プロローグ

文字数 624文字

〈ネメシス〉は銀河の辺境を漂う孤児だった。
 孤児は温かく包み込んでくれる保護者を求めるものである。依存された保護者がどうなろうとおかまいなしに。
 彼女は地球型の岩石惑星だった。無数のアステロイドがぶつかり合ったあと、重力が仕上げを施してできあがった宇宙による彫刻芸術。
 二十億年ほど前までは〈ネメシス〉にも仲間たちがいた。青白く輝く強烈な青色巨星が彼女たちの主人であり、それは圧倒的な質量でがっちりと子どもたちを掴まえていた。
 ところが主人は宇宙で目立ちたいばっかりに、無節操に羽目を外した。内部の水素を猛烈な勢いで燃やし、地道にやれば数十億年は生きながらえたところをたったの数億年で使い果たしてしまったのである。
 やがて主人の内部には鉄しか残らなくなり、それは数十億ケルビン、数十億気圧という途方もない環境でも頑として譲らなかった。主人は往時のような美しい青色の輝きを失い、醜い暗赤色に変質した。だらしなく肥え太りもした。その後、避けがたい帰結として超新星爆発が起こった。
 こうして支えを失った〈ネメシス〉は酷寒の宇宙空間に一人、放り出されたのである。彼女はかつての主人のような頼れる保護者を探していた。彼女を包み込んでがっちり引きとめて離さない、包容力のある主人を。
 それが叶わないのなら、せめてほんのいっときでも抱擁してほしい。三ケルビンという宇宙の寒さを和らげてくれるような、熱い抱擁を。
 長い旅路の末、〈ネメシス〉は旅の終着点を見つけた。
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