深まる疑念

文字数 1,233文字

「そ、そんな。義人さんまで……」

 尾形さんから詳しい話を聞くと、富江はガタガタと震え出した。
「義人さんが殺害された場所に、堀田三平が潜んでいましたので、同時に逮捕しました」
「そうですか……これで少しは安心できますね。素直に自白してくれれば良いのですが」
 富江の安堵した表情を見て、私は言いようのない不安に駆られた。まだ三平が犯人と断定された訳ではない。
 まるで事件が解決したかのように扱う警察にも不満があるし、富江も三平が犯人だと決め付けたかのような態度である。この富江という女性は、何処か人を突き放したような冷たさを感じるので余計に性質が悪い。

   × × ×

 私と尾形さんは三条家の屋敷から出た後、思い切って自分の考えを話した。
「尾形さん、三平が犯人だと決まった訳ではないでしょう」
「……それはそうかもしれないが、義人の死体の傍で逮捕したんだ。動かぬ証拠を押さえたも当然の出来事じゃないか。あれではどんなに言い逃れしても難しいかもしれないね」
 私は踵を返して、三条家に向かって歩き出した。
「何処へ行くんだ、浩さん?」
「もう一度、ちゃんと聞き込みをするんだよ尾形さん。富江さんは明らかになにかを隠している。私は次平さんから色々聞いているから、辻褄(つじつま)が合わないことが多過ぎると思う」
「どういう辻褄なんだい?」
「何故、三平が三条家の人たちを殺す理由があると思う? 美和子さんだけならともかく、晴子、義人まで殺してるんだ。これはどう考えたっておかしいよ」
「それは今、平岡警部が取り調べをしている最中だから」
「その平岡警部に任せていることが大問題なんだ。このままだと、言葉の揚げ足を取って三平を追い込むような気がしてならない。尾形さんは三条家の遺産相続の件については何も聞いてないの?」
「ああ、知っているよ。でも、今回の事件と相続の件については関連がないように思えるけど」
「それこそが盲点だと思うんだ。これは相続権をめぐる事件と考えるのが一番しっくりする気がする」
「その言い分だと、三条家で生き残った人間は富江だけだから……彼女が犯人ということになる。君はそう言いたいのか?」

 ――富江が犯人だと言いたいが、決定的な証拠はない。
 黙ってしまった私を見て、尾形さんは苛立ちながら大きな溜息を吐いた。
「君はなにがしたいんだ? 悪いが警察である私ならそういうことも主張はできるが、君は一般人だし部外者だろう。そこまで首を突っ込む必要はないと思うけどね」
「そんなことは分かってますよ……」
 私は尾形さんの言葉で自信を喪失し、首を下に向けて項垂れてしまった。その様子を見た尾形さんは気の毒に感じたのか、軽く頭を掻いて私に詫びを入れた。
「……分かった。君の言い分も一理あるな。もう少し調べる必要があるかもしれない。さっきは部外者などと言ってすまなかった」
「いや、気にしないでください。私こそ意固地(いこじ)になっていました」
 私も尾形さんに詫びを入れ、軽く頭を下げた。

犯人特定へ至るヒント:84%
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