1999-07-01 ~episode1~

文字数 1,984文字

 ―お前、6日後に死ぬよ―突然目の前に現れた風変わりな恰好をした男にそう言われた。ホスト風、と言うよりV系バンド風と言った方が正しいか、とにかくそんな派手で奇抜な恰好をした男がそれとは全然似つかわしくない僕の住むボロアパートに現れたのだから十分に風変わりだと思う。これが死神との出会いだった。

「だ、誰だあんた!?
「俺かい?お前ら人間の言うところの”死神”だよ。」
 僕の問いに対してこのふざけた解答である。何言ってんだこいつ、白昼から酔っ払ってんのか?それとも薬でもやってんのか?確かにフード付きの黒マントに身を包んでいて、人間やなんだかよく分からない動物のドクロの首飾りを身につけており、いかにも中世ヨーロッパ風のファンタジー世界にでも出てきそうな恰好をしているが冗談はその見た目だけにしてくれ。ハロウィンはまだ先だ。
「新手の詐欺か何かか?そんな言葉に騙されると思うなよ。」
「嘘なんざついてねえよ。」
「じゃあ宗教勧誘か?悪いが俺は無神論者だ。」
「最近は神を信じない不届き者が増えたもんだなあ。実に嘆かわしいよ。」
「仮にあんたが神だとして、人間の信仰心を保てなかったあんたらの責任だよ。」
「まあそれは一理あるか。」
 意外とすんなり折れるやつらしい。仮にも神を自称するならこれぐらいで折れるなよ。
「まあいいさ、そのうちお前は必ず俺を死神と信じざるを得ない日が来るよ。たぶん。」
 必ずなのかたぶんなのかはっきりしろ。
「そんなことよりあんたどこから入ってきたんだよ!?
「どこって、そこの扉をすり抜けただけだが。」
 自称死神男がさも当然の事のように返してきた。
「そんなことできるやつがいるとしたらそいつは幽霊っていうんだよ。」
「まあ似たようなもんではあるな。人間の魂魄ごときと一緒にしないでほしいが。」
 サラッと人間を見下した発言をするあたり(本当にそうだとしたら)嫌な神様だな。
「とにかくここを出ないなら警察にしょっ引いてもらうからな?脅しじゃないぞ。」
 僕が携帯電話を取り出すと”死神”は気まずそうに口を開いた。
「あー…それはやめておいた方が賢明だと思うぞ?だって俺、お前にしか見えないしお前にしか声も聞こえないし。」
 急に何を言い出すかと思ったらまだ懲りずにこんなガキも信じないような戯言を抜かしている。命乞いにしろ負け惜しみにしろもっと上手くやれよ。初めは脅しのつもりだったが本当に警察に突き付けてやる。
「もしもし警察ですか?今部屋に不審者がいるので…」
「あーあ、やっちゃった。ま、いっか。困るのは俺じゃないし。お巡りさんには上手く対応しろよ?」
 僕が本当に警察を呼んでも男はどこ吹く風だった。それどころか僕を案じて(と言うよりからかって)いる素振りすら見せている。不審者はさらに続けた。
「警察が来るまで暇だし、世間話でもしようや。神様の世界の話とか聞きたいだろ?」
「興味ない。」
「まあそういうなって。滅多にないぞ?神様の素性を知れる機会なんざ。」
「しつこい!!
「ああそうかよ、そいつは悪かったな。」
 僕が一蹴すると”死神”はあからさまに不機嫌そうにそっぽを向いた。そこからしばらく会話はなかった。

 次に2人が口を開いたのは警察が来た時のことだった。
「警察です。通報してくださった高坂 真一さんのお宅で間違いないでしょうか?」
 年配の警官と若い警官の2人組の、年配の方が聞いてきた。
「はいそうです。」
「それで、不審者はいったいどこに…」
「あそこで机に頬杖を突いている全身黒づくめの金髪の男がそうです。」
 僕は”死神”の方を指差した。
「はあ全身黒づくめの金髪の男、ですか…そのような者がいるようには見えませんが…」
 年配の警官からの驚愕の返答に愕然とした。
「何を言っているんですか!?あそこにいるでしょうが!?ねえ、あなたには見えますよね!?
 若い警官の方に問い迫った。その直後に”死神”の方に目をやると”死神”はこちらに向かって手を振っていた。あの野郎…
「どうだ、お前には見えるか?俺にはそんな奴がいるようには見えないんだが…」
 年配の警官も若い警官に尋ねた。
「いえ、自分にも不審者らしいやつがいるようには見えません。」
「あんたまで何ふざけたこと抜かしてんだ!如何にも不審者っぽい格好をしたやつがあそこにい…」
「高坂さん、今回は厳重注意で済ませてやりますが次やったら公務執行妨害で逮捕ですからね?あんたの悪戯に付き合えるほど我々も暇じゃないんだ。」
 年配の警官が僕の必死の抗議を遮りつつ"厳重注意"を済ませると警官たちは玄関から立ち去った。冗談って、この状況が一番冗談だよ!!
「いやあ良かったなお縄にかからなくて。でもま、これで俺が死神だってこと少しは信じてくれる気になったろう?」
「ああ信じてやるよ。で、その”死神様”が何のようだ?」
「お前、6日後に死ぬよ。」
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