第14話 契約金

文字数 1,386文字

 富士のスーパーGT第2戦を終え、タクは優香と一緒にヨーロッパに旅することを決めた。スイスでの目的はタクのアパートや財産の整理だが、もともとゴールデンウィーク中に優香は姉の優美を訪ねる予定になっていたから、二人はスイスに4日間滞在し、その後アムステルダムを訪ねる計画を立てる。二人はそのまま帰国するかスイスに戻るかで意見が分かれた。

 タクはジュネーブとアムステルダムの間を自分の愛車で往復するつもりでいたが、その距離は片道千キロと言う。
「そのくらいの距離、優香が少し手伝ってくれたら一日で移動出来ちゃうけどね」
「さすがにそれは止めておいた方が良いと思う」
「乗り慣れた自分のクルマの方が移動は楽なんだ」
「タクのクルマってフェラーリでしょ? スポーツカーにまる一日乗り続けるのは私も自信がないし、何よりもタクの身体が心配」
「そうか。手放すつもりだから最後にゆっくりドライブしてあげたかったんだ。アパートのオーナーに時々エンジン掛けて貰うよう頼んでたけど……いきなりの長旅は難しいか」
「そうそう。クルマだって半年眠ってて、いきなり叩き起こされたら嫌がると思うよ」
「そうだね」とタクは笑った。

「それで、フェラーリは売ってお金にするとして。タクの預金って今どのくらいなの? これからその管理も私がするんでしょ?」
「契約金をアテにしてたから、口座にはそれほど残ってない。日本の銀行のことあまり詳しくないけど、スイスではプライベートバンクで資金運用してるから、それを全部合わせると300万ユーロくらいかな?」
「300万ユーロって? 日本円にするとどのくらい?」
「3億円ちょっと」
 突然目を剥いた優香の顔を見てタクは爆笑した。
「そんなにおかしい?」
「だって、さかなクンみたいな顔するからさ」
「そりゃ、ぎょぎょぎょってなるよ。だって億万長者じゃない!?」
「たいしたことないよ。今年の契約金の方が多いはずだったし」
「逃がした魚の大きさ聞くみたいだけど、今年の契約金っていったいいくらなの?」
「交渉中だったけどね。目標はマルク・マルケスと同じ一千万だったけど、とりあえずマルクの半額から交渉をスタートしたから、500万ユーロ以上かな? 」
「5億ってこと?」
「そうだね。5億円以上」
 今度は優香が腹を抱えて笑い出した。
「あー、なんか馬鹿みたい。世の中不公平だわ。タクの言うとおり家賃10万円受け取っておけばよかったね」
「今月からそうしようか?」
「ううん。そんな現実的な話じゃないの」
「でも、僕はMotoGPでは3番目か4番目くらいだよ。ホルヘ・ロレンソの契約金は日本円だと15億くらいの筈だし」
「すごい……。ロレンソってF1の人?」
「いや。F1はフェルナンド・アロンソ。彼は3年契約で日本円だと50億くらいかな? ホルヘ・ロレンソはドゥカティと契約したMotoGPチャンピオンだよ。優香もいろいろ勉強しないとね」
 優香は深く溜息をついた。
「タク、ごめんね。私一年で何億円も稼ぐ人のマネージャーになったわけね?」
「でも、今年の契約金はMotoGPの100分の1以下だったよ」
「そんなに安いの?」
「出走したらボーナスがプラスして支払われるけどね。この間は入賞したからかなり貰える筈」
「わかった。今度は私が交渉する」
「任せた」
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