第30話

文字数 1,014文字

 四人の視線の先には二人の男が立っていた。四人は岩陰に隠れて竜たちと男二人の様子をみる。お互いこちらのことなど一切気づいていないようで戦い続ける。
 一人は小太りの顎に濃い髭を生やし、鎧を着て斧を抱えている。一方もう一人は白い外套を着ていて、スラっとしているが、肩幅が広くガタイは良い。そして高い鼻に吊り上がった目をしており、非常に整った顔だ。右手には本を抱えていた。
 二人の周りを囲んで飛び回っていたうちの一匹が向きを変えながら加速して向かってゆく。男が斧を肩から下ろし右手だけで構えた。左手を掌が竜に見えるように前に突き出す。すると、竜が大きく開けた口を閉じて男の全身をえぐろうとした直前、男を覆う大きな鋼の円盤状の盾が目の前に現れた。凄まじい勢いで突進した竜だが、盾にぶつかると牙が折れてそこから血が流れる。しかし勢いを止めずにそのまま押し潰そうとする。その鋭い目つきは怒りに満ちていた。男と竜の力比べが始まる。周囲の地面にひびが入り、空気が震える。竜とは対照的に男はニヤリと笑う。そして、その盾ごと竜を地面に叩きつけた。
(相当なパワーだな)
ルミナリスが小声で呟くと、ルミオがごくりと唾を飲んだ。
そのまま男は竜の背中を押さえつけて斧で翼を引き裂き始めた。
「オオォォ!」
竜の悲鳴が響き渡る。見るだけに耐えられなくなった一匹が翼を剥ぐ男に突進した。しかしその竜の背中には、いつの間にかもう一人の外套を着た男が飛び乗っており、拳を打ち下ろした。竜は凄まじい勢いで地面に落ちて行き、激しい音とともに地面に激突した。
 二匹がやられるのを見た他の竜たちは、手出しをしなくなったものの、より強く咆哮している。なかには大粒の涙を流すものもたくさんいる。
「やつらはこの前出会ったギルベルトとかいうやつと同じ護衛軍ではないのか?」
ハルシウスが尋ねると、プリシラは口に手を当てて既に考えていた。しかし、その内容は三人とは少しずれているようだった。
「うん、それもそうなんだろうけど……」
じっと目を細めて二人の様子を伺う。
 すると、外套の男が急にこちらに振り向いた。
「誰だ! そこにいるのは!!
もう一人の男が驚いてこちらを向く。岩陰に隠れて見えないはずだが気づかれたようで、二人は軽い身のこなしで崖を登りこちらにやってきた。ゆっくりと歩きながら斧を持った男が叫ぶ。
「俺らは天下の護衛軍だぞ。隠れてないで出てこい!!
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