第4話 逃走

文字数 7,578文字

 長い行列に並んだコーデフは、二人の睨み合いから解放され、ほっとしつつも、少しでもアリアンの役に立てるのが嬉しかった。
 いつも必死になって追いついても、邪魔! 面倒! うざい! と言う顔で睨みつけられるのがオチであったからだ。
 早くアリアンの元に饅頭を届けたいと、前の列の様子を見ながらも、コーデフは時々アリアン達の方を振り返る。
 前にも用事を頼まれ、それを果たして戻るともぬけの殻で、置いてけぼりをくらった事が何度もあったためだ。

 けれど、置いてけぼりを食らおうとも、二人に追いつける自信はコーデフにはあった。
 本人達に自覚はなさそうだが、実にあの二人は目立つのだ。

 アリアンの真っ赤な逆立った髪や、エスティヴァンの恐ろしいまでに澄んだ青い瞳もさることながら、二人してそれはもう男前なのである。
 端麗、美麗、秀麗、と言う形容詞をくっつけても、誰からも異論が出てこないであろう程に。
 顔のいい男はそこら辺に居るが、二人にはどことなく気品が漂っているのである。
 傭兵なので着ている服は安物で、荒事ばかりをしているものだから、継ぎはぎなんかもあったりする。それでもなお、気品を感じさせるのだ。
 高価で豪華な服を着れば、王侯貴族でも通るくらいに。

 傭兵の中には、落ちぶれた貴族や、何らかの事情で王族を出された者も居るらしい。
 らしいと言うのは、傭兵は過去を語りたがらないからだ。
 元貴族や王族が、金を出せば何でもすると蔑まれている傭兵稼業をせざるを得なくなったと言うのは、屈辱以外の何物でもないだろう。
 それ故に、傭兵の過去は聞かない、と言うのが卑しい傭兵への唯一の礼儀ともなっている。

 一人でも目立ちそうなのに、そんな二人が連れ立って歩いているのだから、目立つ! 目立ちまくる!
 特に、女達には。うら若き乙女はもちろん、子供を連れた女や、孫を抱いた女にでも、こんな二人を見なかったかと聞けば、数人に一人は確実に覚えている。
 今も、何人かの女達が横を通り過ぎながら頬を赤らめて、二人をこっそり見ていっている。
 ここで二人を見失っても、十分行き先は掴めそうである。ただ、本当にお腹が空いているのか、二人は動く気配を見せない。
 
 コーデフは、今日は大丈夫そうだと視線を前へと戻し、表情を曇らせた。
 中々進まないのは覚悟の上であるから、コーデフの表情を曇らせたのは別のものだった。
 列の四、五人前に並んでいる男の方に、目つきの良くない、ガラの悪そうな男達がニヤニヤ笑いをして近づいて行っていたからだ。

 男達は、真面目そうな男の傍へ行くと、
「おやぁ、衛士様も大会にご出場ですか」
「そんなのに出られなくても、すでに衛士様なんですからよろしいでしょうに」
と、男に絡み始めた。
 男の方は相手にせずに、前を見つめている。

 武術大会には、ト・ボレルの民も参加できる。兵士達も、今より上級の位を得ようと参加する者も居る。
 城の衛士は選ばれた兵士達がなれるもので、大抵はそれを目指して参加するのだが、もう衛士の身分を得ているのだから、参加しなくても良さそうなのは、絡んできた男達の言う通りであった。
 大会に参加する兵士は、その間任務から外される。一般の民として生活しなくてはならないので、城の衛士でもこんな所で列に並ばなければならないのだろう。

 衛士らしき男に無視をされても、なお男達は言葉を続けた。
「ああ、もしかして王族入りを望んでおられる?」
「今年は、王女様のお相手を決める大会ですからねぇ」
「あなた程の男前なら、王女様もすんなり頷かれるでしょうねぇ」

 この揶揄に、衛士の男は形のいい眉を少し顰め、男達を睨んだが、すぐに前へと視線を戻した。
 この頃になると、周りの者達も不穏な雰囲気に、チラチラと男達の方を盗み見し始めていた。

「そうそう! 今年も王子様は大会に出られないみたいですねぇ」

 相手にしない男に業を煮やし始めたのか、男達は別の話を持ち出してきた。

「”戦士の国”の王子に生まれながら、大会に出たくないとは、これまた何とも不甲斐ない王子様で」
「そんな腰抜け王子より、あなたの方が王に相応しいかもしれませんねぇ」
「ああ! それが目的ですか。情けない王子に成り代わって王になると……」

 そこで、男の言葉は途切れた。
 正確に言うならば、途切れさせられた。真面目そうな衛士の男に顔面を殴られて。

「王子のお気持ちもわからぬくせに! 馬鹿にするな!」
殴られ、地面に倒れた男を上から睨みつけ、衛士が怒鳴る。

 周りの者達は、巻き添えを食ってはいけないと逃げ出し始めたが、少し遅かった。
「腑抜け、腰抜け王子の気持ちなんざ、わかりたくもありませんよ!」
 このセリフが合図だったように、男達は一斉に衛士の男に殴りかかって行った。

「わ!」
「きゃっ!」
と、あちらこちらから悲鳴が上がり、将棋倒しが悲鳴が上がった場所で起こり始める。

「わ、わ、わ、わ、わ!」
 コーデフも巻き添えを食らい、バランスを崩して地面に倒れ込んだ。
 その様子を見て、アリアンとエスティヴァンがコーデフの元へ駆け寄ってきた。
「大丈夫か?」
そうアリアンが声を掛けたのは、コーデフにではなく、コーデフの上にどっかと座りこんでいる女にだった。
「は、はい! 大丈夫です……」
 女はカッコいい男二人に見つめられて、頬を染めながら恥ずかしそうに立ち上がった。大きく膨らんだお腹を抱えながら。
「あ! す、すみません! あなたこそ大丈夫でしたか?」
 立ち上がってから、コーデフに向き直って頭を下げる。
「アハハ……。大丈夫みたいです」
 焦げ茶の髪を掻きながら起き上りつつ、コーデフが答えている所へ、夫であろう男が駆けつけて来て、二人して何度も頭を下げながら去って行った。
「この、お人好しが」
 二人が去った後に、アリアンがコーデフを睨みつつ言う。
 コーデフはまた頭を掻きながら、照れ笑いを作った。
 避けようとすれば避けられたのだが、前に立っていた女のお腹を見て、咄嗟に庇ってしまったのを、しっかり見抜かれていたのだ。
「おまえを見習ったんだろう」
 エスティヴァンがポツリと付け加える。
 あ!? と、アリアンが片方の眉を吊り上げたのを見て、
「あ~~! あの人、大丈夫かなぁ!」
と、コーデフは必死に他の話題を提供した。

 衛士とやくざな男達の殴り合いは続いていて、その周りに人垣が出来ていた。
「潰しかな」
 アリアンが素直にその話題に乗った。
「潰し?」
 エスティヴァンが意味が分からないと、聞き返す。
「大会の前にな、強そうな奴をぶっ潰そうって、不埒でこすっからしい輩が居るみたいだな」
「ほぉ……」
「ああ、そう言えば、わざと怒らせてるって感じでしたね。あの人、城の衛士をしておられるみたいで、お強いみたいですから」

 国の最後の砦となる城を守る衛士である。コーデフの言葉通り、地面に転がるのは、いちゃもんをつけて来た男達ばかりだった。
 コーデフが妊婦を庇ってすっ転んだために逃げ遅れ、人垣の最前列で見物する事となり、衛士の奮闘ぶりが良く見えていた。
「へぇ~。城の衛士をしてるのに、大会に出るのか」
「なんか、王女様のお相手になるとかならないとか言ってたかなぁ。王族入りを狙ってるとか」
「今年は、王女のお相手を決める年なのか」
「そうみたいですね」
「王女のお相手?」
 もう一度、エスティヴァンが意味が分からなさそうに聞き返したが、それに答える前に、衛士にぶっ飛ばされた不埒な輩がアリアン達の方に転がり込んできた。

 何度か転がされたのか、服は土にまみれ、顔には不名誉な痣がいくつか出来つつあった。
「ご苦労さん」
 アリアンが小さな声で労いの言葉を掛ける。男の方を見もせずに。
 その声が聞こえたのか聞こえなかったのか、男は悔しげに衛士の方を睨みつけたまま、ギリッと奥歯を軋ませ、手近にあった物を掴み、振りかぶった。
「あ!? ちょっと待て!」
 余裕をかましていたアリアンが顔色を変えて止めたが、時すでに遅く、振りかぶった物は男の手から離れ、衛士の肩に直撃していた。

「うっ!」
 衛士が呻きながら右肩を押さえ、片膝を地面に付いて蹲ると、仲間の男が厭らしい笑みを浮かべ、衛士の傍らに転がる投げつけられた物を拾い上げ、止めとばかりに衛士の頭に向かって振りかぶる。

「きゃっ!」
 見物していた女達から、思わず悲鳴が上がる。

 だが、それが振り下ろされる事はなかった。

「だ、誰だ!」
 振り上げた腕を万力のような強い力で掴まれた男が、首だけ捻じ曲げて後ろを見ると、真っ赤な逆立った髪をした男が睨みつけていた。
「その鞄は、俺の大事なお仕事なんだ。返してもらおうか」
「ああ!?
鞄と言われて、男は自分が持っているのが鞄だと初めて気が付いたように、上を見上げた。
「ああ、わかった。返すから、手を放してくれ」
 やくざ男がこう言ったので、アリアンは一瞬逡巡したが、ゆっくりと手を放した。

 男は手が放れると、ニヤリといやらしい笑みを浮かべ、
「ほらよ! 返してやるぜ!」
言うなり、鞄を遠くの方に投げ捨てた。

 ドサッと重く鈍い音を立てて、鞄が地面に落ちる。
 アリアンは男を睨みつけたが、返したんだから文句はなかろうと言う顔を男はして、へらへらと笑った。
 こんな輩にいつまでもかかずらっていても仕方がないかと、アリアンは踵を返して鞄の方へと二、三歩進んだ所で、いきなり男がアリアンに殴り掛かってきた。

「アリアン!」
 コーデフが顔を青くして叫ぶ。
 だが、殴りかかってきた男の拳を、アリアンはひょいっと頭を少し動かしただけでよけ、勢いよく殴りかかった拳が空を切り、たたらを踏んで前のめりになった男のがら空きになった腹に、振り向きざま思いっきりよく膝を叩きこんだ。

「うぎゃっ!」
 情けない悲鳴を上げて、男は数メートルほど吹っ飛び、その場で気を失った。

「これで、正当防衛成立な」
 涼しい顔で言う。

「過剰防衛だろう」
 エスティヴァンがさらっと訂正する。
「何を呑気に訂正してるんですか!」
 コーデフは、仲間がやられていきり立った男達が、アリアンの周りを囲み始めている所へ駆けつけようと立ち上がり掛けたのだが、後ろから服を引っ張られて、尻餅をついてしまった。
「やめとけ。あれはアリアンの仕事だ。邪魔したら怒られるだけだぞ」
「そん……」
 仕事だと言うのなら、あなたもそうでしょう、と言う目でエスティヴァンをついつい見てしまったのだが、
「今、鞄担当はアリアンな」
と、返されてしまった。

 こう言うやり方で二人は何年もやって来た。それはわかっている。わかってはいるが、どこか納得のいかないコーデフであった。

 その頃アリアンは、周りを取り囲んだ男達を次々とぶっ飛ばしていた。

 男達の手には剣が握られていたが、それも意に介さず、アリアンは剣を抜かずに素手で戦っていた。実に効率よく無駄なく、迅速に。
あまりの見事な戦いっぷりに、周りの見物人から拍手と歓声が上がるほどに。

「何の騒ぎだ!」
「どけどけ!」
「ほら、通せ!」

 騒ぎを聞きつけた警備兵達の怒鳴り声が、見物している人垣の向こうから聞こえ始めると、やくざ者の男達の動きが止まり、
「クソ! 覚えてろよ!」
と叫んで、人並みの中に紛れて行った。

 何処の国でも、ああいう輩の捨て台詞は一緒だなぁ、と心の中で呟きつつ、
「忘れてやるから、感謝しろ!」
アリアンもいつもの返事を口にした。

 やれやれと、やっとこさアリアンが鞄を拾い上げていると、いちゃもんを付けられていた衛士が歩み寄ってきた。
 アリアンが出て来てからは、完全に忘れ去られていた存在になっていたが。
「強いな」
「あんたもな」
「君も大会に出るのか?」
 腰の剣に目をやりながら問うてくる。
「いいや。出る気はない」
「そうなのか。優勝できそうなくらい強いのに、もったいないな」
「宮仕えやら、出世やらには興味がないんでね。まぁ、この仕事が終わったら、見物くらいはしようかと思ってるがな」
「仕事って……? その鞄の中は、仕事道具が入ってるのかな?」
「それも、いいやだな。こいつを届けてくれと雇われただけだ」
 言いつつ、鞄を持ち上げる。
「雇われた? 傭兵か……?」
「ああ」
 短く答える。
 傭兵と聞いて、態度を変える者が何人も居た。短く答え、次の出方を待つと言うのが、自然と身に付いてしまっていた。
「そうか。大変だな」
 意外な返事に、アリアンの眉が上がる。
「我が国の王も、元傭兵だ。兵の中にも、元傭兵は大勢居る。同僚から傭兵時代の苦労話を聞かされてるし」
 アリアンの意外そうな顔を見て、衛士の男は爽やかに笑いながらこう言った。

 緑がかった茶髪に、深い森を思わせる濃い緑の瞳の好青年である。
 アリアンよりは少し年上だろうか。

「ありがとう。君のお陰で助かったよ。僕はサージェ。君は?」
「アリアンだ。だが、礼を言われる事は何もしてない。ただ、俺の仕事をしただけだ」
 傭兵らしい言葉に、またサージェは笑みを作った。
「それよか、早くどっかに行った方がいいんじゃないか? あんたは大会に出るんだろう?」
 後ろをチラッと見やりながらアリアンが言った。

 やっとの事で人垣を掻き分けている、警備兵の槍が見え隠れするようになっていた。
 大会の前に“潰し”を行う者が増えて来て、それを取り締まる法が出来ていた。大会前に騒ぎを起こした者、暴力行為をした者は大会の出場権を失うと言うものだ。

「ああ……。だが、この肩では……」
 鞄をぶつけられた右肩を押さえながら、小さく呟く。
「悪いな。まさか、これを持って行かれるとは思わなくてな」
「いや、アリアンのせいではないさ。きちんと礼をしたかったのだが……」
「俺は、仕事をしただけ」
 こう言うアリアンに軽く頷き、サージェも人混みの中に消えて行った。

 サージェが去ると、へなへなへなっと、アリアンはその場にへたり込んだ。
「アリアン! 大丈夫ですか!? どこか怪我でも……!」
 慌てふためいて駆けつけたコーデフに、
「腹減ってんのによぉ~~! 余計な運動させやがって! 何か食わせてくれ~~~~!!」
と、再び泣き付いた。

「あっ! は、は、はい!!」
 すっかり忘れていたとばかりに、コーデフは屋台の方にすっ飛んで行った。

 すっ飛んで行くコーデフを見ながら、ゆっくりとエスティヴァンはアリアンに近づき、傍に腰を降ろしながら、
「別件か?」
と、聞いた。
「だろう。あいつらの中に、一瞬でもこっちを見る奴が居たら、これを持ってかれるドジはしなかったんだがな」
 ポンポンと鞄を叩きながら、苦々しげに口元を歪めた。
「だな……」

偶然”潰し”に出くわし、偶然アリアン達の方に転がって来て、偶然手近にあった鞄を放り投げた。
と言う結論に、アリアンとエスティヴァンは達した。

この頃になって、ようやく警備兵達がやって来た。
これじゃ、”潰し”はなくならないなぁ、とアリアンが思っていると、いきなり槍の穂先が目の前に突き付けられてきた。
「あ!?
 人違いも甚だしい! と、
「俺達は何もしてねぇぞ! この鞄を持ってかれたんで、取り返しただけだ!」
憤慨気味に叫んだ。
すると、槍を追かまえている兵士達の間から、えらそうな口ひげを蓄えた男が前に進み出てきた。
「その鞄に付いて、少々問いただしたき事がある!」

 どうやら“潰し”に関しての槍ではなさそうだったので、アリアンは立ち上がった。鞄担当はアリアンであったし、こう言う交渉事もアリアンがしていたので、任せたとばかりにエスティヴァンは座ったままだった。
「この鞄は……」
「先日! ト・ギールとの国境沿いの山の中で、ト・ギール国の使者が襲われているのが発見された!」
 アリアンが説明しようとする前に、口ひげ男が話し出した。
「そして! ト・ギールより我が国に献上されるべき物が入った鞄がなくなっていた! その鞄と同じ鞄である!」
 口ひげと同じように偉そうに胸を張って、アリアンの横に置いてある鞄を指差す。
「俺達は! その使者に雇われた傭兵だ! この鞄を奪った奴らから取り返して、王宮に届けるように雇われたんだ。何者かに襲われた後、唯一生き残った使者殿にな」
 同じく鞄を指差しながら、アリアンも胸を張った。
「それが真実であると言う証しは……」
「人を殺してまで奪ったもんを持って、こんな所をうろつくかぁ!?

 その通りであったので、警備隊の隊長であろう男はちょっと鼻白んだ。そして、困ったように視線を横へと向ける。
「う……う~~む。な、なれば! その鞄! 我らが王宮へと持って行っても構わぬな!」
「あ?」
 思いもよらぬ事を言いだされ、アリアンはどうしたものかと考えたが、ポンと肩に手を置かれ、そちらの方を見るとエスティヴァンが立っていた。
「有り難いお話じゃないか。これで、この仕事は終了。のんびり饅頭が食えるぞ」
 アリアンの耳元に顔を近づけ、こう言った。
「それは……そうか。ん!」
 アリアンが鞄を持ち上げ、饅頭を買ったはいいが、何やらややこしい事になっていて、どうしたらいいのかとオロオロしていたコーデフの方を見やり、
「饅頭買えたかぁ?」
と、聞いた。
「は、は、はい! オマケして貰っちゃいました」
 コーデフは、これで一件落着、エスティヴァンの言うようにゆっくりこれを三人で食べられると、嬉しそうに饅頭を持ち上げて言った。
「そっか。んじゃ、落とさねぇ様にしっかり持ってろよ」
「は? 落としませんよ!」
 そこまでドジじゃないですよぉ、と口を尖らせたかけたら、
「逃げるぞ!!」
と、アリアンが叫び、エスティヴァンと共に走り出した。
「え!?
 驚きつつも、コーデフも反射的に駆けだした。

「な、何!? お、お、追いかけろ!」
 後ろで口ひげ隊長が怒鳴るのを聞きながら、
「ど、どうして、逃げるんですか!?
と、走りながらも聞かずにはおられずにコーデフが聞くと、それに答えたのはエスティヴァンだった。
「あの兵士の中に、襲った奴が居た。顔を見られないように伏せてはいたが、あの暗い目は間違いなく、あいつだ」
 エスティヴァンは座っていたので、俯いていても見えたのだ。だから、わざとアリアンの耳元で言う通りしようと提案しながら、賊の頭領の存在を教えたのだった。
「えええ!? ト・ボレルの兵士が、どうしてト・ギールの使者を襲ったんですか!?
「んなの知るかよ! わかんのは、あいつらにこれを渡しても、王宮には届きそうにないって事だけだ!」
「で、でも……!」
「あの隊長は、あいつの指示を仰いでいた。困った時に見てたからな」
「そんな……。それで、これからどうするんですかぁ」
「とにかく! 逃げる!」

 本当に落とさないように気を付けないと! と饅頭が入った袋を持ち直すコーデフであった。
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