1999-07-07 ~episode2~

文字数 1,056文字

 気がつくと辺り一面を濃い霧が覆っていた。霧で何も見えないが、明らかにさっきまでいた場所ではない。
「ここはどこだ?」
「ここか?あの世だ。」
 どこからともなく死神が現れ、説明してくれた。
「そうか、じゃあ俺死んだんだな...」
 不思議な霧の効果か、慌てふためいたりはしなかった。しなかったけど、それはそれとしてやっぱり死ぬのは嫌だなあ…
「正確にはここはこの世とあの世の境界だ。お前も一応まだ生きてるよ。生憎それも今だけだがね。感謝しろよ?俺が職権乱用で僅かだが延命してやってんだから。」
 こういう職権乱用は人間界のお偉いさん方にも是非やってもらいたいものだ。
「で、死神様が職権乱用してまで俺を延命させる理由って何よ?何か理由あってのことだろ?あんた、そこまでお人好しには見えないし。」
「ご名答。いやまあ、そういえばまだお前を誰にも会わせてやってないことに気づいてな。」
「それならとっくに加耶と会ったが?」
「あれは元々あの女の側から言ってきたことだからノーカンにしといてやる。だから他に会いたい人間がいたら早く言いな。」
「そうか…その前に、俺が助けた男の子は無事だったか?」
「坊やなら軽傷で済んだよ。それより、早くしろ。こっちもお上に誤魔化しの効くギリギリの範囲で延命してやってんだ。始末書の地獄はご免だよ。」
 良かった、男の子は無事らしい。これで男の子まで死んでたら僕は犬死だ。それにしても、幼い少年を庇い死ぬ...うん、我ながら悪くない最期だ。今はそう思うことにしよう。
「そんなこと言われてもこの状況から会える人間なんて…」
 こんなときでも僕の頭には加耶のことしか思い浮かばなかった。僕は自分でも驚くぐらいに加耶のことが好きだったんだな...こんな形で今度こそ本当に永遠に別れてしまうことになったが、もし...もしももう一度だけチャンスがあれば...その時、僕の答えは決まった。
「なあ、こういうのってできるか?」
「何だ?言ってみな?」

 僕は願いを言った。そのあと一言二言目やり取りをしてから死神が言った。
「良いだろう。そいつと会わせてやるよ。俺も元々そのつもりだった。」
「ああ、頼んだぜ、捻くれ者のお人好しさん。」

来世の僕へ

 来世の僕はいかがお過ごしでしょうか。恋人とはうまくやれていますか?前世の僕らは諸事情により結局上手く行かず終いでした。だからこそあなた方にはぜひとも僕らの分まで幸せになられますことをお祈り申し上げます。
                                     前世の僕より
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