第3話 猪退治

文字数 990文字

 木刀を取り、八作は再び集会所に戻った。
 「私が猪を退治しよう」
 集会所に集まった人々に高らかに八作が宣言した。
 猪が村に来たときは、農具を投げるなどして追い払うが、八作は明確に退治すると宣言した
 「できるのか」
 「私の名声は知っているだろう。今は木刀しかないが猪程度自分が倒して見せよう」
 村人にも名声は届いており、村人たちは八作ならできる、任せられると口々に賞賛し猪のでた場所まで案内された。
 ほかの村人は農具やたいまつをもって一緒に向かった。

 向かった先、猪はまだそこにおり畑の作物を掘り返していた。
 これは好機と八作は猪の後ろから近づき一閃を放った。
 
 しかし木刀は折れ、猪にはまるで効いていないように見えた。
 しかし痛みはあったのだろう。猪は息を荒立てこちらに向き返ろうとしていた。
  
 倒せなかった。

 長年の剣術修行で培ってきた技術・力がまるで野生の猪には通じなかった。
 野生の獣というのはここまで強いのか。
 ガラガラと自信が崩れる音が聞こえる。

 ここまでか…

 「八作大丈夫か!」
 村人から心配の声が上がる。木刀が折れるのを見て手に持ったものを投げて追い払う用意を始めていた。
 いくつか農具が投げつけられ、猪はそちらに気がそれる様子も見えた
 八作は自分に向けられたさっき正気に戻り再度猪に向かった
 折れた木刀の先を猪の目に突き立てた。さすがにこれは応えたのだろう。猪は叫び声をあげた。続けざまに投げられた農具を使ってたたきつけ、たたきつけ、たたきつけた。
 いつの間にか村人も近寄り、村人全員で猪を囲み退治した。
 いつもの命のやり取りがなく一瞬で決まる勝負ではなく、命を懸けた泥臭い戦いであった。
 
 倒した猪はどうするか。話し合った結果、食べることとなった。
 村の人は訝しんだが、兎をたべるのも猪を食べるのも一緒ごとと納得してくれた。
 その日の晩、村では猪鍋がふるまわれた。村に立ち寄ったお坊さんも参加していた。
 「良いのですが?」
 「ふるまわれたものをいただかないのも不躾でしょう」
 村を挙げてのちょっとした宴の中、八作にはある思いが渦巻いていた。

 猪を退治に当たり、村人は退治する勇気や実際に先陣を切ってくれた八作に感謝をしていた。しかしながら八作にとっては野生の強さ、自分の弱さ・ふがいなさをかみしめていた。
 そして宴が終わるころ八作に自分の強さの先が見えてきた。
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登場人物紹介

八作:武家屋敷に努める小姓。正式な武士ではないものの周りでは有名な強者として知られている

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