#04-05  この世のルール ⑤ 紹介屋

文字数 2,475文字

 



 紹介屋にも、いろんな観念がある。



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通常対応
不明対応
被害対応
突発対応
( さすがに大悟対応というのはない )
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 いわゆるセクションのことであり、通常対応の紹介屋は通常型の幽体を、被害対応の紹介屋は被害型の幽体を受け持つことになる。それから、だれがどのセクションに配置されるのかは、あくまでも当人の要望。紹介屋ギルドの面接にて本人希望を出し、簡単な審査を経て承認へと流れるシステム。ただし、ひとたびセクションに配置されると12年間は変更がきかない。しっかりと考えて希望する必要がある。

 あと、幽体になったばかりの初心者のことを『グリーン』という。他業種ではほとんど使われることのない、紹介屋ならではの専門用語であり、言葉の由来は「瑞々しい / 未成熟な / 未経験の」という意味の「Green」から。認定期間は、あの世の初心運転者等保護義務の期間とおなじく1年間。ただし、もちろん若葉マークの提示義務はない。あくまでも記号的な専門観念にすぎない。

 完全登録制の職業だ。世界の津々浦々に点在する紹介屋ギルドへと登録申請すれば、本日のうちにも紹介屋を名乗ることができる。職名の違いやローカルルールこそあれ、紹介屋、並びに紹介屋ギルドは、ルーサやローマや中華大人民国などにも備わっている万国共通の職業なんだ。



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ルーサ
【 RUSA 】

 アメリカ幽体界の総称。正式名称は『Rising Unit Style of America』。やっぱり大統領制で、やっぱり世界のリーダーを気取ってる。ちなみに、南米各国はあの世の自国名を継承。それと、詳細は不明ながら、黒人だけで構成される超巨大コミュニティもあると聞く(独立国かどうかは定かではない)。
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ローマ
【 Roma 】

 EU幽体界の総称。正式名称は『Roman Union』。あの世とは異なり、イングランドが(むしろ積極的に)加盟中で、ギリシャは非加盟(あの世よりも歴史的文化的なプライドが高いから)。そして、やっぱり「グローバルスタンダード」という観念(ことば)が好きで、これに沿わない他国の文化に注文(ケチ)をつけることもしばしば。ちなみに、和表記は「楼満」。
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中華大人民国
【 ちゅうかだいじんみんこく 】

 中国幽体界の総称。中国では、なぜか幽体のことも「人民」と呼ぶ。台湾やモンゴルも半ば強制的に加盟中。ただし、中国当局に反旗をひるがえし、ロシアの南隣で建国を果たした独立国家もある。その名は『鶴寧(ヘィネル)』。ちなみに、中華大人民国の人口はもはや計測不可能、およその人数さえもわからず、国内外を問わず「多威(duōwēi)」という()()が通用する。
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 前述のセクションは、いわば日本のローカルルールだ。対応難易度は、不明対応→通常対応→突発対応→被害対応の順にアップ。もちろん、呪詛霊や覚醒霊の存在もあるのでこれが難易度のすべてではないものの、一般論として、突発対応と被害対応はきわめて難しいセクションとされている。ここに登録したがるひとも極端に少ない。

 なぜならば、突発型と被害型には、自分の死に思いを馳せている暇もなく死んでしまったケースが多いから。これにより、みずからの死を受け入れられず、最終的に暴れることがあるから。暴れ、乱れ、疲れて倫力が欠乏し、ついにはラストし、虜囚霊や怨吐霊と化してしまうことがあるから。紹介屋にとって、いや、活動霊にとって、それは迷惑な問題なんだ。

 というのも、虜囚霊・怨吐霊・呪詛霊・突然変異とされる覚醒霊の4幽体は、この世のモチベーションを低下させるという意味で「よろしくない存在」と認識されている。さらには、浮浪霊も同様の理由で、近年、歓迎されなくなりつつある。

 ()()()()を生みだす原因になりたがるひとなんて、いないんだ。突発対応と被害対応の登録者数が極端に少ない理由はここにある。裏をかえせば「この世は健常な活動霊によって牛耳られている」ともいえる。

 そう、格差社会。

 格差社会のトップに立つ健常な活動霊として、そのキャリアとして、プライドとして、不届き者を生みだすような失敗なんて絶対にしたくないというわけだ。だからこそ、高難易度セクションの登録に対しては積極的になれない。

 私だって、難易度が低いに越したことはないと思っている。もちろん、私の場合は成績不良のポンコツ紹介屋だから。ところが、ギルドを紹介してくれたテトさんが突発対応だったから、その流れで私までもが突発対応になってしまった。こんな私ごときが、よもやの突発対応に。

 確かに、格差社会のトップにいれば、生活するぶんには問題がない。なにせ、この世のすべての商売は活動霊だけを贔屓にしているのだから。虜囚霊や怨吐霊の利益になるような商売なんて、原則、ひとつも存在しないのだから。言伝屋だって、いつ訪れるとも知れない不況を想定したうえでの、NPO的な着想が起源なのだという。いずれにせよ、活動霊であるかぎり、生活するぶんには支障がない。むしろ恵まれすぎているほど。

 支障があるとすれば、やっぱり仕事のほう。

 とてもではないけれど芳しい成績であるとはいえない。前回も、私はグリーンを虜囚霊へと変えてしまった。永遠に活動霊になれない、虜囚霊へと。

 イルマ姉さんが言うには、私の紹介成功率はそろそろ80%を下回るのだそう。つまり、グリーンの5人に1人を格差社会の底辺へと落としていることになる。

 もう、微塵も自信がない。辞めてしまいたい。グリーンの人生をプレッシャーに感じるのがしんどい。なのに、いつもイルマ姉さんに無理強いされる。いつもテトさんにたしなめられる。

 今回も、また引き受けてしまった。

 何度も何度も思いだされる。

『もうおまえ……死ねよッ!』



 
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