『Merry me』
文字数 963文字
某日、二十四時時五十分。
いつもの月曜。いや、もう火曜日か。私はラジオの生放送が終わりタクシー車内でスマホを眺めていた。
今日の放送はどうだっただろうか。SNSでリスナーの声をのぞき見ながら自分の中で反省会を行う。あの子の悩みにはもう少し寄り添えたんじゃないだろうかとか、勉強についてもっと具体的にアドバイスしてあげることはできなかったかな、とか。
そうは言っても私もそんなに人生経験は豊富ではないし、人のことに口出しできるような偉い人間ではない。勉強だってそんなにできなかった学生時代。ラジオパーソナリティーとして学生向けの番組に出てはいるけども、放送作家さんのシナリオ通りに進行することが精いっぱいで、まだまだだなぁと痛感することが多い。
大きくため息をつくと、タクシーの運転手さんがチラリとバックミラー越しに私を見る。いけない、いけない。
でも、SNSを見ている限りだと、私のアドバイスや受け答えで満足してもらえたみたいだ。ラジオにメールを送ってくれた子が「今日は読んでくださってありがとうございます!」なんてツイートしているし、周りの子たちもリプライを残してくれている。本当にありがたいことだなぁ。
ラジオは私にとって勉強のひとつ。学生時代から仕事をしてきた私は、勉強や部活になかなか打ち込めなかった。もちろん恋だって。このラジオに投稿してきてくれている子たちは、私よりも経験が豊富で、本当にためになる。私が過ごせなかった青春を、私に教えてくれる。
ツイートを眺めていると、ふとある投稿が目に留まった。
『恵理子、Merry me』
え? 誰――。恵理子というのは私の本名だ。この名前を知っているのは……アカウントに目をやると、それは彼氏のものだった。
もしかしてこれって、プロポーズ? なんでこんな急に、しかもSNSなんかでするの! 確かに最近色々あって会えてなかったけど!
私はスマホから一度目を離すと、口を押えて窓へ顔を向ける。今、私どんな顔してるんだろう。車窓には雨粒がすっと透明な線を引いている。
もうっ、答えなんて決まってる。
人生経験も少ないし、ふつつかな私だけど……。私は裏アカウントで『Yes』とだけリプライする。
タクシーを降りたら、まずは文句を言わないと。――今はちょうど六月。ジューンブライドだ。
いつもの月曜。いや、もう火曜日か。私はラジオの生放送が終わりタクシー車内でスマホを眺めていた。
今日の放送はどうだっただろうか。SNSでリスナーの声をのぞき見ながら自分の中で反省会を行う。あの子の悩みにはもう少し寄り添えたんじゃないだろうかとか、勉強についてもっと具体的にアドバイスしてあげることはできなかったかな、とか。
そうは言っても私もそんなに人生経験は豊富ではないし、人のことに口出しできるような偉い人間ではない。勉強だってそんなにできなかった学生時代。ラジオパーソナリティーとして学生向けの番組に出てはいるけども、放送作家さんのシナリオ通りに進行することが精いっぱいで、まだまだだなぁと痛感することが多い。
大きくため息をつくと、タクシーの運転手さんがチラリとバックミラー越しに私を見る。いけない、いけない。
でも、SNSを見ている限りだと、私のアドバイスや受け答えで満足してもらえたみたいだ。ラジオにメールを送ってくれた子が「今日は読んでくださってありがとうございます!」なんてツイートしているし、周りの子たちもリプライを残してくれている。本当にありがたいことだなぁ。
ラジオは私にとって勉強のひとつ。学生時代から仕事をしてきた私は、勉強や部活になかなか打ち込めなかった。もちろん恋だって。このラジオに投稿してきてくれている子たちは、私よりも経験が豊富で、本当にためになる。私が過ごせなかった青春を、私に教えてくれる。
ツイートを眺めていると、ふとある投稿が目に留まった。
『恵理子、Merry me』
え? 誰――。恵理子というのは私の本名だ。この名前を知っているのは……アカウントに目をやると、それは彼氏のものだった。
もしかしてこれって、プロポーズ? なんでこんな急に、しかもSNSなんかでするの! 確かに最近色々あって会えてなかったけど!
私はスマホから一度目を離すと、口を押えて窓へ顔を向ける。今、私どんな顔してるんだろう。車窓には雨粒がすっと透明な線を引いている。
もうっ、答えなんて決まってる。
人生経験も少ないし、ふつつかな私だけど……。私は裏アカウントで『Yes』とだけリプライする。
タクシーを降りたら、まずは文句を言わないと。――今はちょうど六月。ジューンブライドだ。