七時雨 後・ⅩⅡ
文字数 653文字
七時雨の山を頂く水門の村。
今日は久し振りに太陽が顔を出して、山の白が目に眩しい。
ユゥジーンは、村長の所の子供と並んで水門の上に立っていた。
「全部は話せないけれど、皆の記憶が飛んじゃったのは病気じゃない。この村に入り込んだ悪い奴をやっつける為に必要だったんだ。だから記憶を戻す事は出来ない。許しておくれ」
「うん、いいよ、ユゥジーンさん。調べてくれてありがとう。信じてくれてありがとう」
子供はユゥジーンを見上げて、笑顔で言った。
「それに聞いて。あの友達に会えたんだ」
「本当かい!?」
「またこっちに来る用事があったとかで、寄ってくれたの」
「そうか、よかったなあ! 忘れちゃった間の事とか、教えて貰えたかい?」
「ううん、急いでいたみたいで、本当に会っただけだった……みたい」
「んん?」
「あれ、やっぱり姿とか声とか思い出せないや? あ、でも今回は、宝物貰ったんだ。ほら!」
子供は、ポケットから大切に何かをくるんだハンカチを取り出した。
開いた中身を見て、ユゥジーンは思わず(ヒッ)と声を出しそうになった。
あの寄生蛇の形をしていたからだ。
しかしサイズはずっと小さく小指程で、色もツララのような透明で、キラキラと陽に反射している。
魔と精霊が融合した……精霊だった部分? 何となくそう思った。
「ねえ、嫌いだったら宝物くれないよね。だからこれを見ているだけで、とっても幸せ。その子が僕を好いていてくれて、僕もその子を好きって思い出せるから」
雪を頂いた山は、何事もなかったかのように、ただ白く光っていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
(ログインが必要です)