蜃気楼(現代詩手帖新人作品選外佳作)

文字数 962文字

思い返してみれば、あの日に見た部屋の中で、羅列する文字を眺めていた。誰かが話しかけてきて、煙のように消えていくのを静かな目で見ていた。それはいつしか歪みに変わり、夢の中を何度も訪れる。黒い影には、空白だと言われたが、自分でも形跡が掴めずに涙の色がわかった。いつものように食事が終わり、漂う憂鬱の中を過っていった。また話が続いていて、管理されているので、画面が消えた。想像しても、あらゆるものが宙を舞っていて、確かめることはできず、結びついたパズルのピースを脳内で埋めていく。また閃光が貫いたから、別に穏やかな静寂が続いているだけで、他には何もないのに、あの人は会釈をして、先へと繋いでいったらしい。漂う絵画に似た傷跡が、プラネタリウムの場所を示している。間違っていた幻影の中で、様々な音が繰り返し響き、遠くへと霧散していった。また熱が始まったので、本を閉じ、耳を傾ける。その中にある記号が、いつまでも存在しているわけではないと言っていた。だから、沈んでいって共存しているような感覚で、体が動くのを見ていた。午後になり、夕日が街を照らす時、いつものように彼らは通り過ぎていく。僕は絡みついた束を解きながら、デスクに散らばった書類を集めていた。白い部屋の中に、誰もいない時間。安息と共に、祈りを込めて、それは周囲の言葉も同じようにしているから、時間を割きながら、地面に降り積もっていく。砕け散ったガラスの破片に、持っていたナイフが、叩き続けた先にあるのは、形の歪んだ残像だった。今日も、目を閉じて、先を想像すれば、次第に世界の色が変わっていき、また思考の中を結び付けていた。誰かが書き残した木片が、未だに街を覆っている。その中を探してみようと、跡形もなく消えていった輪郭を思い出す。建物を出ると、アスファルトの道路が塗り潰されていた。だからそこに映っていたのかもしれないと思いながら、蝶が舞っているのを見ていた。今ではもう静かに飛行していた物体が、分子に分かれて、新たな推測を始めている。電柱には書き残した傷が、幾重にも重なっていた。カーテンが風に揺れて、子供たちの声が響いている。その中を進んでいけば、いつか見た星空に願いを込めて、繋いでいく。今でも進行していた旋律が鳴り響いた先にある、道路の表示を繰り返し、眺め続けていた。
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