第3話

文字数 2,486文字

「よし……、なんとかいけそう!」

 絵美たちと会って気分転換できたのか、書きかけの小説が一気に進む。それまでバラバラになっていた話のピースが繋がり、手が止まることなく、パソコンのキーボードを打っていく。

「……出来た!」

 お話を完成させて奏がそう声を上げる。そして、おかしなところはないかを確認するために読み直しをする。

「この話って、やっぱりあの事をモチーフにしているよね……」

 完成した話を読んで奏がそう言葉を綴る。

「今……どうしているんだろ……」

 ある人の事が頭に浮かび、そうぽつりと呟く。

「……まぁ、いっか……」

 その人の事を考えるのをやめて明日からまた仕事が始まるので寝る準備に取り掛かる。


 奏はその時は何も知らなかった。


 まさか、あんな出来事が起きようとは……。



「おはようございます!」

 三日間のお休みが終わり、奏が元気よく特殊捜査室の扉を開けて挨拶をする。

「おはよー、奏ちゃん♪休みは満喫できた?」

 先に到着していた紅蓮が笑顔で奏に言葉を綴る。

「おはようございます、紅蓮さん」

 奏が笑顔で紅蓮にそう返事をする。

「おはようございます」

 そこへ、透と槙がそれぞれ挨拶をして捜査室に入ってくる。

「あっ!おはようございます!透さん、槙さん!」

 奏が透と槙に声を掛ける。

「あれ?冴子さんは?」

 冴子がいないことに気付いて透がそう声を発する。

「例の事件で話を聞きに行っているよ。後、何か手伝えそうな仕事がないか聞いてくるって」

 紅蓮がそう説明する。


 ――――ガチャ!


「おはよう、みんな。休日はリフレッシュできた?」

 冴子が捜査室に戻ってきて、奏たちにそう問いかける。

「はい!かなりリフレッシュできました!お休み、ありがとうございます」

 奏がそう言って冴子にお辞儀をする。

「奏ちゃんはどんなお休みを過ごしたの?やっぱり、趣味の小説を書いていたのかしら?」

「はい!おかげ様で、書いていたお話が完成しました」

 冴子の質問に奏が笑顔でそう言葉を綴る。

「へぇ~。完成した話ってどんな話なの?」

 紅蓮が興味津々で聞いてくる。

「ざっと話すと、被害者になりたがる人の話です。そういう事ばかりを言っていると周りに見捨てられちゃうから、そういうことはしないように……と言うようなメッセージを込めたお話です」

「それはなかなか興味深い話だな」

 奏の話を聞いて透がそう言葉を発する。

「そうだな、ちょっと読んでみたいかもな」

 ちょっと興味があるのか、槙がそう言葉を綴る。

「その話もネットに投降するのかしら?私も興味あるわね♪良かったら投稿しているサイトを教えてくれないかしら?時間が取れた時に読んでみたいわ♪」

 冴子がそう言ったので、奏が投稿しているサイトを教える。透たちも読んでみたいということで透たちにもそのサイトを教えることになった。


「……さて、報告よ。この前の事件だけど、茉理は両方の事件で逮捕されることになったわ。ただ、精神的に病んでいる可能性があるので、しばらくは警察が管理している病院に入り、治療をして、その後で正式に逮捕……と言う形になったわ。敦成に関しては、DVの件と茉理と一緒に逃げようとしていたということで、こちらにも正式に逮捕状が出されることが確定よ」

「あの……、ちなみに美玖さんは大丈夫なのでしょうか……?」

 奏が茉理に頭を殴られた美玖の事を心配そうに問う。

「美玖さんはもう退院して今は自宅療養をしているということよ。あと数日したら仕事の方にも復帰するみたい。後遺症も残らなかったみたいで、祐樹さんも安心しているわ」

「良かった……」

 冴子の言葉に奏が安堵の息を吐く。

「まぁ、茉理が美玖さんを利用していたことにはショックだったみたいだけど、美玖さんなら大丈夫でしょう……。きっと、その辛さを乗り越えてくれるわ」

「そうですね……」

 冴子の話に奏が微笑みながらそう言葉を綴る。

「じゃ♪今日も書類整理するわよ♪」

 冴子が笑顔で書類の束を机に置く。

「えぇ~!!またかよ~!!俺になんか事件をくれぇ~!!」

 紅蓮が半分泣きそうな目でそう言葉を綴る。

「平和でいいじゃないか」

 紅蓮の言葉に槙がそう呆れたように言葉を吐く。

 こうして、奏たちはまた書類整理の仕事をすることになった。



「ふぇぇぇぇぇん……ふぇぇぇぇぇん……」

 夏江が大きな声を上げて泣いている。

「いつまで泣いてんだよ!お前が床を汚すのが悪いんだろ!!この馬鹿!!」

 基頼が怒声をあげながら夏江を罵る。

 きっかけは夏江が食べていたものを床に落としてしまったのが発端だった。それだけの事なのに、基頼は怒り狂い、夏江を罵倒した。そして、泣いている夏江に「拾え!」と言って、拾わせると、「馬鹿!」「ノロマ!」と言いながら激しく罵る。

 その時だった。


 ――――トゥルル……トゥルル……。


 基頼のスマートフォンが鳴り響き、基頼は電話に出ると、電話の相手に優しい声で言葉を綴る。

「お久しぶりです、お義母さん。……えぇ、夏江ちゃんは元気にしていますよ。……えぇ、大丈夫です。僕が惚れた子ですからね。ちゃんと面倒見ますよ……。……はい、……はい、ありがとうございます。そちらはこの時期になると冷えるので体調には気を付けて過ごして下さいね……。……夏江ちゃんですか?すみません、今、お風呂に入っているんですよ。……えぇ、また改めて……それでは……」

 基頼がそう言って電話を終える。

 これが基頼の表の顔だった。周りには「面倒見の良い人」を演じて、夏江に尽くしているように話をする。しかし、それはあくまで表の顔で裏では夏江の面倒をちゃんと見ていない。それどころか、夏江の親が夏江に送ってくるお金を基頼が管理して、自分のお金として使っている。勿論、夏江の両親はそんな風に夏江のお金を使っていることも、夏江に罵声を浴びせていることも知らない。夏江の両親は身体が弱いことから、遠方の空気のいいところに引っ越してしまい、直ぐに会いに来られる距離ではない。なので、わが娘がそんな目に遭っているということは全く知らないのだった。


 そして、悲劇は起きようとしていた……。


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