第24話

文字数 1,125文字

 百合恵はまだ俊也の心の中で未知留が常に居るのでは…と不安を抱えて居た。
 俊也から未知留の様に愛されたい…いや、未知留以上に愛されたい…。いたわりの愛では無く、いとしく思って欲しかった。
 俊也が自分に夢中になってくれる様に…。あみと呼ばれた時代に身に付けたNo. 1の技で俊也を夢中にさせようと思い立った。だとしたら妊娠初期でまだ体型が変わって居ない今だと確信した。
 百合恵は夜に俊也を誘った。
「百合恵、今は妊娠初期で大切な時期だ。安定期迄待とう」
と俊也は優しく百合恵を諭した。至極真っ当な意見だ。百合恵は仕方なく従ったが心中は不服だった。

 妊娠4ヶ月の安定期に入った。体型もそれ程変わっていなかった。百合恵は奇抜な下着を購入し、入浴した後に身に付けた。そして俊也をあみ時代の技で魅せつけようとした。俊也は
「百合恵、君はとても美人なのだから、そんな娼婦の様な事しなくていいよ」
と言った。
 百合恵は今迄このNo. 1の技が、多くの男を魅了して来た誇りとして自信を持っていた。それが俊也には通じ無い。しかも『娼婦の様な…』と言われるなんて…。ショックを隠しながら俊也のリードに任せた。何とつまらない刺激の無い夫婦の夜だろう…。こんな淡白な夜で未知留は満足して居たのか…。それにしても、私がその気に出来ない男が居るなんて…。屈辱的だった。今、事が終わった後に俊也は百合恵の気持ちを気付く事なく静かに寝息を立てている。
 百合恵は独り夜景の見えるリビングに来た。
「野下も結局は妻の元に帰った。俊也は私を愛そうと努力してる。愛する努力をしないと私を愛せないのか…。そして未知留を忘れられない。妻って…そんなに凄いの?私だって今は妻よ。愛されたい…夫から。それが私は叶わないんだ…」
と溜息を吐いた。涙が出て来た。お腹に目をおろして、
「この子が絆を繋ぎ止めてくれてる…」
お腹を撫でた。
 そう言えば俊也も私のお腹を撫でてくれて居た…。
「男の子かな?女の子かな?元気に育ってくれ〜」
と…。もう名前も考え始めている俊也。毎日、「この名前はどう? 」
と無邪気に聞いてくる。この子が居る事によって私達は幸せな時間を過ごす事が出来る…。
 私にはこの子が居る…。きっと大丈夫…。百合恵はいつの間にか泣き止み笑って居た。
 兎に角私は良い母になりたい…。この子を幸せにしたい。この子に愛情を注ぎたい…。
 きっとそれに対して俊也も助けてくれる…。大丈夫…。大丈夫…。大丈夫…。
 不安に思って悩む自分で居たく無い…。それなのに悩みの波は繰り返してやってくる…。
 未知留…。考えると気になるが、この子の存在には未知留も敵わないだろう…。
 百合恵は夜景を見ながら思いを巡らし、夜明けを迎えた。

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