花火(現代詩手帖新人作品選外佳作)

文字数 956文字

赤い閃光が散らばった音の記憶に、眺めていた線路が続いている。今でも思い出す轟音に弾けた輪郭が寄り添っていく。伝わってくるのは白い幻影で、夏の風に揺れる草木が匂いを纏う。いつだったか忘れた光景の中に、憂鬱が情景を拭っていった。誰かの視線と共に、火花が舞い散っていく。記号を数えながら、歩き始める人々。手すりのざらついた感覚を熱気が覆いつくしている。いつだったか探していたものは痕跡だった。光が何度も頭上を通過して、いつかの感覚に従って伸びていく。それは日常の中に含まれて、部屋の中で書類を探していると、信号が訪れる。コーヒーの匂いと朝の日差しが混ざり合って、関連しているものは、ただ霧散していくようだった。だからあの静寂に対して、何も動作せずに、時間が過ぎていく。果物の甘い匂いに寄せて、顔を洗うと、空中を想像が巡っていった。誰かの言葉が虚しく響いて、簡素なものになっている。今でも覚えているのは明るい光の中で、散りばめたものは帰ってくることがなかった。虚ろな表情で、扉を開ける。夏の終わりの風が吹き渡って、遠くまで穏やかに照らしていた。どこかにあるはずの、静寂の中に、今でも数えていた印がある。流れていくものはマンションの階段から下に落ちていった。挨拶をしても、ただそれが無意味なようで、目覚めた時の願いに似ている。テーブルの上に散らばったパズルを集めていて、そこにあるものは憂鬱な絵画だったから、忘れていたものを取り戻そうとしているみたいだった。誰も訪れることのない場所にある小さな幻想が、短く散って消えていく。確かにその光景は夜を含んでいなかったから、辿っていくのも無意味に感じた。昼の食事の中で、街灯の下を帰っていく。アスファルトの地面を踏む音と、誰かの面影と共に夢が消えていく。だからさっきまで見ていたことは、少しだけ輪郭が浮かんだ。もうじき理解されるかもしれない感情の中で、空を雲が移ろっていく。探していたはずのものは、奇妙な軌道を描いていた。その中にあるはずの出来事が回想されて、夜風は秋の到来を予感させる。風に揺れる草の匂いと共に、まだ繋がっている断片的な光の中に、知るはずのない洞窟が続いていた。ただ前に歩いているのは、探していたものが宙を舞っていくからだ。季節はもうじき混ざり合って形を変える。
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