第6話

文字数 2,260文字

 プリシラが指差した先では、丁度蒸気機関車が到着したところだった。 初めて見る大きな鉄の塊に、ルミオとハルシウスの二人は目をキラキラさせて尋ねる。
「あれはなんじゃ⁉︎」
「あれはなんですか⁉︎」
プリシラは二人の反応に少し驚いたが、すぐに納得する。
「あれは蒸気機関車。そっか、ルミオは集落育ちで見たこと無くて、ハルは眠ってたから知らないんだね。……それにしても一体どんだけ寝てたの?」
「それは、その……いっぱいじゃ! いっぱい。もしかしたら本当にとてつもない間かもしれん。お互い深入りして欲しくないこともあろうしこれで勘弁してくれ」
プリシラは必死に頼み込むハルシウスを疑うようにじーと見ていたが
「まあ良いよ、私は」
と、諦めた。
「それで、今日出発しちゃったら次に来るまで暫くかかると思うけどどうする?」
「うーむ。ルミオを売ったあの男も次の仕事で忙しいと言っておったしのお……。他にあてもないしわしはそのメフロンとやらにもう向かって良いのじゃが、ルミオはどうじゃ?」
「僕も賛成です。ここに居るよりは何か分かるんじゃないでしょうか」
二人の意見は一致したようだ。お互いに顔を合わせて頷く。
「分かった。じゃあ今から駅行こっか。急がないと間に合わないかもだし。」
三人は喫茶店を出て、軽い身支度を終えると駅へと向かった。
 
 駅は街の通りに比べて、思いの外混み合っていなかった。
「この、駅というのは思ったよりも人がいないんですね。中には沢山の方が入っていますが」
「別にどこも少ないってわけじゃないよ。ここは余り乗り降りの多い国でも無いしね。メフロンとか他の国の駅は人通り凄いのいくらでもあるよ」
プリシラは相も変わらずぼーとした表情を変えず答えた。後ろを歩いている二人はコソコソと話す。
(ハルさん。プリシラさんはずっとつまらなそうですが、大丈夫なんでしょうか?)
(きっとそういう性格なんじゃろう。似たやつをたまに見るが元がそんな顔というだけで意外と感情が豊かなやつはおったぞ)
そうこうしている内に、切符売り場へと着いた。プリシラは手慣れているようで、テキパキと三人分の切符を買って来た。
 ルミオが切符売り場の看板に書いてある表を見ているとあることに気づいた。
「あれ、切符にも種類があるんですね。……わっ! 凄い額の切符もあるんですね」
「ほう、どれどれ……。成る程、確かにこれは凄い額じゃな」
表に書かれた数字は、小さいものと大きいものを比べると桁の数が五つは異なっていた。
「そうだね、この一番上のやつなんかはよっぽどのお金持ちじゃないと使わないと思うよ。どこかの貴族や王様の用心棒とかね」
二人は納得した顔になり、再び歩き始めた。
 暫くして三人は機関車に乗った。機関車は何両も連なっており、ほとんどの車両は既に埋まっていたが、なんとか空いてる車両を見つけて座った。乗客は大きなカバンを持ったヒトの男や、子供を膝に乗せて座る大人のケンタウロスなど様々でごった返している。
「のう、こやつがわしらをメフロンに連れて行くまで、色んなことを聞いても良いか? 色々と変わってて分からぬことも多いのじゃ」
「良いよ、先ずは何から話せばいいかな」
「そうじゃのう……。地図などはあるか? そもそもメフロンなぞわしは知らぬぞ」
プリシラは大きめのカバンから一枚の地図を取り出し、膝の上に広げて見せた。
 そこには横長の大きな大陸の周りに幾つかの島が散っていた。島だけで無く、大陸のあちこちに名前が着いているが、幾つかはほとんど名前の書かれていない寂しい所もある。
 ハルシウスは大きな大陸の真ん中辺りで縦にジグザグに線が引いてあることに気づいた。
「これは魔界と人界の境界線か?」
「そうだよ、良く分かるね。そんな古い区別してる人なかなか居ないし知らない人がほとんどだよ」
「まあの。そうか、そうなのか。……して、我々の居るのは恐らくここら辺じゃろ?」
ハルシウスは大きな大陸の左下を指差す。
「正解。そして私たちはこうやってメフロンに行くよ」
プリシラはそこから右下のメフロンと書かれた所まで横に指で線を引くように撫でた。
 そのままプリシラは続けていくつかの名前を指差した。
「ここがドリス王国。実質ここが世界の中心部だね。一番発展してるし、王とその護衛軍もいる。そしてここが……」
プリシラが指すのはどこも先程の境界で言う人界、即ち右側に書かれた国だった。ハルシウスは少し悲しい顔をしたが、首をぶんぶんと振って話を聞く。
「……今言ったのにメフロンを加えたのが私的には大国かな。多分これも知らないでしょ? ヤルサエル」
プリシラは地図の右端にちょこんと居座る小さな島を指す。
「ここは最近『聖人』が見つかったって噂の島。島の人口は少ないけれど一人一人の実力が王の護衛軍並で手が出せ無い不可侵の領域って言われてる。『聖人』の姿は私も見たこと無いし、見たことあるって人も知らない」
「そんな所があるのか。世界はわしが思ったより広かったようじゃな」
「うん。他にもこの地図上には名前が載っていない所もいっぱいあるけど、完璧な地図が存在しないだけでルミオやハルの行きたい集落出身の人ももしかしたらメフロンに居るんじゃないかな」
 ハルシウスもルミオも一通りの話を聞いて満足し、ハルシウスが話を移した。
「次は魔法のことを聞いても良いかの?」
その時、突然怒号が車両中に響き渡った。
「お前ら全員動くな!!
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