5 蝦夷地を越えて

文字数 7,560文字

「蝦夷地を縦断する?」薄暮の松前でつかまえた女商人は素っ頓狂な声を上げた。「なんでまた自殺の予行演習みたいなまねをするわけ」
「隊の決まりでそうすることになってるんです」挑戦的に香苗が答えた。
「距離感ちゃんと掴めてる? 最短でも六百キロはあるんだよ。それに道中は真っ暗だし、一年中雪の解けない不毛の大地が見渡す限り、広がってるんだから」
「どうすればええんや、おばちゃん」返事はなかった。「あー、お姉さま」
「そのふざけたイスラム教徒のコスプレだけじゃだめね、少なくとも」
「ご教示願えませんかね、お姉さま」槇村もここぞとばかりにごまをすった。
「防寒具、移動用のスキー、食料、荷運び用の犬ぞり。最低でもこれら蝦夷地四種の神器がないと自殺行脚になっちゃう」
「お姉さまの取り扱い商品のなかにそれらはあるの」香苗までもが空気を読んだ。「予算はこれだけあるけど」
 女商人は低く口笛を吹いた。「十分よ。でもいいの、あんたたちも商人なんでしょ。出会った最初の人間の言い値で買うなんて」
「ごっつべっぴんなお姉さまはぼったくりなんてせえへん。ちゃうか?」
 商談はまとまった。

 蝦夷地は他力本願という四字熟語がすっかり消滅した当節において、その傾向がもっとも顕著な地域である。本州の人びとはしきりに首を傾げてこう問う。「なぜあんなところに住もうと思う人間がいるんだろう?」
 いつの時代でも世捨て人はいるものだ。前〈エリミネイト〉時代は文明から逃れるためには相応の努力が必要だったが、彼らにとって幸いなことにいくぶん難易度が下がった。蝦夷地中部へ移住するだけでよくなったのだ。
 公式統計を誰もとらなくなって久しい昨今、道央の人口はゼロであるというのがおおかたの見解である。玄関口の松前から北へ五十キロも進めば完全な日没となるので、そこより北が人の住める環境でないことくらいは子宮内の嬰児でもわかる。
 光源は夜空に輝く月と星ぼし、嫌われ者の〈ネメシス〉ですら特大の燭台としてありがたがられているほどだ。一年の平均気温は氷点下十度を下回り、冬将軍が侵略してきたときにはマイナス五十度付近まで下がることすらある。
 凍りついた白一色の大地が月光を反射し、ぼんやりと雪原を照らし出す光景は文句なしに幻想的だけれども、定住して一年もすれば視力の急激な低下によってそうした楽しみも失われる。食料は慢性的に不足し、寒さと栄養失調で乳児の死亡率は八十パーセントを超える。
 こんな場所にいったい誰が住みたがるというのか。事実〈エリミネイト〉直後の破壊的な影響が一段落したあと、一向に陽が射してこないという恐るべき現実に直面したかつての住民たちは、早々に町を捨てて南下していった。ある者は道南にとどまり、ある者は光を求めて本州へ渡った。
 先祖とのきずなはときに合理的な判断力を根こそぎ奪うものであるらしい。アイヌの血を守り通したいと願う人びとや、気候の厳しい蝦夷地に住んでいるのを誇りとする人びと、それに本州からやってきた世捨て人たち。それぞれとどまる理由はちがえど、彼らの利害は一致した。
 こうして存在そのものが疑問視されている幻の都、〈ルナシティ〉が誕生した(とされている。というのは、まだ誰も辿り着いたことがないのだ)。いままで命知らずな冒険家たちが伝説を確かめてやろうと旅立っていったが、そのまま戻ってこないか、戻ってきても戦果はなく、申し合わせたように指や耳を失っているのだった。
 もし〈ルナシティ〉があるのなら、蝦夷地縦断のオアシスになるはずだ。彼らも人間である以上なにか口に入れているのは明白で、それをわけてもらえる可能性はあるし、シュラフよりいくぶんましな寝床を提供してもらえるかもしれない。
 永遠の夜に閉ざされた〈ルナシティ〉は、今日も月と〈ネメシス〉の光を浴びながら旅人の訪問を待ち受けている。

 旅は苛烈を極めた。
 山岳地帯を避けるよう西側から迂回しつつ北端を目指すルートを構築したものの、起伏がなだらかだからといって旅程が易しいわけでは決してない。
 日の出(の時刻)とともにテントを解体してパッキングをすませ、入りきらない食料は犬ぞりに崩れないよう慎重に積み込む。スキーを履き、あとはひたすら逆ハの字で雪原を蹴る。蹴って蹴って蹴り通す。
 疲れたからといってすぐに休憩できないのも悩ましかった。風をもろに受けるような場所で三十分も停滞しようものなら、すっかり身体が冷えて本調子を取り戻すのに倍以上の時間がかかってしまう。したがって野営するまでは原則、長時間の休憩はご法度だった。
 食事はスキーを漕ぎながら口に入れ、常時体内でエネルギーに変換されるよう定期的に

する。腹が減ったと思ったらもう危険信号である。間髪入れずに猛烈な寒気とめまいが襲ってきて、そのままお陀仏だ。幸い水だけはいくらでも手に入った。
 排泄ですら命がけだった。ことに大便はリスクが大きい。下半身を蝦夷地の切り裂くような夜気にさらすことになるからだ。三人は記録的な早さで用を足すコツを学ばされた。やがて食事によってある程度、ひり出しやすいよう便の硬度をコントロールする術さえ発見したのだった。
 聞いていた通り、玄関口の松前から五十キロ地点で完全な日没が訪れた。彼らは薄暮のかすかな陽光でさえ、ひそかに身体を暖めてくれていたことに気づかされた。太陽の昇らない闇の世界がどれほど寒く、心細いことか。老人たちが昇りっぱなしの太陽に慣れないように、若者たちは昇らない太陽に強い恐怖を覚えた。
 以上のようすは天候が比較的穏やかな場合のものである。ひとたび低気圧がやってくれば、蝦夷地は瞬時にして試練の場へと豹変する。横殴りの吹雪が吹き荒れ、風速は常時二十五メートル以上、体感温度は氷点下五十度を下回る。二度ほど嵐に出くわしたあと、旅人たちはその兆候が見られたら即、野営することを学んだ。

 テントの外では猛烈な風が荒れ狂っている。嵐は三日三晩続いていた。
 シュラフにくるまった香苗がぽつりと漏らした。「あたしたち、北端に生きて辿りつけるのかな」
「知らん」和泉ですらこのごろは鬱気味だ。「もうなんも考えたない」
「行程の三分の二は消化しました」事務的に槇村が報告した。
「あと三分の一ね。いやんなっちゃう」
 翌日、昨日までの吹雪が嘘のように嵐は止んでいた。澄み渡った夜空に浮かぶ星ぼしに励まされ、三人は心機一転出発した。倦まずたゆまずそりを引いている犬は三日ぶりに外に出られるとあって、嬉しそうにぐるぐる駆け回っていた。蝦夷地仕様に品種改良されているとはいえ、彼の耐寒性には誰もが舌を巻いた。
 厚く積もった雪の上に六本のシュプールが刻まれていく。そのあとを犬ぞりが追いかける。多少無理をしてでもペースを速めなければならない。三日のロスは痛かった。予備日を入れた最遅の予定にすら尻を叩かれている始末なのだ。晴れているいまのうちに進めるだけ進む必要があった。結局この日は幕営せず、一日中ぶっ通して滑り続けた。
 前日の無理が祟ったのか、さすがに翌日の進捗は鈍った。どの顔も病的に青白く、目の下にはどす黒い隈が浮かんでいる。機械的に食料を口へ運び、ひたすらストローク。その日はこれ以上パフォーマンスが落ちるのは逆効果だと判断され、幕営に踏み切る(二十二時まで滑ってからではあったが)。簡易型の自立テントは慣れれば二、三分で設営できるけれども、疲労の溜まった身体ではそれですら重労働だった。三人と一匹は猛烈な寒さにもかかわらず、死んだように眠り込んだ。
 遅れを取り戻すため、日の出(の時刻)の二時間前にテントはザックに収納された。今日も地獄のスキー行脚である。動き出そうとして、槇村ががっくりと膝をついた。もはや睡眠をとるだけでは体力が回復しきらなくなっているのだ。和泉が手を貸してやり、三人は粛々と滑り始めた。
 最初にそれを見つけたのは香苗だった。「あーあ、ついに寒さで頭がどうかなっちゃったみたい」
「どないしたん」
「右手にスキーと犬ぞりが見えない?」
「……見えますね」
 それは彼らの視界を横切ろうとしていた。こちらに気づいているようすはなく、ぐんぐん遠ざかっていく。三人の不器用なストロークとはちがい、謎の人物は明らかにスキーでの移動に習熟しているようだった。
「すいませーん!」香苗はありったけの声を振り絞った。「ちょっといいですか!」
 スキーが止まった。品定めしているかのようにじっと動かない。追いついてみると、確かに人間だった。フードをかぶり、顔をバラクラバで覆っている。典型的な蝦夷地縦断装備である。
「あんたたち、どこからきたの」謎の人物が話しかけてきた。声からすると女性らしい。
「ウエストサイドの南部から。そっちは?」
 彼女は東のほうを指さした。「あっちから」
「あっち?」大阪人が頓狂な声を上げた。「あっちってどういうことやねん」
「町があるの」
 三人はいっせいに得心した。幻の都、〈ルナシティ〉にちがいない。
「部外者でも入れるんですか」
「大丈夫だと思うけど」
 先導者に着いていくこと十分少々、彼女は不意に足を止めた。「ここだよ」
 三人の眼前には、月明かりに照らされた雪原が広がっているばかりだった。

〈ルナシティ〉は地下に、というよりかつての町が度重なる積雪で埋もれていた上を一人の道央人がそれと知らずに通ったとき、もろくなっていた部分を踏み抜いたのがきっかけで発展した。
 それからは急ピッチで移住が進んだ。驚くべきことにこの町が発見されるまで数十年もの歳月を、誇り高き道央人――アイヌ民族原理主義者、先祖の土地原理主義者、その他いろいろの原理主義者――たちは野外で生き抜いていたのだ(もっとも地下に埋もれた町が見つかって一週間後には、その数はゼロになっていたけれども)。
 彼らは慎重に地下へのステップを刻み、縦横無尽に雪のトンネルを穿った。あるトンネルは雪の重みでもつぶれなかった住居へ、あるトンネルは食料貯蔵庫へ。それはアリの巣にひどく似ていた。
 こうして道央人たちは一年中天候に左右されない快適な環境を手に入れた。風の影響をいっさい受けない地下は驚くほど暖かく、吹きさらしの地表との気温差は体感温度で三十度以上に開くこともまれではなかった。
 最下部では土が掘り返され、入り口から反射鏡を利用して月光(および〈ネメシス〉光)が採光された。根気強い品種改良の結果、その程度の光でもしぶしぶ育つ野菜が開発された。これは実地で観察された急激な進化といってよい。
 三人が現地入りすると、案内してくれた女の子がバラクラバをはずして素顔を披露した。雪のように白い肌、視点の定まらないうつろな瞳(道央人は明かりに乏しい地下生活により、例外なく失明に近い状態だった)。ほんのり朱の射す若々しい頬から察するに、彼女が旅人たちと同世代なのは明白だった。
 案内人は外の世界のことを知りたがった。野菜をたっぷり運んできては三人に食べさせ、飽きることなく矢継ぎ早に質問する。やがて睡魔に負けて一人また一人と床についたのを見届けてから、彼女は三人の寝顔をうっとりと眺めるのだった。
 五日めの夜、食後の気だるい時間を四人で過ごしているおり、ようやく香苗が自分を取り戻した。「ちょっと待って、いま何日なの」
 十二月二十四日だった。
 彼らは身をもって思い知らされた。〈ルナシティ〉は幻などではぜんぜんない。それはしばしば旅人に発見されている。ただあまりにも快適なものだから、小休止のつもりで立ち寄ったが最後、出ていく気をなくしてしまうのである。誰一人生きて帰ってこない町の正体は、至れり尽くせりの接待で旅人を腑抜けにするアリ地獄だったのだ。道央に人を定着させるための、彼らなりの移民政策。
 案内人の少女が寝入ったのを見届けてから、香苗は夢見心地でむにゃむにゃ寝言をつぶやいている二人をそっと揺すった。それでも起きなかったので、次は頬をはたいた。効果はなかった。業を煮やして睾丸を蹴り飛ばすと、尻に火がついたように二人とも飛び上がり、押し寄せる痛みで錯乱状態に陥り、股間を押さえながらぴょんぴょん跳ね回った。
 こうして旅人たちはアリ地獄から脱出したのだった。

 暦が彼らのすぐ後ろから追いかけてくるかのようだった。
 予備日をもすべて使い尽くし、もはや一刻の猶予もなかった。不眠不休での強行軍が満場一致で採択され、一日のノルマは七十キロとされた。嵐で停滞する可能性を考慮すると、それですら不十分だった。
 強行軍が始まって五日め、マーフィの法則が発動して案の定、九百ヘクトパスカルを切ろうかというような極めつけの低気圧が上陸した。視界は完全にホワイトアウトし、立っているだけで風下へと滑っていってしまうほどだ。凍傷とは無縁だと女商人に太鼓判を押されたはずの手袋は、うたい文句通りの仕事を放棄しているように思えた。
 三人は鼻からつららを垂らし、出した先から凍りついて美しいアーチの彫像と化す小便を無感動に見守り、眼球の表面が凍らないようしきりにまばたきをくり返しながら進んだ。
 無数の幻覚が彼らを悩ませた。寒さと空腹で気が遠のくたび、途端に南部のぎらつく太陽が頭上に昇り、久しくありついていない肉が鉄板の上でジューシーな音を立ててこんがり焼かれている。頭を振ってそれらを追い出しても、今度は〈ルナシティ〉の快適な布団が三人に戻ってこいと誘惑を投げかける。
 ついに香苗がくずおれた。幻覚にさいなまれていた二人は二十メートルほども滑ってから、ようやく脱落者の存在に気づく始末だった。ターンして折り返し、肩を貸してやる。少女は懸命にストロークをくり出すも、今度は顔から雪原に突っ伏してしまった。
「もうだめ」香苗のくちびるは紫を通り越して黒ずんでさえいた。「先にいってて。あとで追いつくから」
「最後に見た天体の位置からして、あと百キロもないはずです」槇村の励ましはあてずっぽうだった。どちらかというと彼自身の願望に近かった。
「俺の飯わけたるさかい」和泉は凍りついたパンを無理やり少女の口へねじ込んだ。「あと少しの辛抱や。気張らんかい」
 雪に顔をうずめたまま微動だにしない彼女は死んでいるように見えたけれども、少年たちは単に眠っているものと断定した。犬ぞりに積んでいた食料をデポし(目印の旗竿を立てるのを忘れなかった)、代わりに香苗を横たえてやる。さすがにグロッキー気味の愛犬とともに、二人と一匹は渾身の力を振り絞ってそりを引いた。
 蝦夷地の北端は進んだら進んだだけ、北へ伸びているように思えた。いけどもいけども白亜の雪原が続き、嵐は悪意を持っているかのように頭上にとどまり続けた。二人はもはや時間を気にしなくなっていた。初日の出もキャラバンの試練もどこかべつの宇宙へすっ飛んでいた。あるのは自然との一騎打ちに必ず勝つという強固な意志だけだった。
「やんでる」槇村がぽつりとつぶやいた。「嵐がやんでますよ」
 二人は足を止めた。止めざるをえなかった。それ以上先に進めなかったのだ。大地は目と鼻の先で途切れており、その向こうには全面凍結したオホーツク海が広がっている。空にはオーロラが妖しくゆらめき、久しくご無沙汰だった夜空の星ぼしがまたたいている。まったくの無風で、天気は嘘のように穏やかだった。
「おいかなやん、いつまで寝とんねん。ええ加減起きろや」和泉は遠慮なしに頬をひっぱたいた。反応はなかった。「頼む、目覚ましてくれ。北端に着いたねんぞ。なあ!」
 槇村は意を決して脈を計った(そうするのに何度も深呼吸しなければならなかった)。三十秒間待ってみたが、動いている気配はなかった。「かなさんはもう……」
 愛犬が気遣わしげに少女の頬をなめた。彼はあまりの冷たさにびっくりし、反射的に舌を引っ込めてしまった。
 二人と一匹はそりに横たわったまま動かない仲間を、なすすべもなく見守った。
 そのとき、蝦夷地に劇的な変化が起こった。月明かりだけが頼りの永遠の夜が、突如として目を射るほどの陽光に切り裂かれたのである。光は凍りついたオホーツク海の水平線上から射してくるようだった。二人がまぶしさに目を細めながら眺めていると、見慣れた球体がせり上がってくる。〈ネメシス〉だ。天候、角度、大気中の成分、太陽の位置、その他もろもろのパラメータが組み合わさったとき、蝦夷地北端はほんのわずかのあいだだけ、太陽の光を浴びるという特権に浴する。
 槇村は呆けたように口を開けたまま、日付と時刻を確認した。
 一月一日午前〇時だった。
 徐々に〈ネメシス〉が昇ってくるにつれ、大地は純白に輝き出した。幾重にも積み重なった雪の結晶が織りなす年一回の豪華絢爛なショー。大気すら浮ついたようにきらめいている。ダイヤモンドダストだ。
 気がつくと、二人と一匹は強烈な反射光の中心に立っていた。天然のスポットライトに照らされた旅人たちは、いまやショーの主役だった。忘れていた陽光の暖かみが、寒さに痛めつけられた身体を癒していく。見習いたちは目を閉じて存分に堪能した。
 風変わりな初日の出があまりにも鮮烈だったため、足元で紅一点の身体が身じろぎしているのに二人が気づいたのは、〈ネメシス〉が昇ってから五分以上も経ってからだった。
「あれ、あたしどうしたんだっけ」少女は反射的に目を閉じた。「まぶしい!」
「かなやん、おまはん……」大阪人は滂沱の涙を流していた。「生きとったんかい、ワレ」
「緊急時の代謝抑制だったんですよ」涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにした槇村が快哉を叫んだ。「かつて冬があったころ、冬眠という奇妙な風習を持つ動物がいました。かなさんは酷寒とカロリー不足がトリガーになってスイッチの入る冬眠遺伝子を持ってるんでしょう」
 香苗は二人に肩を貸してもらい、真正面から〈ネメシス〉と相対した。それは見慣れた醜い表面を向け、粛々と昇っていく。あたりはますます白く輝きだし、そこかしこで七色のきらめきが踊り狂っている。それは彼らがいままで見てきたどんな光景をも凌駕していた。そしておそらく、金輪際これ以上の光景に出逢うことはないだろう。
 年一度の奇跡が終わり、再びあたりは闇に包まれた。肌に心地よい暖かみも消え去り、お馴染みの耐えがたい酷寒が舞い戻ってくる。変化はあっという間だった。まるで初日の出などなかったかのように。
 しかし彼らは知っている。確かにそれはあったのだと。彼らの魂に忘れがたい記憶を刻んでいったのだと。
 少年少女は荷物をまとめ、帰路へと着いた。
 太陽に祝福された大地が、彼らを待っている。
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