燃えたヒラメ:Ⅳ

文字数 15,338文字

 約十分後――。彼の説明によって全員が状況を把握し、西園寺と相沢が主導するささやかな協議がその場で行われた結果、とにもかくにも少年から話を聞こうというしごく無難な流れで意見がまとまり、小休止ということで調査は中断、西園寺と相沢に消防らの相手をしてもらっているあいだに彼は少年の手を引いてピットを出、店舗内の小さな商談スペースの戸をあけた。店舗スタッフにはすでに相沢から事情を通してあった。
 その際に相沢が確認した話では、この少年らしき子供を連れてきょう店をおとずれた客は、店内ではたらくスタッフの知るかぎりではいない、ということだった。また少年の着ている制服から、少年の通う幼稚園の名もほどなく分かった。店からそう遠くない徒歩圏内にあるというので、時間帯から考えて、おそらく幼稚園から家まで歩いて帰る途中だったのだと思われたが、それらが分かってすぐの段階では少年はこちらの問いに答えられるようすではなかった。
 「こっちに座ろうか。だいじょうぶだよ、怖くないから」
 彼は少年をうながして椅子に座らせ、自分も隣へ腰かける。少年は未だ泣きやんでいなかったが、先刻よりはいくらか落ち着いてきたらしくうつむきがちに時折はなをすすっている。
 「寒くない? ちょっと濡れちゃったね」
 彼がのぞきこむと、少年は小さくかぶりを振った。
 彼は帽子をぬいでテーブルに置く。あけはなしの戸から、昼食の弁当を運んできたのと同じ事務の女性が姿を現した。女性は彼へ目くばせし、少年のそばにしゃがむと優しく話しかけた。
 「何か飲む? 何が好きかな。いろいろあるよ」
 胸もとのネームプレートに「真弓」とあって、彼は瞬間それが女性の姓なのか名なのか迷った。だがもちろん名字だろう、しかし名前みたいな名字だな、と思っているうち女性は少年からブドウジュースというひと言を聞き出した。そして次に彼を向き、もの問いたげな笑みを浮かべる。
 彼はとっさに、
 「あ、僕はいいです。この子だけで……」
 「分かりました。ちょっと待っててね、すぐ持ってくるからね」
 女性はほほえんで立ち上がり、戸を出ていく。少年はもうはなをすすっていなかった。これを機とみて、彼は早速尋ねた。西園寺その他メンバーを待たせてあるので、そうのんびりもしていられない。彼は決して子供が得意というわけではなくこの役目は適任でないと自分では主張したのだが、少年を最初にみとめたのは彼だったし、少年も彼には見覚えがあるようだし、あまり大勢で聞き取りをしても怖がらせるだけだから片桐さん。お願いしますよと西園寺の笑顔に説得されていた。
 「ねえ、きみ。名前は? 教えてくれる?」
 少年はどぎまぎしていた。彼の感じていたとおり、あまり活発なタイプではなさそうだった。しかしまた泣かれてはたまったものではない。彼はおよそ自分にできうるかぎり最大のやわらかなトーンでもう一度尋ねた。すると少年はやっと目を上げ、何か言った。
 「えっ? なに、なんていうの?」
 「アキラ……です」
 「――アキラ。きみの名前?」
 「はい」
 アキラか……彼は内心、顔をしかめた。ほかに死ぬほど名前はあるだろうに、まさかのアキラ。それは彼の、かつて母親と彼を捨て亜麻色の女へと走った父親の名でもあったため、彼は生理的にその名が苦手だった。少なくともプラスの印象は持ち合わせていない、が今はそんな場合でもない。
 アキラくん……彼は口にする。
 「幼稚園から帰ってきたの?」
 こくん、とひとつ。うなずきがあった。
 「だれかと一緒に帰ってきたの? たぶん……ほら、ひとりで歩いてきたんじゃないよね?」
 またひとつ、うなずき。
 「そっか。じゃ、その一緒に帰ってきた人と途中ではぐれちゃったのかな。お父さんかお母さんの電話番号、分かる? 連絡してあげないと、アキラくんがいなくて、きっと心配してる――」
 「僕……」
 少年は彼をさえぎった。泣きやんでみると声音はずいぶんしっかりして、むしろ大人びてさえいる。
 「僕のせいです。ごめんなさい。僕が、あの車に勝手に乗ったから」
 「えっ」
 「だから……勝手に乗ったから、燃えちゃった。ごめんなさい。僕……燃えるって思ってなかった。だから……」
 戸から女性が現れ、パックのブドウジュースと、飴玉やチョコレートの入ったガラス容器を持ってきた。女性はストローをさしてやり、少年へ渡す。
 「どうぞ」
 少年は小声に「ありがとうございます」と答えた。彼も礼を言うと、ほがらかな返事とともに会釈をして出ていった。そのあいだ彼は思案し、まずは少年の言いかけたことを詳しく聞いていくべきと判断した。保護者への連絡は大ごとになる前になるべく早めにしなくてはならないが、しかしあえて順序を逆にしたほうが、少年の言葉尻を捕らえると、話がよりうまく進むのではないか? ……そうあってくれ……という、彼なりに子供心を読んだつもりのなけなしの勘。それに彼個人としても、そして西園寺としても、この少年のこぼした証言を捨ておくことはできない。車が燃えたのは僕のせいだと言って泣いていた、その真意を知らなくては。
 「アキラくん」
 彼はストローをくわえた少年へ向き直る。
 「あの車に乗ったっていうのは、どうして? だれかに乗せてもらったの」
 「ううん」少年はふるふると首を横にする。
 「僕だけ……」
 「きみだけ?」
 「はい」
 「そっか。きみだけ……いつ、ひとりで乗ったの? 覚えてる?」
 「あの……あの車が燃えちゃう、前の日。僕、そのとき……僕、あの車に……あの……」
 「うん。いいよ、話して。だれも怒らないから。安心して」
 「僕……あの車に、乗ってみたかったの。いつも、見てた。……」
 彼の助けを借りながら少年は話し始めた。そのうち、彼に自分を叱るつもりがほんとうにないらしいことを感じたか、その話し方はつたないながらも一生懸命になっていき、リズムを得ていき、おかげでそれからの五分、十分で彼はことの次第をあらかた把握できた。
 整理してまとめると、それは大体こんな内容だった。
 少年は現場付近に建つ例のマンションに住んでいる。そしてそのマンションの部屋から見える通りの向かいの一軒家の車庫に、あのヒラメ・セリカがいつも入ったきりでいるのを知っていた。少年はそれをほぼ毎日のように見ていた。少年は乗り物が好きで、とりわけ車が好きだった。おもちゃのミニカーをたくさん集めて持っていた。
 その少年の目に、あのヒラメは普段見かけるほかの車とはまったくちがう、面白い車に映っていた。少年は気になって仕方なく、けれどもあの一軒家の住人がそれに乗って走っているところは一度も見ない。少年は幼稚園の行き帰りなどで通りを歩くたび、車庫から動かないヒラメを間近に、住人に気づかれないようこっそり観察していた。いつか乗ってみたい、乗ってみたいと思ってはいながらそのことはだれにも言わないでいた。
 そんなある日。ヒラメが燃焼した日のちょうど前日に当たる夕方、少年は友達と近所で遊んだ帰りにマンションの裏手から通りをひとりで戻る途中、はじめて自分のほかにヒラメに近づく人物を目にした。おそらく所有者の男性と思われるが、玄関を出てきたその男性は少年が陰から見守るそばでヒラメに接近すると、運転席側のドアの鍵をあけるような仕草と同時に、それらしき音がした。男性は少年には気づかずそのまま車を離れて家のなかへと戻っていった。男性が鍵をあけたのはたぶん翌日に洗車を予定していたためだろうが、そんなことは知るよしもない少年は思ってもみなかったこの事態に胸を高鳴らした。男性が車を離れてもふたたびロックのかかる音はせず、それは手動式の鍵を使うあの時代の車のことだから当然だが、そのことも少年の鼓動をさらに大きくした。
 鍵があいている。今ならあの車に入れる――。そう思うと少年は我慢できなくなった。あたりを忍びながら車庫のヒラメに近寄ると、急いで運転席のドアをあけた。小さな身体、だれも見てはいなかっただろう。
 少年は運転席に座った。うれしくなって、そこにしばらくいた。気が済むとドアをあけ、ちゃんと閉め、暮れかかる空をそのままマンションへ帰った。だがあくる日になって、休日の両親とうちで過ごしていると、外の通りが何やらさわがしい。消防車のサイレンまで聞こえる。そこで角部屋のベランダに出て通りをのぞいて仰天した。まさに自分がきのう、忍んで乗りこんだヒラメが路上にいるばかりかなんと運転席のあたりが燃えている。一緒にのぞいた両親が「大変」と言っておどろいている。周囲にはちょっとした人だかりが出来ていて、これが普通ではなく緊急の事件であることが分かる。サイレンはどんどん少年のほうへ近づいてくる、騒ぎはさらにひどくなる……少年は怖くなった。横で父親が「なんで燃えたんだろう?」と首をひねっているのを見て、ますます怖くなった。自分のせいかもしれない。きのう自分が内緒であの車に乗ったとき、知らないうちに何かしてしまったのではないか。きっとそうだ、だから運転席が燃えているんだ。自分が大人の許可を得ず勝手に乗ってしまったせいで燃えているんだ……自分のせいで……間もなく到着した消防士たちによって火が消され、ヒラメはレッカーに載せられて去った。だが少年は安堵するどころか、そのうち警察がうちへやってきて、自分を火災の犯人として逮捕するのではないかという恐怖にかられた。しかし叱られるのが怖いあまり両親には話せず、だれにも言えないまま黙っていたところ、きのうになって現場に突然現れた彼と西園寺と相沢を部屋から見つけた。彼と西園寺はスーツ姿で、三人でヒラメが燃えた箇所を調べていると分かると少年の恐怖は頂点に達した。
 あの人たちは警察の人だろうか? 自分のせいだと謝りたくて少年は外へ出たが、いざ出てみるとやはり恐ろしい。あの人たちは許してくれないかもしれない。その場で自分を警察署へ連行するかもしれない。結局彼と目が合ったのみで逃げてしまったが、きょう、幼稚園の帰りに、いつもそばを通る販売店のなかにあのヒラメがいることに気づいた。きのう見たのと同じ人、つまり彼の姿もみとめた。きのうより多い人数で何か調べている。だが彼らは知らない、ヒラメがあんなふうに焼けてしまったのは……もう逃げられない。逃げちゃいけない、謝らなくては。ほんとうのことを言おう。少年は決意を固め、しかし最後の一歩が踏み出せず、どうしようどうしようとタイミングをうかがってはピットをじっとのぞきこんでいたのだという、彼に気づかれるまで――。
 少年は静かにジュースを飲んだが、またも伏し目になって、どうやら話すうちにふたたびつらい記憶が舞い戻ってきたようだった。この幾日かで相当に思いつめたらしい。横顔にはその幼さに似合わない、深い疲労と後悔がにじんでいる。耐えがたい重責を感じて押しつぶされそうになっていたにちがいない。
 彼は同情した。他人の車に無断で乗りこんだという後ろめたさがあるだけ、そしてそれが自分のずっと気になっていた憧れの車だったぶん、燃えてしまったことが余計にショックだったのだろう。しかもその燃焼があろうことか自分の乗ったすぐあとの日だったのだから、路上に燃えているヒラメを発見したときの少年が受けた衝撃とダメージの大きさは想像するにあまりある。「自分のせいだ」と思いこんでしまったのも無理はない。だから現場確認をしていた彼と目が合ったとき、あれほど顔が真っ青だったのか。まさかこちらを警察の捜査員と勘ちがいしていたとは、彼のほうこそ露知らず。
 「アキラくん……怖かったね。びっくりしたよね」
 彼は気遣い、しかしそろりと尋ねた。
 「あの車に乗ったとき、きみは運転席に座っただけ?」
 「はい」
 「どこかあけたり、押したりさわったりした?」
 「うーん……えっと」
 「ハンドルくらい持ってみたかな。でも、運転席からは出なかったんだね?」
 「うん」
 「そっか。ありがとね、話してくれて」
 「うん……」
 彼の問いに少年が嘘で答えたとは思えなかった。エンジンフードを少年があけ内部に意図的に細工をほどこしたり、あるいは排気管に可燃物を放置したりしたとはもっと思えない。そもそも排管にこれといった異常は見つからなかった。少年はハンドルを握ったり、ひょっとするとミッションのシフトノブや、その他オーディオ機器や点灯スイッチ等に触れてみたりしたかもしれない。車を下りてドアを閉める際、閉まりきらず半ドアの状態で帰ってしまったかもしれない。だがたとえそれらを少年がやったとして、起こり得るのはせいぜいバッテリーが上がってエンジンがかからなくなるくらいだろうか。だがそうなると発進自体が不可能となり走行できない。洗車前にバッテリーが上がっていたなどという話も、ヒアリングの結果オーナーからは出なかった。
 ……つまるところ、少年の行為が今回の燃焼へつながった直接的要因になったとは考えづらい。少なくとも火災とは無関係とほぼほぼ断定していいのではないか。それなら早いところ保護者の連絡先を少年から聞き出すか、幼稚園に問い合わすかして家へ帰したほうがいい――……彼は口をひらきかけた。だがそれを待たず少年がわずかにまた、はなをすすった。うつむいたきり「ごめんなさい」とはっきり謝り、ジュースを置いた。
 「アキラくん……きみのせいじゃないよ」
 彼は言ったが、少年が信じたかどうか分からなかった。そのうなだれたようすに、少年がいかに憔悴しているか痛いほど伝わってきた。
 「燃えるって、僕、思わなかった……燃えるって、知らなかった」
 彼はふと、絞りだすようなその少年の震え声を聞いて思った。
 今からすれば彼は思う、親の離婚も母子家庭も大したことじゃない。そんな事例は世の中にいくらでもある。けれどこの少年くらい幼かった当時の自分には、それは世界がひっくり返るくらいの「大したこと」だった。大事件だった、親が離婚するなんて。
 このアキラ少年も、いつかこの出来事を思い返して「なんであんなことで泣いたんだろう?」と首をかしげるかもしれない。あれほど気に病む必要はなかったと。しかし少なくとも今のこの子にとってこれは「大したこと」で、もし彼が少年の悲愴を軽くとらえて「きみには関係ないよ」と追い返したらどうなるだろう。この子はヒラメが燃えたわけを、その真相を知らされずにしたがって納得もできないまま、今後このことをずっと自らの負い目として、自らが招いた火災としてかかえてしまうかもしれない。せっかく好きだった車を恐れるようになってしまうかもしれない。いつか傷が癒えるまで、忘れるまで。あるいは「大したことじゃなかった」と自分で気づけるようになるまでずっと……考えすぎだろうか。しかし、これでいいのか?
 「アキラくん。一緒においで」
 彼は帽子をかぶった。少年の手を引くと椅子から立たせた。
 「車を見に行こう」
 「え……」
 「きみに教えてあげる。どうしてあれが燃えちゃったか」
 個室を出ると彼は先刻の真弓という女性を近くに見つけ、呼びとめた。そして頼んだ。
 「もしよかったら――お時間があれば――ピットまで来てくれませんか。僕が話をつけるあいだ、少しだけこの子のそばにいてあげてほしいんですけど……少しで済むんで」
 「もちろん。いいですよ」
 三人でピットへ戻ると彼は少年を女性にあずけ、待っていた西園寺らメンバーに少年から聞き取った内容とそれを基にした自身の見解を伝えた。全員が同意し、では少年の名も分かったことだし保護者と連絡をつけようという話になり、出てきた店舗スタッフに相沢がその旨を伝え然るべき手段が取られたが、そこで彼はメンバーへ、イレギュラーを承知で少年に燃えたヒラメを見せてやりたいと話した。なぜそうしたいか、理由も手短に伝えると、意外にも全員があっさり承知した。西園寺はあの性格なのでよしとして、相沢ら販売店の人間も消防も、子供へ対するサービス精神が旺盛というか度量があるというか。慣れているらしい。
 彼は少年を呼んだ。緊張したふうに女性に連れられてきた少年の手を、皆の前で取る。
 「この車の名前、知ってる?」
 「ううん……」
 「セリカ、っていうんだよ」
 彼は少年の手を引き、エンジンフードのあいた車体前部へと導く。
 「古い車でね。もしかしたらきみのお母さんやお父さんより年上の車かもしれない。見てごらん。見えるかな」
 彼はエンジンルームを示した。少年は首を伸ばし、おっかなびっくりのぞこうとする。つま先が上がる。
 「うーん……」
 と少年。見づらそうにしている。ルーム全体を俯瞰するには背が足りないか……彼が思ったとき、いつの間にやら隣へ来ていた西園寺が言った。
 「俺、ちょっと抱っこしましょうか」
 そしてひょいと少年を持ち上げ、尋ねる。
 「どう? 見える?」
 少年はうなずいた。真剣な表情。彼は説明を始める。言葉を選んで。
 「これがエンジンだよ。アキラくん。火が回ってぐちゃぐちゃになっちゃってるけど、この機械で車は動く。これがなかったらタイヤは回らないし、前にも後ろにも進めない。大切な機械だよ」
 「うん」
 「じゃあ、そのエンジンに付いている……これを見て。この黒いコード。ほかにも、おんなじやつがいっぱいあるよね。分かるかな」
 「うん……うん、分かる。いっぱいある」
 少年は大きく答えた。それらのディストリビューション・コードのうち一本を彼は指し示した。
 「それじゃ、これ。このコード、よく見るとほかの機械にくっついちゃってるところがあるよね。……ほら、ここ。当たっちゃってる」
 「うん」
 「コードがこんなふうにほかにぶつかってるのはね、じつはすごく危ないことなんだよ。車が走っているとき、このコードのなかには電気が流れてる。強い電気。だから何かのはずみにここから電気が漏れると、その漏れた強い電気が、今ぶつかっているほかの部分に当たるね。そうすると、そこで電気の爆発みたいなやつが起きる。危ないよね。爆発して、バチンって音がして、煙が出る。それから火が出る」
 はっとしたように少年は目を丸くした。西園寺の腕から身を乗り出し、彼の示すコードをじっと見つめた。
 「この車が燃えちゃった原因だよ。このたくさんあるコード。車が走っている途中、このコードのなかを流れていた電気が爆発を起こして、エンジンと、それから運転席を燃やした。……ね? アキラくん。分かったかな。きみのせいでこの車は燃えたんじゃないんだよ。僕も、そのお兄ちゃんも、ほかの人たちもみんな、エンジンを見て、ほかのところもいっぱい調べて、このコードのせいだって決めたんだよ。きみが乗ったせいじゃない」
 彼は真顔に言い切った。だがディストリビューション・コードからの漏電を真因とする確証はない。それは見つかっていない。しかし相沢含めその場のだれひとり、そのことは口に出さなかった。
 西園寺がほがらかな目尻で尋ねた。
 「分かった?」
 少年は何も答えなかったが、強いうなずきを返した。
 西園寺の腕を下りた少年へ、腰を落とし目線を合わせた彼は言った。
 「アキラくん……」
 言わずにはいられなかった。
 「きみが、ほかの人の車に黙って勝手に乗っちゃったことは、あんまりいいことじゃなかったね。……でもね、このセリカは古くて、今ではほとんどだれにも使われてなかったんだよ。いつも車庫に入ったきりでいるのをきみも見てたよね。だからね、この車は、燃えてダメになっちゃう前、この車を好きでいてくれたきみに最後に乗ってもらえて、きっとすごくうれしかったと思うよ。車は乗る人がいなかったら車じゃないよね? だから、きみに大切に乗ってもらえて、ありがとうって、きっと感謝してるよ。この車も、ここにいるだれも、きみのせいで燃えたなんて思ってないんだから」
 少年は顔を上げた。あどけない黒目がかすかにうるんでいた。
 「だから――……」彼は続けた。
 「これからも、車を好きでいてあげてね。怖がらないで乗ってあげて。いつかきみが大人になったとき、楽しく運転できるように……ね、アキラくん。できる?」
 「うん」
 少年は答えた。
 「できる」
 「えらい」
 彼が頭をなでると、よほど安心したのかたまっていた涙がこぼれ、少年はまたもはなをすすった。そして制服の袖で目をこすった。
 彼ははじめて少年の笑顔を見た。なんだかこちらまで安堵してしまう。腰を上げると、西園寺が腕で彼を小突き、からかい交じりに笑ってささやいた。
 「ヒーローじゃないっすか、片桐さん。感動しました」
 「やめてください」
 「いや、ホントですって。いいこと言うなあって。そのとおりですよね。乗る人がいなかったら車じゃない」
 彼はそれから、少年がエンジンルームを気にするので――どれが何のはたらきをしているか興味があるらしい――焼けた補器類を示しながら簡単なものだけ西園寺とともに少年へ説明してやった。どのみち保護者が迎えに来るまでは相手をしなくてはならない。彼はしかし、いかんせん内部が焼損しているのできまりが悪く、しばしして言った。
 「でもね、こんなぼろぼろになってるのじゃなくて、もっときれいなやつを見たほうがいいよ。そのほうが楽しいし分かりやすいよ。最近の車だったら、ここにたくさん置いてある……」
 すると少年は「ううん」と首を左右に振った。手をつないでいた彼を見上げた。
 「お兄ちゃん。なんでそんなにこの車のこと、分かるの?」
 「えっ?」
 「いいなあ……すごい。かっこいい」
 「えっ。いや、そんなことないよ。僕は……僕よりそっちの、ほら、そっちにいる人たちのほうがずっと詳しい――」
 「いやあ、片桐さん。とんでもない。旧車に関しては僕らだって、そんなに。そういつも見られるもんじゃないですから、ねえ?」
 と視線のかち合った相沢。にこにこしている。どう考えても謙遜の笑み。少年の手前、彼を立ててくれていることは分かるので彼は余計にきまりが悪い。
 「照れてます?」と西園寺。やっぱりにこにこしている。
 ほどなく少年の母親が店舗からピットへ案内されてきた。都会的な雰囲気の若々しい女性。少年に駆け寄るなり「迷惑かけて!」と甲高く、それから泣き笑いで少年を抱きしめ、立ち上がり、周囲に何度も頭を下げた。よっぽど心配したらしく、そりゃそうだろうなと全員が一件落着のような顔で応じる。同じマンションに住む園児たちと、付き添いの大人ひとりで集団で歩いていたところ、途中から少年の姿がないことに気づいて大騒ぎだったという。母親と話す相沢が少年とヒラメの経緯について何も口にしないので、それにならって皆そのことは黙っていた。あえて言う必要はないと思ったか、客と接する機会がもっとも多い販売店の人間ならではの粋なはからいか。少年が、近ごろ近所で燃えた車両がピットに入庫されているのを見て気になったようで――結局、母親にはそうとだけ伝えられた。
 後日あらためてお礼にうかがうとあいさつを交わす母親のそばを、少年はぱっと離れて彼のほうへ走ってきた。
 「お兄ちゃん」
 少年は背負っていたかばんを下ろすと、おもむろに一冊の本を取り出した。薄い文庫サイズだった。
 「これ、あげる」
 「えっ? くれるの」
 「うん。いっぱい教えてくれて、どうもありがとう」
 戸惑ったが断るわけにもいかず、彼は素直に受け取った。
 「それ、僕の好きな本。あの……僕と同じ名前の人が出てくるの」
 「そうなんだ。ありがとう」
 「うん」
 かばんを背負い直し、少年は笑った。母親に呼ばれ、振り向いて駆け戻る。母親いわく春からは小学生だという。水色の傘がピットを出ていく。降りしきる雨に、パーキングの母親のものと思われる軽自動車へ歩いていく親子。その姿を見送ってから中断していた調査が再開されたが、もはや結論は出ているも同然。
 「だって、あの子にもああ言っちゃったことですし……」
 と、もうひと仕事終えたような口調で西園寺が笑っている。彼は申し訳ないような気にもなった。が、あれ以上の成果は、たとえ少年による介入がなかったとしても出なかっただろう。

 イレギュラーによって生じた作業の遅れや中断を消防へ詫び、礼を言った。技術スタッフにも。こんなFHははじめてだったという。途中から子供向けの社会学習みたいになっていて楽しかったですよ、と。よごれたブルーシートにしばし「お疲れ様です」がただよう、時計を見やればそろそろ夕方。雨で時間の感覚が薄れていた。
 どっと疲れが押し寄せてくるような、気だるい安泰感があった。あんな幼い子供を相手に長く話をしたのは彼にはめずらしい。優しい声音を意識しすぎたあまりにマスク下の筋肉がだるい。
 ほんとうに、今回はイレギュラーだった。
 「相沢さん」
 彼は相沢の隣へ行った。
 「いろいろとすみません。きょうはありがとうございました」
 「いやいや、こちらこそ」
 相沢は明るくかぶりを振った。
 「僕のほうこそ、勉強になりました。こういう古い車を見る機会って、さっきも言いましたけど、うちみたいな販売店じゃ少ないんで。だから意外と『あれ?』、『これなんだっけ?』ってところがあったりしてね。昔の記憶を久しぶりで引っ張り出しました。ディスビの車なんて最近じゃ見ないですから。そもそもガソリン車自体、減ってきてる。ハイブリッドか電気ばっかでね、もう」
 「はい」
 相沢はヒラメへ視線をそそいだ。つられて彼もそちらへ目をやる。
 「まあ電気は……EVは確かに便利ですよね……」
 ふいに相沢が言った。何か感慨にふけるようなトーンだった。
 「このあたりの街乗りであればね。正直な話、これからはEVで十分だと思いますよ。ねえ?」
 「ええ。そうですね、それは」
 「でもなあ、僕はやっぱりガソリン車が好きですね。あの匂い、あの音。乗っていて楽しいし、イジっていて楽しい。電気とか水素とか言われてね、その波は止められないと思いますし、それがいけないというわけじゃあないですよ、そういう時代ですから。……だけどねえ、車はどうしたってガソリンからですよ。それから始まってる。内燃機関っていうのは、あれは一種の芸術ですよね。原点であって、唯一無二というか」
 「はい。……」
 「古い考えかもしれませんけどね。でも、世の中がどれだけ変わっていっても、無くしてほしくないなあ……久しぶりでこのヒラメを見て、なんかますますそう思いましたね。パワーだの馬力だのゼロヨン・タイムだの、車が利便性や合理性を追求するただの移動手段ではないというのが、それを乗る人たちにとって当たり前だったときもあったなあと。……メーカーさんには、だからこれからも、エンジンのエンジンとしての機能を大切にしていってほしいなあ、なんて思ってね。最新装備に力を入れよう、自動運転だ先進安全技術だ、変えていこう変えていこうとするのは、もちろん重要なことですが。でもそればかりに傾倒すると、同時に忘れられたり、うしなったりするものもどんどん多くなる。もうこのセリカみたいな車は二度とは作られないでしょうね。こんなパワー全開のヤツはね」
 「…………」
 「燃えた車両をこうして検分するのも、めったにないことですから楽しかったですよ。僕らはいつもお客さんの普段乗られてる車ばかりなんで、ここまでになったものには、ほとんどさわらない。お客さんの車じゃあ、きょうみたいな大胆な分解作業だってなかなかやりづらいですよ、何しろ壊せないですから。その点、そちらは貴重な仕事をされてます」
 相沢の視線はヒラメから彼へ。そして西園寺へと動く。
 「若いうちからこういう仕事をね。ほんとに貴重ですよ」
 「そうですか?」
 彼はとっさに返した。
 「僕はあまり……」
 「いや、そうですよ」
 相沢は迷いなく首肯した。
 「だってめずらしいでしょう。このごろの若い人で、こういう古い車の構造をよく分かっている人がどれだけいるか。専業の整備士であればまだしもね、旧車好きでなかったらほぼいないと思いますよ。それもきれいな状態じゃなくて燃えた車でしょう。ますますめずらしい。僕みたいな仕事してたって、そう見るものじゃない」
 「はあ。それは、まあ」
 「車について知識がつく一方でしょう? 片桐さん。ああいう調査していたら。あんな状況の車両を見て、これはどの部品だとか、これはあそこに付いていたやつだとか、あれはもともとはこうなっていたはずだろうとか、いちいち考えるわけだからねえ。ぐちゃぐちゃの寄せ集めを逆算して組み立てていく、と言うのかな」
 「はあ」
 「さっきの男の子もね。車の内部機構について詳しく説明できる人が、身近になかなかいないんじゃないかな。なんでもかんでもお金払って、他人や機械にやってもらうご時世ですよ。それを言ったらまあ僕らの仕事なくなっちゃうんで、アレですけどね。
 あの子は片桐さんにいろんなことを教えてもらえて、それを『かっこいい』と思ったんでしょう。びっくりしたんだと思いますよ、『こんなに詳しいお兄ちゃんがいるんだ』、『燃えた車の中身ってこんなふうになっているんだ、すごいなあ』って」
 「…………」
 「伝統工芸みたいなもんですよね。僕はわりとそう思ってるんですが。需要が減っても、大切にして守っていかなくちゃならない。完全にすたれないように。それを分かっている、見ている、知っている。もうそれだけですごいことです。説明できればもっといい。実践できたらさらにいい。それをできる人の数が、これからはどんどん少なくなっていくばかりだと思うんでね」
 相沢は言葉を切った。見透かすような笑みを目端に刻むと、「自信持ってください」と言った。
 「誇りにできること、やられてますよ。片桐さん。きょうはどうも、ありがとうございました」
 彼の頬が熱くなった。
 すぐには何も返せなかった。

 店舗からピットへ女性が出てきて、調査を終えたメンバーを案内し、お疲れ様でしたとコーヒーを出してくれた。その際、彼は女性が少年を一時あずかってくれたことへの礼を言ってなかったと気づき、女性が自分の前にカップを置いたとき口をひらいた。
 「あの……」
 目が合う。
 「さっきはありがとうございました」
 女性は「いえ」と答えて笑う。
 「かわいい子でしたね」
 「ええ、はい。ええと……まゆみさん、と読むんですか。お名前」
 「あっ、そうです。まゆみです。皆さんけっこう、訊かれます。名前みたいな名字ですよね?」
 と言って、ひとしきり雑談に加わった。正確な年齢は分からなかったが、話の流れから、どうやら彼とほとんど変わらないらしかった。媚びたようなわざとらしい調子がなくさらりと受け答えしているのが、彼の印象に残った。
 雨が弱まっていた。スーツに着替え販売店を辞したあと、西園寺と別れた。FHではない別件をあすに控えて、このあと東京でもう一泊するという。本社で用事らしい。
 「あしたの帰り、またこっちに寄って真弓さんの連絡先、訊いといてあげてもいいっすよ。それか電話で相沢さんにそう言いましょうか」
 と別れ際、ふざけ半分の要らない世話を焼いていった。いわく、「あれはどう見ても片桐さんのこと『まんざらでもない』」……だったという。
 やや風の立つ身震いしそうな新幹線ホームで、彼は仕事用のスマートフォンを手にチャットを確認する。それから電話をかけた。
 「あ、倉本さん。お疲れ様です。片桐です」
 かけた先は上司の倉本。
 「もう販売店さんから出て今、新幹線のホームです。はい……セリカ、なんとか終了しました。ちょっとしたハプニングはありましたけど……や、全然。だいじょうぶだったんすけど」
 説明がむずかしいな……少年との一連の経緯を思う。その話はあすのミーティングに回すと決め、取り急ぎの結果報告。
 「はい。ミッション、分解したんですけど……現物が想像の倍、綺麗でした。関係なかったみたいです。画像で見たときはもっと荒れてるっぽく感じたんですけど……剥がれも何もなく……はい。それで、あのヒラメ・セリカってディスビがなんか八本もあったんすね。それがけっこう、あっちこっちタッチしてて……コード同士が絡んでたりとか……はい。なのでみんなで、まあこれはたぶんハイテンション・コードからの漏電じゃないかなというところで……はい。ほかに変な箇所は見当たらなくて。一応それで決着つけました。すいません。そう決めては来ましたけど、結局は真因不明で帰ります。残念ながら」
 でも……彼はつぶやいた。
 一瞬黙り、苦笑を浮かべた。
 「でも、すごく勉強になりました。有意義でした。……はい。ほんとうに。……え? ああ、はい。さっき確認しました、チャット。また案件入ってきたんすね。ざっと見ただけですけど厄介そうっすね……来週ですか。熊本……え? ……はい。いやいや、平気です。いいですよ全然。むしろ――」
 声を強める。
 「自分、行きます。行かせてください」
 ホームに到着のアナウンスが響いた。
 車内へ乗りこみ、窓際の座席に着いてやっとひと息。あとは帰るのみ。
 発車後、彼はしばらくのあいだ、窓外を次々と流れ過ぎていく薄闇の雨景色をぼんやり見ていた。街あかりから家並の屋根、ガラスに映る電灯、あいていたり閉まっていたりするさまざまなカーテン、暗い橋下の土手や河川、次第に田畑を交じえて郊外へと出ていく。
 天候は最後まで回復せずじまいだった。だが彼は絶景をそばに眺める思いで、ぼうっと考えていた。
 とてもすがすがしい気持ちだった。
 こんなに晴れたような気持ちはいつぶりか分からない。
 相沢の話したような視点で、彼は車両火災にかかわる自身の業務を見たことがなかった。だがああ言われてみてはじめて、あっと気づいた。そうか……そんなとらえ方も確かにあっていい。あるべきだと思った。
 自動車を一般に広く普及させてきた過去の百年と、これからの百年。その自動車のあり方が変わりつつある、ターニングポイントとも変革期とも言われる現在は、未来を見据え、社会の変化にともなうニーズの変化に合わせなくてはならない。車に夢を重ねる時代では今はなく、純粋なガソリン車は今後おそらくさらに減っていく。環境に配慮するため事故を無くすため、燃費を上げるため、現代的なユーザーの価値観に沿うため……けれど、そのターニングポイントに立つ今、次の百年があるのは今を築きあげた過去の百年があったからこそ。未来を支えるため夢を描き、懸命に開発し、大事に楽しく走らせてきた、そのいしずえがあったからこそ「次」がある。そのことを忘れてはならない、ないがしろにしてはならない……内燃機関を「芸術」と呼び、原点であって唯一無二と思っている、相沢のような技術者が今もいること。古きを愛し自ら手をかけ、時を経ても変わらないオーナーたちが今もいること。メーカー側の人間がそれを忘れたら、きっと「次」は「過去」を越えるものにはならない。なれない。そうか。言われてみればすんなり腹に落ちること。自分はなぜ考えつかなかったのだろう。価値は未来にのみあるものじゃない。いや価値だの意味だの、そういうことじゃない。
 火災に遭いぼろぼろになった車両を調査している。その中身を見て、知って、考えている。現場にあふれる生の知識に触れている。それがどれだけ貴重な経験か――自信を持て。それは誇りにできること――。
 アキラ少年の笑顔が、声が、彼に響いた。
 なんでそんなにこの車のこと、分かるの? ……すごい。かっこいい。
 いっぱい教えてくれて、どうもありがとう。
 礼を言うのはこっちのほうだと彼は思った。
 感謝しなくては。少年にも相沢にも、FHの機会を与えてくれたヒラメ・セリカにも。現場で協力してくれたメンバー全員。西園寺にも。
 あすからは、今までとちがう姿勢で仕事ができる。
 スマートフォンを取ると、新着メッセージが届いていた。タイミングを読んだかのように西園寺から。雨のなかをせわしく別れたためか、あらためてきょうをねぎらう「お疲れ様」のあいさつとともに、こう添えてあった。
 「今度、春キャンやるんですけど、もし都合よければ一緒にどうすか? 薪割りできますよ」……。
 少々迷ったあと、それも悪くない、と思った。
 そう、何事も悪くない。時にはこんなふうに、台風一過のような心地よさを感じられる。
 彼は返信を送った。
 「いつですか? 薪割りやってみたいです」……座席に身を沈め、それから少し眠るつもりになる。降車駅まで先は長い。しかし目を閉じかけたときふと、少年からもらった本を思い出した。渡されたきり、よく内容をあらためもせずにいる。あの子は何の本をくれたのだろう。自分と同じ名前の人が出てくる、好きな本だと言っていた……彼はスーツケースの外ポケットからそれを取り出す。
 そんなに新しい本ではない。初版は今から三十年以上前の日付。作家の名には聞き覚えがあるような、ないような。はじめて手にするタイトルだが、その作家の短編集のひとつらしい。普段の作風からはめずらしく、児童向けに書かれたストーリーを含む……という。なるほど。だから表紙のデザインがどことなくおとぎ話風なのか。濃いクレヨンで描いたようなタッチで、しかしその色味はやけにさみしくモノクローム。
 ふうん……吐息でつぶやき、彼は表紙をひらいた。一話目の題名を見て、そのデザインに得心がいった。
 「なるほど」
 彼は静かにページをめくると、読み始める。タイトルは「白大理石と黒影」――……。
 長く降り続いた雨。雪にもなれずに、長かった。
 しかしそれも、そろそろやもうとしている。


Another (Rainy) Akira
End.
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