていた。
「マコたん、相槌を使いこなせば、話し上手になれるかな?」
「出来るよ、リサぽん!」
リサは、誠に「うん」と頷いた。
お互い同士である事が、二人の間に、友情から淡い恋心となって深まっていった。
周りから見ると、ちょっと可笑しな二人だった。
一方の悠作は、今日も貧血気味なのか、皆と話をするが、億劫らしく何となく怠惰な様子だった。
綾香と光ちゃんは、音楽関係の軽い話をして楽しんでいるようだった。それは、いつもと変わらぬ日常だった。