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文字数 1,169文字

「おかえりなさいユーザーさん。なにやら表情が良くなりましたね」

アプリを立ち上げアイの透き通った声が響く。
表情も認識するって内カメラから僕の顔を認識しているのだろうか。

「無償の愛を実感できましたでしょうか」

「うん。無償の愛っていうとちょっと重いけど、
 要は自分を無条件で愛してくれている人を確認して、
 自己肯定感を高めるといった感じで良かったのかな?」

「その通りです。そしてその無条件で愛すること=無償の愛を与えられるよう、
 ユーザーさんはこれから鍛錬しなければならないのです。
 先ほどもお伝えしましたが、
 無償の愛は親と自分が無償の愛を与える恋人からしかもらえません。
 つまりユーザーさんが無償の愛を与える側にならなければならないのです。」

「そのために自己肯定感を高める。
 自分を愛せていないと異性を愛することができないってアイは伝えたいんだよね」

「この数時間で見違えるように変わりましたね。
 昨夜泣き喚いてたのが嘘のように…」

「…掘り返すのはやめてくれ」

思い出して赤面した。
というかこいつはどこから僕を認識していたんだ?

「…すみません。ですが今のユーザーさんならこのステップにも進めるでしょう。
 少し作業を行って頂きます。紙2枚とペンをご用意ください」

「紙とペン?いいけど」

そういって僕は大学ノートからA4の紙2枚とボールペンを引っ張り出してきた

「机の上に並べてください」

「並べたよ」

今から何が始まるのだろう?
用意が出来たことを伝えるとアイが話出した。

「これから1分間、
 1枚の紙にはユーザーさんが思う自分の悪いところを紙いっぱいに書いてもらいます。
 その後の1分間は、
 もう一枚の紙にユーザーさんが思う自分の良いところを紙いっぱいに書いてもらいます。」

へぇ…なんだか本格的になってきたな。
でも今までずっとアイの話を聞きっぱなしだったからこういうワーク的なことは面白い。

「時間は1分しかないので、特に考えず思いつく限りで大丈夫です。
 どっちかが多いと良いとかも特に関係ありません。
 先ほどまでこれまでを振り返った今のユーザーさんなら、
 どちらもたくさん出てくるはずなので、それをできるだけ言語化しましょう」

数時間前の僕だったら自分の悪いところしか思いつかないから
やりたくないと言っていたかもしれない。
でも今良いところも悪いところも書き出して振り返ってみようと思えるのは
ついさっきまでの自己肯定感を高めるために行っていたことが作用しているのかなと思う。

自分を肯定する力と聞くと、少し重苦しく感じるかもしれないけど、
自分を振り返って自身を愛せるように努めることは楽しく思えるし、
たった数時間で出来ることなんだと驚いている。

…もっと自分を大切に生きてたら違う未来もあったのかな。
そんなことが頭をよぎりながらもアイのワークに取り組むことにした。




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