2020年3月 7つの門に祝福の鍵を・・・

文字数 2,790文字

「寂しい・・・。」
ここは、暗黒に包まれた冥府。
私は外に出ることも許されず、何千年何万年、未来永劫外の世界に触れることがないだろうと諦めていた。

だけど・・・彼女が来た。

「ここが冥界ね。
なんで、僕ちゃんが冥府の首相ナムタルに謝らないといけないの。
僕ちゃんは、ただ事実を言ったまでなのに、あの嵐の神エンキが冥府と関係を絶ちたくないから謝罪してこいって。
少し生意気すぎるから僕ちゃんが帰ったら一度罠にはめちゃおうかな♪」

「誰だろう、彼女は・・・。」

「あの方は、ネルガルです。
エレシュキガル様、この前。」

それは、数日前。
「今回も宴会の手土産としての鉱石や木材をありがとうございます、エンキ殿。」

「なに、毎年のことではございませんか。
死した魂の行く末を管理し続ける姪っ子にせめてもの仕送りですよ。」

「本当にそんなことして平気なんですかエンキ様。
ギリシャの冥界とオリュンポスとは戦争状態なのに。
油断しているとメソポタミアの冥府がギリシャの冥界と手を組んで後ろからグサッと刺されるんじゃないの。」

「な、な、なんだ、ネルガル。」

「何処に、そのような証拠があるのですか。」

「証拠も何も火のたたないところに煙は出ないといいますからね、最近ギリシャの冥界と同盟を結んだと情報がありましてね。」

「全く、不愉快だ!!!」

ナムタルはその後、怒ってそのまま冥府に帰ったことを彼女に伝えた。
「という事がありまして。」

「嘘、なんで彼女知っているの。
私誰にも公言したことないのに、大丈夫なんだよね、ナムタル。」

「えぇ、さすがにマルドゥーク様も冥府との同盟を断ち切りまではしないと思うのですが。」

「ネルガル、油断のならない人ね。」 

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「はい、すいませんでした。」

「別に謝罪はいらないですが、代わりに一度この冥府を見ては行きませんか。」

「んー、別に良いんですけど僕ちゃんに冥府を見せてどうなるんですかね。」

「まぁお気になさらず案内は、彼女がやって下さりますので。」

「よろしく、お願いします、ネルガルさん。
私は冥府の女王エレシュキガルというものです。」

「なんで、僕ちゃんの為にわざわざ冥府の女王様が案内していただけれるんですか。」

「それは、今この冥府で起きている現状を知ってもらいたいからよ。
知ってもらい、その現状をマルドゥークの住まう大地に冥府の現状を広めて欲しいの。
この冥府の状況をマルドゥークやエンキも詳しいことまでは知らないの。」

「えぇ、そのようなことですか。
女王様の頼みなら、承知しました。
僕ちゃんは、ウワサ話は好きでしてね興味を持ちました。」

ギチギチギチ

ここにあるものそれは、いくつもの鎖で繋がれた筋肉が膨れ上がり血管が浮き出て今にも鎖を引きちぎりそうな彼の腕である。

「何なんですか、一体あれは・・・。」

「これがエンキからの宴会のご馳走の代わりの木材と鉱石の提供ギリシャの冥界ハデスの同盟を結んだ理由。
あれは、ギリシャの怪物テューポーンの右腕。」

「意味が分からないよ、なぜあんな代物があるんだい。」

「封印のためです、あの怪物はゼウスを超える力を持ち、ギリシャ神話をあと一歩で終焉にまで持っていこうとした怪物。
ゼウスが何とかその怪物を倒した際、二度と封印が解かれても元の力を戻さないように左腕をギリシャの冥界に封印させ、体はギリシャのとある山脈に封印し、さすがにオリュンポスに封印させるのは恐ろしいのか右腕だけは遠く離れたこの冥府に封印した。
だけど最近、鎖が壊れたりするからそれらの材料を調達するために木材や鉱石が必要だったの。」

「うんうん、分かりますよ。
でも理解できないことがあるだけど。
あなた達、冥府には何かメリットはあるの。」

「あるわよ、困っている方を助けれたんですから。」

「はぁ、相当なお人好しだね、エレシュキガル様は。」

「そうかな、当たり前のことだと思うんだけどね。」

「(何なのよ、この女神は。
完全に損しているじゃないの、もしかしたらエレシュキガル、ハデス(ギリシャ神話の冥界の神)に騙されているんじゃないの。)」
「エレシュキガル様は、そんな調子でしたら絶対に誰かに騙されますよ。」

「それでもいいんじゃない、誰かの助けになれば、私が頑張ればいいことじゃない。」

「あー、もう良いわ。
僕ちゃんをここまで感情的にさせたのも貴方様ぐらいだよ。
決めた、次から貴方様が他の神に頼み事を言われたら、僕ちゃんを交渉役に使いなさい!!!
あの、ナムタルというものも、どうにも貴方様と一緒でお人好しの部分もあるから。
僕ちゃんなら、絶対に貴方様いいやエレシュキガルが損をしなずにかつ貴方が満足できる交渉をするから!!!」

「えぇ、そうなの、でもネルガルさんはどうするの。
わざわざ、縁もない冥府にずっといるのも居心地悪いんじゃない。
こんな暗くて、食べ物はホコリと粘土しかない世界で・・・。」

「もう言わせないでよ、本当に何もわかってないね、僕ちゃんは貴方に惚れ込んだのよ!!!」

「惚れ込んだの、こんな駄目な私でも友達になってくれるの。」

「ギャー、抱きつくな、僕ちゃんはそんなことの為に冥府に来たんじゃないの!!!」

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それはかつて、初めて彼女と会った日、それから様々なこともあった。
ナムタルやマルドゥークの目を盗み、冥府からエレシュキガルちゃんと一緒にウルクの街を見に行ったり、その後見つかって慌てて冥府に帰って、ナムタルに叱られたり、エレシュキガルの妹である自由の女神イシュタルが冥府で大暴れしようとしたときに罠にはめたのを二人で笑い合って楽しんだ、たくさんの思い出を彼女と過ごした。

「ハッ、なんだ、夢か、僕ちゃんが夢を見るなんて久しぶりだな。
そうだった、まだベルゼブブ様に提出する書類を出してなかった、うるさいからね。
さっさと済ませよう。」
そう言うと、ネルガルは机につき書類を書き始めた。

ネルガルによって異形の姿になった私も同じ夢を見ていたのかと彼女の様子から気づいた。

そしてネルガルは地上に戻ることなく、この冥府でずっと過ごしていた。

彼女は、明るい地上よりもずっと冥府のほうに満足していたようだった、なぜかと聞くと、愛する人が地上を照らす光よりも輝いていたからと照れながら言っていた。

「どうしたんだい、エレシュキガルちゃん、僕ちゃんをそんなに見つめて。
また、何か悪いことでも考えていると思っているのかい。」

「ルガルネ、うとがりあたっか良に当本ていがタナア。」

「何よ、バカ、そんな言葉、僕ちゃんにはいらないよ。」
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