プロローグ これは、もう少し未来の物語り(ここだけテキストスタイル)
文字数 1,118文字
西暦2052年、日本では「人間以外の存在」が人間の姿となって現れ始める。それらは北方領土と沖縄から観測されはじめた。女系天皇が今上天皇に即位した時期からであった。
彼らの生態は謎に包まれていたが、現代の日本語でコミュニケーションをとることができた。政府の研究によると、彼らは古くから各地で信仰されている土着信仰の対象とのことだった。
また彼らはこう語った。「長きにわたりスメラギ(皇統)により抑えられてきたが、気づいたら人間の姿をとることができた」と。
彼らの多くは、人間にはない能力――雨や風、地震噴火、もしくは同じ動植物を操るなど――に長けていた。
その存在は「畏者」(イシャ)と名付けられ、彼らの多くは自分たちが尊ばれることを好んだ。
また、畏者たちは『我らの栄光はスメラギ(皇統)によって奪われてきた』と述べ、嫌悪を顕わにする者が少なくなかった。
政府は当初、その未知の存在を危険視して取り締まろうとした。しかし災害に悩まされる日本において、天候や動植物をコントロールできる畏者の存在は民間人の支持を得ていく。
やがて、一部の自治体は畏者と保護・協力体制をとるようになる。そうしたなか、畏者を尊重しようとする民間の支持が高まり、憲法1条「象徴天皇」の改憲、さらには皇室の解体論がささやかれ始める。
畏者たちは、「八百万(やおよろず)の神々」のイメージから「よろずさん」と呼ばれるようになる。よろずさんと行政の連絡役は、おもに野傍の神社が担当した。それらは神社本庁に名を連ねていない神社だったが、よろずさんは往々にして嫉妬深く、スメラギ(皇統)を祀る気配を少しも許さない者もいた。
そういったよろずさんの世話役は民間人がすることになった。これは「巫女家(みこけ)」と呼ばれた。
巫女家はさまざまな公的補助を受けることができたため、自然と特別視されるようになっていた。
理美(りみ)の住む町も、畏者(イシャ)たちとの友好関係を築いている自治体のひとつだった。
湖を有する理美(りみ)の町では、さまざまな種類の畏者が顕現しはじめていた。しかし、その地域に多く伝承されている「蛇」にまつわるよろずさんはまだ現れていなかった。そのため、蛇のよろずさんが大きな力を持って現れるのではないかとひそかに期待されていた。
ある日理美は、蛙の畏者のお祭りで「白い蛇」を助ける。その蛇との出会いは、理美の日常を大きく変えてしまうのであったーー。