平成のハガキ職人は令和のメール職人にスキルアップする。

文字数 1,033文字

 深夜のラジオを聞くのが昔から好きだ。夜の二十二時からずっと、ノンストップで二十七時まで。多分、ラジオ局の夜の番組が終わるまでの時間帯。一日五時間も聞いているなんて、相当のラジオバカかもしれない。
 中学生の頃、流行の曲は全部ラジオで知った。アイドルやバンド、アニソンまで。私が聞いていた局は、二十二時から声優さんがMCを務める番組が始まり、そのあと芸人さん、ビジュアル系バンドのボーカルへとバトンタッチ。私はその時間帯の番組すべての『ハガキ職人』をやっていた。
 ラジオネーム・『おっぱい侍』。別に巨乳というわけでもなんでもないが、深夜のノリだ。私は多分、リスナーには男だと勘違いされていただろう。下ネタばかり投稿していたから。
 でも、私のハガキが採用されやすかったのには、ある『裏技』が隠されていた。
 ハガキのフチを、赤いマーカーで塗るのだ。こうすることで、ハガキの束から一枚引くとき、無意識に引いてしまうらしいとある懸賞マニアがテレビで言っていた。
 だが、もうこんな裏技は通用しない。今のラジオはメールやSNSでの投稿が主流。ラジオ番組で「番組への投稿は番組ホームページ、またはSNSで……」というMCのお知らせを聞く度、どことなく悲しくなる。なぜなら、メールになってからことごとく私の投稿が読まれなくなったからだ。
 やはり私が採用されやすかったのは『裏技』があったからなんだ。ハガキ職人と言っても実力で勝ちえたものじゃなかった。全部はずるく、卑怯な手を使っていたから。 今夜も私はラジオを聞いている。もちろんメール投稿はずっとし続けているが、今日も読まれないだろう。女性アイドルの冠番組に『おっぱい侍』は必要ない。というか、ラジオネームの時点で弾かれる。アイドルに「おっぱい」なんて言わせられないだろうから。
 そう思いながらお茶を飲んでいると――
「ラジオネーム・『おっぱい侍』さん。私は先日モモンガの形をした焼き肉を食べました! モモンガの形ってどういうこと?」
 ぶーっ! とお茶を吹き出す。……読まれた。読まれたっ! まさかのアイドル冠番組で、『おっぱい侍』のメールが採用されたっ! こんなことって、あり得るの? ともかく、ハガキ職人からメール職人になって初の採用。めでたい。今回は実力だよね? もう次からは自信を持って言える。ハガキ職人からメール職人にスキルアップできましたって。
 また私はラジオ番組にメールを投稿する。これだから『職人』はやめられないのだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み