第23話

文字数 2,062文字

 小人は、右には短剣を装備したいかつい顔の人狼を、左には短い杖を腰にかけてニヤニヤしたカエルの男を連れていた。二人ともドームの入り口に描かれていた花と同じデザインの薄い甲冑を身に纏っている。
「ほう、最近は香水としても使うのか。時代が進んだの。……ところでお主は誰なのじゃ?」
ハルシウスが姿勢を低くして男を覗き込むと、自己紹介を始めた。
「これは失礼しました。わたくしこのドームを取り仕切るオットガルと申します。こちらの人狼はヘルゲ、カエルの男はペッシモです。わたくしの護衛をして貰っています」
「ほう、この広いドームはお主のか! やるではないか」
「確かに、この街で一番大きいドームですもんね」
そうルミオが頷いてると、オットガルはルミオに顔を向けた。上から下まで全身を見て、最後に槍で目の動きを止めた。
「その槍、とても良いものですね。もしかしてお金持ちの一族の方ですか?」
ルミオは苦笑いをしながら両手を振って否定する。
「いえ、小さい集落で暮らしていただけなのでそんなお金持ちではありませんよ」
「そうなのですか。綺麗に家紋のようなものが刻まれていたもので。……そういえばみなさまこの国へいらっしゃったのは初めてですか?」
四人が頷くと、オットガルは人狼のヘルゲの頭を下げさせて同じ高さに持って来させると、何やら耳元で話し始めた。話終わったのだろうか、ヘルゲはそのまま去っていった。
「ヘルゲにわたくしが暫くここを離れると伝えて貰いました。ここで会ったのも何かの縁です。時間があるのでしたら畑をご案内しますがいかがでしょうか?」
三人が黙ってプリシラの方を見る。
「私の用事はもう少しかかりそうだから、お言葉に甘えて見学しよっか」
 四人はオットガルに連れられて近くの畑へと向かった。少し歩いただけにも関わらず、景色は大きく変わった。畑では、それまで見なかったより色濃い花々が育てられていた。ドーム内と同じ特別甘い匂いが漂う。畑ではオットガルと同じ小人達がせっせと仕事をしていた。
「ここは一族経営だったんですね」
「はい、販売は他の方々にも手伝って頂いておりますが、育てるのはわたくし達だけでやっております。作り方が難しくて一族の秘密でもありますからね」
「確かにわしの部下にも育ててるものがおったが大変そうじゃったな」
ハルシウスが何食わぬ顔で言うと、突然オットガルが目を大きく開いた。
「この花をこの国以外で育ててる所があるのですか⁉」
ハルシウスはオットガルの勢いに後退りする。
「あ、ああ。昔の話じゃ、作ってたやつはもう死んでおるぞ。なんじゃ、そんなに珍しいものなのか?」
「あ、もう亡くなられてたんですか。……ここ以外で作られたという話を聞いた事がないだけです。余り気候には影響されませんし、作られている方がもしかしたらいたのかもしれませんね」
暫く沈黙が続いたが、ルミオが畑に目を戻した。
「それにしても本当に大きい畑ですね。オットガルさんの家族がずっとこの畑を持っていたんですか?」
「いえ、一族の畑は元々小さくて細々とやっていました。しかし、わたくしとチェスリンで土地を買って規模を増やしたんです」
「チェスリン? 護衛軍の一人の?」
プリシラが少し声を大きくした。
「はい、わたくしと彼は昔からの大親友でしてね。今では彼は護衛軍にまで上り詰めてしまいましたが。最近彼と畑の話をしててやってみないかと誘われたのです」
微かにオットガルは笑っている。
「護衛軍の中でも新しく入った方だし情報無いと思ってたら小人族の出身なんだ。それなら納得だね」
一通り畑を見学すると、オットガルは何かを思いついたようにぽんと手を叩いた。
「今日はわたくしの屋敷内にある宿に是非泊まっていきませんか? もっと皆様のお話が聞きたいです。丁度空き部屋がいくつかあるので、お代は結構ですから」
プリシラは暫く考えると、ゆっくりと答える。
「今日はもう遅くなってきたし、私は泊めて貰っても良いけど」
「僕もどうせならこの国をもう少し見たいです」
「……俺も少し興味がある」
「うむ。三人がそうなら、わしも良いぞ!」
 夕暮れまでは畑以外に屋台や街を見学し、夜になって宿へと連れられた。オットガルは「仕事が残っている」とだけ言い残して、代わりにペッシモが案内した。去っていくオットガルは薄笑いを浮かべていた。
 宿は、いくつもの棟に分かれていて、その中の一つの前でペッシモは止まる。
「あなたたちに泊まって頂くのは、この宿になります。」
すると、ルミオがあることに気づいた。
「この宿からも今日見た花の香りが微かにしますね」
「鋭いですね。他の棟では従業員やオットガル様の奴隷が住んでいます。ここはお客さんだけでなくいろんな方も住まれてるんです。さあ、部屋にご案内しますよ」
部屋は二つ準備されており、ハルシウスとプリシラ、ルミオとルミナリスの二組に分かれて泊まった。
 その日の深夜、二つの影がそれぞれの部屋へと迫っていた。
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