1999-07-07 ~episode1~

文字数 2,435文字

 7月7日、今日は加耶とその家族の葬式の日だ。ニュースによると加耶以外にご両親も遺体となって見つかっており、死因は現場の状況からおそらく一家心中とのことだ。不思議と加耶のご両親にも腹は立たなかった。昨日の通夜で棺桶に入った加耶を見た。とても安らかな顔をしていた。まるで良い夢でも見ているかのように。そして今日も相変わらず狭い棺の中で眠っている。
「なあ加耶、今どんな夢を見ているんだ?その夢に俺はいるか?お前、今から焼かれるんだぜ?酷いことするよな。死んでまで熱い、辛い思いしなきゃいけないなんて。」
 式が終わり火葬場に運ばれる直前の加耶にそう語りかけると、若い女性が一人僕の元に歩み寄ってきた。
「あの、高坂 真一さんですか?」
「ええ、そうですが。」
「私、加耶の従姉妹です。実は加耶からあなたに手紙を預かっていて…」
 そういうと女性は茶封筒を僕に差し出した。

 加耶とそのご両親が火葬場に運ばれたところで僕も式場を後にした。そしてすかさず茶封筒から手紙を出した。間違いなく加耶の字だ。

真一へ

 あなたがこの手紙を読んでいるとき、たぶん私はもうこの世にはいないと思います。と言うのも私は7月4日に死ぬことになっているからです。なんでそんな事がわかるかって?それは死神から聞いたからです…今「何言ってんだこいつは...」とか思ったでしょ?まあ死神なんて信じられないのも無理ないとは思います。真一は元々そういうオカルトチックなのは嫌いだもんね。私も最初は目の前の怪しげな男が死神だなんて信じられませんでした。でもその男、どうやら私にしか見えないらしいのです。他にも人間とは思えない点が幾つもあったので信じるより他ありませんでした。もっとも性格はひねくれていておまけに言葉の節々に毒気があり、到底倫理観や道徳心を持ち合わせてるとは思えない糞野郎ですが、まあ神様なんてたぶんそんなもんなんでしょう。神様が良いひとたちだったら私がこんなに早死するはずないし。

 ああ、それと一応この手紙は誰にも見せないでね?あと死神にもこのことは本当は黙っておくように言われているから…って、真一があの性悪と関わることはないか...(^_^;)うん、ない方が絶っっっっっ対に良い!!

 そしてここからが本題なのですが、その死神は私が死ぬ前に誰かと会わせてくれると言いました。だから私は真一と会わせてくれるよう頼みました。もし何かの巡り合わせで生前の私と再会できたとしたら、少しだけ癪だけどそれはきっとその捻くれ者のお人好しおかげです。そのときは私の言うことを少しでも信じてくれますか?

 さて、知っての通り私はあなたと付き合っている真っ最中に忽然と姿を消しました。その理由については察していただくとして、その時確か電話番号もメールアドレスも消したよね?あれはちょっと色々あって万が一にも真一を巻き込みたくなかったからなんだ。勝手な理由なのは重々承知ですが、それでもどうか許してください。

 そして最後に
 
 真一、大好きだよ。
                                       加耶より

「…なあ死神、これってどういうことなんだ。」
 帰り道で溢れ出る涙を拭いつつ死神に聞いた。
「さあな、俺はあの女に直接会ったこともないし、お前と会わせてほしいなんて頼まれた覚えもない。それにその手紙だって一文字も読んでない。」
 死神はわざとらしくと惚(とぼ)けた。
「十分読んでるじゃねえか。」
 僕が追及すると死神は観念したのか加耶との関係について口を割った。
「その手紙に書いてあることが全てだよ。俺は元々神崎 加耶を担当していた。そこで加耶がお前に会いたいと言ったからお前について調べてみたら意外や意外、お前も寿命が極僅かだった。だから急遽ついでにお前の事も担当することにしたんだ。もっとも俺のことを異様に悪く書かれてるのは納得できんが。」
 それを聴いて再会したときの加耶の反応が思いの外薄かった理由と死神が異様に加耶と早く会うように急かしてた理由が分かった。と同時に死神に対して徐々に怒りも湧いてきた。もし死期がわかっていたら彼女を救うこともできたんじゃないか?
「それはそうと分かっていたなら4日に加耶を帰らせないって選択肢も取れたはずだぞ!?何で教えてくれなかったんだよ!?
 僕が死神に行き場のない怒りをぶつけると死神は少し間を置いてから柄にもなく申し訳なさそうに理由を述べた。
「…そこについては割とすまないとは思っている。けど死神は当人以外に死期を教えてはいけないし、死因に至っては当人にすら教えてはいけないんだ。」
「また決まりかよ!!あんたら神様はどれだけ融通が利かないんだよ!!あんたらのくだらないしきたりのために加耶は死んだって言うのかよ!?
 尚も怒り荒ぶっている僕の言動を死神はただただ黙って受け止めた。言いたいことを一通り言い終えて僕は正気に戻った。
「…いや、あんたは職務を全うしただけだ。さっきは悪かったな。」
 またも少し(今度はさっきより若干長い)間を置いてから死神が言った。
「…仮に家に帰らせなくても彼女の死因が変わっただけだ。因果なんてやつは俺たち神の匙加減一つでいかようにも書き換えられる。実際神なんてのは彼女の言うとおり人間側の都合なんてお構い無しの血も涙もないろくでなし集団だよ。」
「あんたも苦労してんだな。」
「ああ、全くだ。」
 帰り道を歩きながらそんなやりとりをしているとすぐ横の公園の門からサッカーボールが飛び出してきた。そしてそれを追って男の子も飛び出した…危ない!!向かいから1台車がこっちに来ている!!自動車側もそれに気づいて急ブレーキをかけた…が、到底間に合わない。そのとき、何を思ったか僕は駆け出し、かばうように男の子に覆い被さった。そして当然車に轢かれた。意識が徐々に遠のいていく。男の子は無事だろうか…ああ、そう言えば今日は僕の命日でもあったっけか...
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