七時雨 後・ⅩⅡ

文字数 653文字

 



 七時雨の山を頂く水門の村。

 今日は久し振りに太陽が顔を出して、山の白が目に眩しい。
 ユゥジーンは、村長の所の子供と並んで水門の上に立っていた。

「全部は話せないけれど、皆の記憶が飛んじゃったのは病気じゃない。この村に入り込んだ悪い奴をやっつける為に必要だったんだ。だから記憶を戻す事は出来ない。許しておくれ」

「うん、いいよ、ユゥジーンさん。調べてくれてありがとう。信じてくれてありがとう」
 子供はユゥジーンを見上げて、笑顔で言った。
「それに聞いて。あの友達に会えたんだ」

「本当かい!?」
「またこっちに来る用事があったとかで、寄ってくれたの」
「そうか、よかったなあ! 忘れちゃった間の事とか、教えて貰えたかい?」
「ううん、急いでいたみたいで、本当に会っただけだった……みたい」
「んん?」

「あれ、やっぱり姿とか声とか思い出せないや? あ、でも今回は、宝物貰ったんだ。ほら!」

 子供は、ポケットから大切に何かをくるんだハンカチを取り出した。
 開いた中身を見て、ユゥジーンは思わず(ヒッ)と声を出しそうになった。
 あの寄生蛇の形をしていたからだ。
 しかしサイズはずっと小さく小指程で、色もツララのような透明で、キラキラと陽に反射している。

 魔と精霊が融合した……精霊だった部分? 何となくそう思った。

「ねえ、嫌いだったら宝物くれないよね。だからこれを見ているだけで、とっても幸せ。その子が僕を好いていてくれて、僕もその子を好きって思い出せるから」

 雪を頂いた山は、何事もなかったかのように、ただ白く光っていた。

 
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登場人物紹介

リリ:♀ 蒼の妖精

現長ナーガの娘。子供に見えるが年齢的には大人。

身体も能力も成長の遅いタイプ。早く一人前になりたくて焦り気味。

ユゥジーン:♂ 蒼の妖精

長の執務室で働く優秀なメンバー。

リリを幼児の頃から面倒見ていて、いつまでも子供扱いしている。

サォ教官:♂ 蒼の妖精

蒼の里の修練所の主任教官。

孤児たちの為のハウスも運営する、熱意あふれる教育者。

カノン:♂ 西風の妖精

西風の長の息子で、蒼の里に留学中。種族的に寒さに弱い。

術のポテンシャルは高く、たまに思いも寄らぬ力を発揮する。

ナーガ・ラクシャ:♂ 蒼の妖精

今代の蒼の長。近年でもっとも能力的に信頼されている。

父親としてはまだまだ発展途上だと、自分で思っている。

ナユタ:♂ 風露の民

リリの全弟。ナーガを父に持つが、風露の民である母の血の方が強く出ている。

中途半端な特性なりに、出来る事をやって生きて行こうと前向き。

ホルズ:♂ 蒼の妖精

ノスリの長男。執務室の統括者。

若者の扱いが上手い、有能中間管理職。

ノスリ:♂ 蒼の妖精

前の代の蒼の長。ナーガと血縁はなく、繋ぎの長だったが、人望厚く頼りにされている。

シリーズの最初から出ずっ張り。ご苦労さんとしか言いようがない。

リューズ:♂ 海霧の民(血統的には西風の妖精)

海霧の神官で、術力は砂漠で一二を争う。カノンの父だが名乗りは上げていない。


シルフィスキスカ:♂ 風波(かざな)の妖精

太古の術、海竜の使い手。友人に頼み込まれて仕方なく訪れた蒼の里で、リリに出逢う。

ピルカ:♀ 蒼の妖精

ホルズの末娘。同年代の娘達のリーダー格。

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