第5話
文字数 3,202文字
バットで何かを打ち付ける鈍い音が響く。
――――ドサッ……。
頭を打たれた夏江がその場に倒れ込む。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
静寂の中で、基頼の洗い呼吸だけが響く。
夏江は目を見開いたまま、その場で動かなくなっていた。
「あ……あ……あ……」
――――カラーン……。
基頼の手からバットが滑り落ちる。
「お……お前が悪いんだからな……。お前が俺を陥れようとするから……」
基頼が震えながらそう言葉を呟く。
「い……隠ぺい……しなきゃ……」
基頼が震える体で夏江の死体を隠すために夏江を抱えて部屋の中のどこかに隠せる場所がないかを考える。
「どこか……何処かないか……?」
「冷静になれ」と、自分に言い聞かせながらどこか死体を隠せる場所を探した。
「……そっか、ありがとう。……うん、じゃあまた何かあったら教えてね」
絵美がそう言って電話を終わる。
絵美は近所に住んでいる友達に電話を掛けていた。そして、最近の基頼の様子を探ろうとした。しかし、友だちも何も知らないということだったが、絵美が最近は見かけるかどうか聞いたところ、基頼は見かけるが夏江を見かけていないという話が返ってきた。ただ、友だちが気になっていることがあるとかである話をしてくれた。なので、絵美はその事で何か分かったら教えて欲しいということをお願いする。
「……孝君にはこのこと知らせた方がいいかな?」
絵美がそう言って、孝に電話を掛けようかどうか悩んでいる。
その時だった。
――――トゥルル……トゥルル……。
スマートフォンのコール音が鳴り響く。着信を見ると、孝からだった。
『もしもし、絵美さん?例のこと、偶然広ちゃんに会ったから広ちゃんには伝えたんだけど、マズかったかな?』
孝が電話越しにそう話す。
「その事で広斗さんはなんて?」
『とりあえず、時間を作って、しばらく奏ちゃんの帰る時間にはなるべく迎えに行くって言ってた……』
「そう……。大丈夫だとは思うけど、逆にちょっと心配ね……」
『うん……。僕、余計なこと喋っちゃったかな……?もしかしたら、これで、広ちゃんと奏ちゃんが付き合っていることが基頼さんにバレる可能性あるよね……?』
電話越しに孝が不安そうな声を出す。
「そうね……」
絵美がそう言葉を発して、しばらく何かを考える。そして、こちらで基頼の状況を調べられることは調べておくと言って電話を終わった。
「「「しばらくここに迎えに来る?!」」」
次の日、奏が職場に着くと、冴子たちに広斗がしばらくの間迎えに来るということを伝える。その事情を説明すると、冴子たちは紅蓮を冷ややかな目で見た。
「あんたの言動のせいで奏ちゃんの彼氏にまで迷惑かけているわね」
冴子が冷たい目つきで紅蓮を見ながらそう言葉を綴る。
「全くだ。この迷惑野郎」
槙が淡々とこちらも冷たい目で答える。その様子に紅蓮はいたたまれないのか、しゃがみ込みながらズーン……と落ち込んでいる。なんだか、漫画だと青い火の玉のようなものがフヨフヨと浮いていそうな感じだ。
「……でも、ほんとうにそれだけかな?」
透が何か思案しているような仕草でそう言葉を綴る。
「どういうこと?」
透の言葉に冴子が問う。
「何となくですけど、この前の飲み会で紅蓮の行動的にそれが半分冗談だというのは分かりますよね?それで、毎回迎えに来るようなことをするでしょうか?もしかしたら、何か別の理由で迎えに来ているかもしれませんよ?」
「……確かにそうよね」
透の説明に冴子がそう言葉を発する。
「まぁ、半分冗談で半分本気かもしれないがな」
槙が紅蓮に冷たい視線を浴びせながらそう言葉を綴る。
「相棒が酷いわ……!アタシ……泣いちゃうんだから……!!」
紅蓮がたまに出るオネェのように両手でハンカチを持ち、ハンカチの一部を口で噛み締めながら芝居がかった口調で言う。
「ホントの事だろ」
槙はその様子に勿論慰めるわけではなく、馬鹿にしたような目つきで淡々と言葉を発する。
「まぁ、何があるかは分からないけど、多分、奏の彼氏が送っていくというのは別の理由だと思うな」
透の言葉に、奏は考えるが特に思い当たることが無い。
「いや、本当に紅蓮から奏を守るためかもしれないぞ?強引に何かをしでかさないためにそんな作戦に出た可能性は十分考えられる」
槙が片手で握りこぶしを作りながら、何処か力説するように言葉を綴る。
「まっ!気になるなら彼氏さんに聞いてみるといいわ♪さっ!とっとと書類を片付けるわよ!」
冴子の言葉に奏たちが書類整理に取り掛かっていった。
「……これで死体の腐敗は防げるはずだ……」
基頼がそう呟く。
あの後、何処に死体を隠そうか悩んだ基頼は、部屋にあった寝袋に死体を入れてその中を冷やす為に大量のドライアイスを詰め込んだ。そして、死体が少しでも腐敗しないために念には念を入れて、エアコンを使って部屋を冷やす。
「これで、大丈夫なはずだ……」
そして、「なんとかなった」と思い、ホッとして気分転換のために飲みに行くことにする。幸い、夏江の親が夏江の分のお金を振り込んでくれたばかりなので、金銭的には余裕がある。
基頼は出掛ける準備をすると、部屋を後にした。
『……本当にしばらくの間は迎えに行くの?』
「あぁ……、心配だからね」
広斗が仕事の合間を縫って孝に電話をしてその事を伝える。
「僕はその基頼さんって人に会ったことないけど、たかやんや奏から話は聞いているからね。話だけとはいえ確かに危険な感じはするし、奏の身に何かあったら心配だし……。まぁ、毎日絶対迎えに行けるとは限らないけど、なるべくは迎えに行くようにするよ」
『……でもさ、事件が起こったら帰る時間は遅くなるんじゃないの?』
「あ……」
孝の言葉に広斗がそこまで考えてなかったので、「そうだった……」というような困った顔になる。
『まぁ、しばらくは書類整理みたいな事を言っていたから大丈夫だとは思うけど……』
「まぁ、その都度奏に聞いてみるよ」
『そうだね』
その後は最近の近況を報告し合って電話を終わる。
「無茶なことをしなきゃいいけど……」
電話が終わり、広斗がそうぽつりと呟いた。
「……ここまで来たけど、外から見るだけじゃ何も分からないわね……」
絵美が外から基頼の住んでいるアパートを遠目で見るが、やはりそれだけでは何も分からなかった。どうしようと悩み、何か他に探れる方法が無いのかを考える。
その時だった。
隣の部屋の住人が部屋から出てきて、どこかに行こうとしている。
「……?」
絵美がその隣の住人を見て違和感を覚える。この時期、そんなに寒くはないはずなのに、その人が寒そうにしているのが気になった。
その人が絵美の横を通り過ぎようとする。
「……なんで、あんなに部屋を冷やしているんだよ……」
その人が小声でそう呟きながら絵美の横を通り過ぎる。
その人の言葉に絵美が違和感を覚える。その人の呟いた言葉を考えると、自分の部屋ではない可能性がある。しかし、アパートの構造上、部屋同士の壁はそれなりに厚さがあるので声も聞こえなければ、隣の部屋が暑くても冷えていても、その温度までは影響はいかないはずだ。
基頼がかなりの暑がりなことは絵美も知っているが、かといって今の時期に冷房を使う事は考えられない。アパートも一階と二階にそれぞれに二部屋ずつしかないので、隣は基頼の部屋だ。
何かあるのかもしれない……。
絵美はそう考えて、その人に声を掛けた。
「くそっ……。何か……何かいい方法はないか……」
基頼が昼間でも空いている居酒屋に入り、ビールを飲みながら自分が捕まらくてもいい方法を考える。
「あんな奴のせいで捕まってたまるかよ……」
そう小さく呟く。
「そうだ……。どうせなら……」
基頼があることを思いつき、それを実行できないかと考える。
その瞳は鈍く光り、顔は不気味な笑みを浮かべた。
――――ドサッ……。
頭を打たれた夏江がその場に倒れ込む。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
静寂の中で、基頼の洗い呼吸だけが響く。
夏江は目を見開いたまま、その場で動かなくなっていた。
「あ……あ……あ……」
――――カラーン……。
基頼の手からバットが滑り落ちる。
「お……お前が悪いんだからな……。お前が俺を陥れようとするから……」
基頼が震えながらそう言葉を呟く。
「い……隠ぺい……しなきゃ……」
基頼が震える体で夏江の死体を隠すために夏江を抱えて部屋の中のどこかに隠せる場所がないかを考える。
「どこか……何処かないか……?」
「冷静になれ」と、自分に言い聞かせながらどこか死体を隠せる場所を探した。
「……そっか、ありがとう。……うん、じゃあまた何かあったら教えてね」
絵美がそう言って電話を終わる。
絵美は近所に住んでいる友達に電話を掛けていた。そして、最近の基頼の様子を探ろうとした。しかし、友だちも何も知らないということだったが、絵美が最近は見かけるかどうか聞いたところ、基頼は見かけるが夏江を見かけていないという話が返ってきた。ただ、友だちが気になっていることがあるとかである話をしてくれた。なので、絵美はその事で何か分かったら教えて欲しいということをお願いする。
「……孝君にはこのこと知らせた方がいいかな?」
絵美がそう言って、孝に電話を掛けようかどうか悩んでいる。
その時だった。
――――トゥルル……トゥルル……。
スマートフォンのコール音が鳴り響く。着信を見ると、孝からだった。
『もしもし、絵美さん?例のこと、偶然広ちゃんに会ったから広ちゃんには伝えたんだけど、マズかったかな?』
孝が電話越しにそう話す。
「その事で広斗さんはなんて?」
『とりあえず、時間を作って、しばらく奏ちゃんの帰る時間にはなるべく迎えに行くって言ってた……』
「そう……。大丈夫だとは思うけど、逆にちょっと心配ね……」
『うん……。僕、余計なこと喋っちゃったかな……?もしかしたら、これで、広ちゃんと奏ちゃんが付き合っていることが基頼さんにバレる可能性あるよね……?』
電話越しに孝が不安そうな声を出す。
「そうね……」
絵美がそう言葉を発して、しばらく何かを考える。そして、こちらで基頼の状況を調べられることは調べておくと言って電話を終わった。
「「「しばらくここに迎えに来る?!」」」
次の日、奏が職場に着くと、冴子たちに広斗がしばらくの間迎えに来るということを伝える。その事情を説明すると、冴子たちは紅蓮を冷ややかな目で見た。
「あんたの言動のせいで奏ちゃんの彼氏にまで迷惑かけているわね」
冴子が冷たい目つきで紅蓮を見ながらそう言葉を綴る。
「全くだ。この迷惑野郎」
槙が淡々とこちらも冷たい目で答える。その様子に紅蓮はいたたまれないのか、しゃがみ込みながらズーン……と落ち込んでいる。なんだか、漫画だと青い火の玉のようなものがフヨフヨと浮いていそうな感じだ。
「……でも、ほんとうにそれだけかな?」
透が何か思案しているような仕草でそう言葉を綴る。
「どういうこと?」
透の言葉に冴子が問う。
「何となくですけど、この前の飲み会で紅蓮の行動的にそれが半分冗談だというのは分かりますよね?それで、毎回迎えに来るようなことをするでしょうか?もしかしたら、何か別の理由で迎えに来ているかもしれませんよ?」
「……確かにそうよね」
透の説明に冴子がそう言葉を発する。
「まぁ、半分冗談で半分本気かもしれないがな」
槙が紅蓮に冷たい視線を浴びせながらそう言葉を綴る。
「相棒が酷いわ……!アタシ……泣いちゃうんだから……!!」
紅蓮がたまに出るオネェのように両手でハンカチを持ち、ハンカチの一部を口で噛み締めながら芝居がかった口調で言う。
「ホントの事だろ」
槙はその様子に勿論慰めるわけではなく、馬鹿にしたような目つきで淡々と言葉を発する。
「まぁ、何があるかは分からないけど、多分、奏の彼氏が送っていくというのは別の理由だと思うな」
透の言葉に、奏は考えるが特に思い当たることが無い。
「いや、本当に紅蓮から奏を守るためかもしれないぞ?強引に何かをしでかさないためにそんな作戦に出た可能性は十分考えられる」
槙が片手で握りこぶしを作りながら、何処か力説するように言葉を綴る。
「まっ!気になるなら彼氏さんに聞いてみるといいわ♪さっ!とっとと書類を片付けるわよ!」
冴子の言葉に奏たちが書類整理に取り掛かっていった。
「……これで死体の腐敗は防げるはずだ……」
基頼がそう呟く。
あの後、何処に死体を隠そうか悩んだ基頼は、部屋にあった寝袋に死体を入れてその中を冷やす為に大量のドライアイスを詰め込んだ。そして、死体が少しでも腐敗しないために念には念を入れて、エアコンを使って部屋を冷やす。
「これで、大丈夫なはずだ……」
そして、「なんとかなった」と思い、ホッとして気分転換のために飲みに行くことにする。幸い、夏江の親が夏江の分のお金を振り込んでくれたばかりなので、金銭的には余裕がある。
基頼は出掛ける準備をすると、部屋を後にした。
『……本当にしばらくの間は迎えに行くの?』
「あぁ……、心配だからね」
広斗が仕事の合間を縫って孝に電話をしてその事を伝える。
「僕はその基頼さんって人に会ったことないけど、たかやんや奏から話は聞いているからね。話だけとはいえ確かに危険な感じはするし、奏の身に何かあったら心配だし……。まぁ、毎日絶対迎えに行けるとは限らないけど、なるべくは迎えに行くようにするよ」
『……でもさ、事件が起こったら帰る時間は遅くなるんじゃないの?』
「あ……」
孝の言葉に広斗がそこまで考えてなかったので、「そうだった……」というような困った顔になる。
『まぁ、しばらくは書類整理みたいな事を言っていたから大丈夫だとは思うけど……』
「まぁ、その都度奏に聞いてみるよ」
『そうだね』
その後は最近の近況を報告し合って電話を終わる。
「無茶なことをしなきゃいいけど……」
電話が終わり、広斗がそうぽつりと呟いた。
「……ここまで来たけど、外から見るだけじゃ何も分からないわね……」
絵美が外から基頼の住んでいるアパートを遠目で見るが、やはりそれだけでは何も分からなかった。どうしようと悩み、何か他に探れる方法が無いのかを考える。
その時だった。
隣の部屋の住人が部屋から出てきて、どこかに行こうとしている。
「……?」
絵美がその隣の住人を見て違和感を覚える。この時期、そんなに寒くはないはずなのに、その人が寒そうにしているのが気になった。
その人が絵美の横を通り過ぎようとする。
「……なんで、あんなに部屋を冷やしているんだよ……」
その人が小声でそう呟きながら絵美の横を通り過ぎる。
その人の言葉に絵美が違和感を覚える。その人の呟いた言葉を考えると、自分の部屋ではない可能性がある。しかし、アパートの構造上、部屋同士の壁はそれなりに厚さがあるので声も聞こえなければ、隣の部屋が暑くても冷えていても、その温度までは影響はいかないはずだ。
基頼がかなりの暑がりなことは絵美も知っているが、かといって今の時期に冷房を使う事は考えられない。アパートも一階と二階にそれぞれに二部屋ずつしかないので、隣は基頼の部屋だ。
何かあるのかもしれない……。
絵美はそう考えて、その人に声を掛けた。
「くそっ……。何か……何かいい方法はないか……」
基頼が昼間でも空いている居酒屋に入り、ビールを飲みながら自分が捕まらくてもいい方法を考える。
「あんな奴のせいで捕まってたまるかよ……」
そう小さく呟く。
「そうだ……。どうせなら……」
基頼があることを思いつき、それを実行できないかと考える。
その瞳は鈍く光り、顔は不気味な笑みを浮かべた。