『もう逢えぬ君に』

文字数 414文字

君が長い髪をかきあげる仕種に
僕は女を感じた

小春日和の真昼の匂いを漂わせ
春を待ちきれずに飛び出してきた蝶よ

君が髪を切ったのは何故だったのか

君が貸してくれた鉛筆を滑らせ
君の体温を僕は抱き締めていた
そしてポケットに忍ばせた

君の机にイニシャルの落書きを見つけ
僕のと同じだと知ったとき
僕は優しくなった

君からの葉書が舞い込んだ夏の日
『暑中お見舞い申し上げます』の文字に
僕の囚われの日々が始まった

僕の卒業アルバムに寄せ書きを拒んだ君
『あなたとは永遠の別れじゃないのよ』とうつむいた顔に
いつも笑みを湛えた唇は歪んでいた

僕は最後まで
『好き』と言えなかった

君の面影を求めつつ
いつしか今になった

だから、今、言うよ
君が『好き』だったと

永遠に、僕の心を伝えよう
もう逢えぬ君に

そして想い出は
心の奥に仕舞っておこう
夢が覚めぬように


    十七才の晩秋


      〈了〉
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