第九話「ヤングの独り言」

文字数 692文字

精神科医ヤングは研究をしている。
とは言ってもメモ用紙に何かを書くのでもなく、
患者を観察するわけでもなく、
ただ独り言を言うだけの、研究と言っていいのか分からない研究だ。
ただヤングはそれを研究だと主張している。
時々ヤングは存在もしない誰かと話している。
だからこれはあくまで独り言なのだ。

「私が興味があるのは、本当は精神というより心なのだよ。
精神と心の違いはね、心の方が変幻自在なんだ。精神はもっと超然としているんだ。
ところで、心は夢を見る。私が興味があるのは、心の見る夢なんだ。
心の見る夢はどこから始まったのか。どこへ辿り着くのか。
夢は遺伝するのか。夢と宇宙の関係は。等々。」

「まあ興味のあることを言おうとしても、
興味のあることなんて言い尽くせないのだし、しょうがないことだ」

「私の仮説では夢は一つの星なのだよ」

「誰かの夢は誰かの星に続いている」

「星っていうのは、分子も星だし、原子も星なんだ。もっとでかいものが星?いやいや構造は一緒だよ。構造が一緒のものは続いているんだよ。扉を開いたら同じ場所」

「世界に素粒子が生成されるだろ。今だってそうさ。その度に夢が生まれている。心が生まれているんだ」

「精神病の話はどこへ行ったって?精神病を理解するためにはまず心を理解しないと」

「それまではテキトウな話を患者としてればいいのさ」

「ヤブ医者?精神科医なんてほとんどがヤブ医者だよ」

「私はそれでも、夢を見ることが大切だと、そう言いたいね」

「精神を病もうが、病まなかろうが、夢を見れるか見れないか、これが心にとっては重要なことだ」

「私が提唱した集合的無意識。私はあれと夢がね、無関係には思えないんだ」
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