アイツさえ、いなければ……

文字数 2,295文字

オレの名は一也(かずや)、高校3年生だ。

オレには片思いの女性がいる。

その名は二美(ふみ)、穏やかで優しい性格だ。

オレは高校に入ってすぐに同じクラスの二美に恋をしてしまった。

しかし、誰かは知らないが二美には好きな男がいるのを知っている。

そいつさえ、いなければ……。



* * * * * * * 



私の名前は二美、高校の3年生です。

私はある男性に片思いをしていて、未だにこの気持ちを伝えられていません……。

その男性の名は三月(みつき)君です。

彼は物静かでおとなしい性格ですが、何か惹かれるものがありました。

それが、恋だと気付くのにそれほど時間はかからなかったのです。

しかし、三月君には好きな人がいると思います。

その人がいる為、私は未だに告白するのを躊躇しているのです。

あの人さえ、いなければ……。



* * * * * * * 



ボクの名前は三月です。

高校3年生で美術部に所属しています。

ボクはその美術部の窓からいつも、ある人を探してしまいます。

その人の名は一也君です。

サッカー部のエースの一也君は、ボクとは違って活発でリーダーシップもあり、とても頼れる存在だと思います。

ボクはいつしか、そんな一也君の事を想い始めてしまいました。

男同士だとはわかっているのですが、どうしてもこの想いは止められそうにありません。

でも、ボクは一也君とお付き合いしたいです。

同性という壁を超えるのは大変だと思います。

しかし、それ以上に一也君には好きな女がいます。

その女さえ、いなければ……。



* * * * * * * 



オレは一也、机の中に手を入れると、何やら身に覚えがない封筒が入っていた。

封筒には二美の名前が書いてあった。

オレは二美からのラブレターだと思い、気持ちが舞い上がった状態でウキウキしながら封筒を開け、手紙を取り出した。

手紙を読んだオレは、凍りついた。

そこにはたった二文字だけが書かれていた。







『殺す』



オレには意味がわからなかった……。

大好きな女性から、殺害の手紙が届いているのだ。

オレは混乱した頭を落ち着かせ考えた。

封筒に宛名が書いてないという事は、オレではなく間違ってオレの机に入れてしまったのか……?

それとも、誰かのいたずらでこんな悪質な手紙を入れられたのかもしれない……。

荒々しかった呼吸も徐々に収まり、オレは教室で物静かに読書をしている二美に声をかけた。

二美は慌てる素振りも見せていない。

その姿に手紙の差出人は二美ではないと、オレは思った。

オレは二美に変な心配をさせないように、手紙の事は何も告げずその場を去ろうとした。

すると二美が突然、オレの手を引きどこかへ連れて行く。

連れて行かれたのは人気のない校舎裏だ。

もうすぐ授業が始まるのに、二美は何をしようとするのだろう。

その時、二美はオレを見つめこう告げる。

「私のこと、好き?」

突然の事で驚いたが、オレは頷いた。

すると、二美は満面の笑みを浮かべた。

「嬉しい」

と答えた。

オレは二美からの告白だと思い、気持ちの高揚感が絶頂になっていた。

「お願いがあるの……目を閉じてくれる?」

オレは二美からキスしてもらえると思い、素直にその指示に従った。

二美は少しづつ近づくのがわかる。

オレの心臓のドキドキは、音が外まで聞こえそうなくらいだ。

オレは唇を尖らせ、目を閉じキスを待っている。

すると、二美はオレの耳元で禍々しい声を出し囁いた。



「私のために、死んで」


その瞬間、オレの胸に激痛が走る。

二美は包丁でオレの胸を刺したのだ。

だが、刺したと同時に二美は横に吹き飛ばされた。

二美は勢い良く地面に転がる。

二美を吹き飛ばしたのは三月だった。

三月はオレに手を差し伸べる。

「間に合って良かった。 一也君の制服に仕込んどいた、盗聴器とGPSが役立ったよ」

三月、お前はオレの制服に盗聴器を仕込んでたのか!?

すごく気持ちの悪い奴だと思ったが、三月のおかげで助かった。

「二美さん、どうしてボクの愛する一也君を殺そうとするんだ!?

おい、三月……お前はサラッとすごい事を言ってたぞ。

オレは男だぞ。

お前は男のオレが好きなのか!?

「そうよ!私は一也君が邪魔なの!だから殺すのよ!」

止めてくれよ……好きな子に振られて……更にその子に殺されるって……。

「それより、三月君……私は三月君の事が好きなの!」

マジか!?

二美の好きな奴って三月だったのか!?

「ボクは男性が好きなんだ!そして、一也君が大好きなんだ!!

おい! どういう事だ!? 誰が誰を好きだって?

頭が混乱してきたぞ……。

「やっぱり、あなたが邪魔よ!一也!死ね!!

二美はそう言って、包丁を構えオレに向かって来た。

その時、三月は素早い動きで二美の首筋をサバイバルナイフで切りつけた。

二美は首から大量の血を流し倒れている。

三月は血の付いたサバイバルナイフを握りしめている。

「ボクは終わりだ……人殺しになってしまった……

ボクは愛するキミを助ける為に、人殺しになったんだよ……

だから、一也君も命がけでボクを愛して……」

こいつらは狂ってやがる。

オレは二美の上っ面だけを好きになっただけだった、本当の二美を知らなかった……。

オレはこれ以上は関わってはマズイと思い、その場から全力で逃げた。

しかし、三月は鬼の形相になり、凄まじい速さでオレを追いかける。

「一也君はボクだけのモノだぁーーー!!

三月はそう言うと、オレに追いつき背中にサバイバルナイフを深々と刺した。

激痛とともに、オレの意識が遠のいて行く……。

そのわずかに残る意識に三月が映る。

「死んでも、愛し合おう……」

そう言って三月は、自分の首をサバイバルナイフで切りつけた。







消えかける意識の中、オレは狂った愛の怖さを知った……。
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