第8話

文字数 2,153文字

「もっと早く歩きぃや。バカ兄貴。」

「妹よ、お主今日も今日とて、口が悪すぎるんじゃないかの?兄様は悲しいぞ。うえーんうえーん。」


早足で駆けるように先をいく人形のような整った容貌の女性と、その女性とそっくりな見た目で、後ろをゆったりとついていく女性的な男性。

毎日、二人は刃でできた木の上から死者を呼び、登らせ、懲らしめる仕事をしている。


「うっぜぇんだわ!泣き真似すん...


ああああぁぁぁあぁああぁぁああ




...!?」

「な、なんじゃ?!あの家の中から聞こえたぞ!」

「それまじか兄貴?あの家って、、、あいつが?」

「ほれ、とっととゆくぞ!」



_____あいつが僕を殺そうとしている。当たり前だ。僕があいつの命を奪ったのだから。あいつの体を奪ったのだから。

でも、こんなつもりではなかった。



僕は体が欲しかった。

生まれた頃から右腕がなく、左足も膝から上しかなかった。

欠けた体が満ちることはなく、完全な体が欲しいという願望のみが膨らみ続け破裂しそうだった頃、

自分が少し前からすみ始めた天国で、獄卒を募集しているらしい、という生前からの友人の話を聞いた。


「獄卒になればお前のほしーもん、もらえんじゃね?ってことで、一緒にやるだろ?」

ほのかな希望が見えた気がした。

ほのかだが、暗闇の中では強く強く自分を照らしていた。


しかし、自分がなったのは、だんだとう、という、(自分の境遇を知ってか、知らないでか)杖の上に顔のみがのっている、十王の道具だった。

聞いている話と違う、と思った。自分は何をしようとしても完全な体は手に入れられないのか、と絶望した。


それでも、友人は僕に「閻魔様に頼めば、もしかしたら体もらえるかもよ?俺が行ってやろうか?」
といってくれた。もちろん僕に、うまいこと言って強引気味に連れてきたことへの罪滅ぼしのようなところもあるのだろうが、


早速、閻魔様のところまで二人で行って頼んでみた。自分は、閻魔様は忙しそうな人だし、邪険にされて終わりかもしれないと思っていたが、あっさりと快諾された。
「良いよ。じゃあ、二人とも目を3秒つむって。
3.2.1.  はい、いいよ。目を開けて。」

目を開けると、自分の目線の先には、体があった。どこも欠けていない、完全な体。

そして、その完全な体を失った、友人の首だけが、そこに転がっていた。


その後の記憶で、思い出せるのは、熱風のようにグラグラしている視界と、閻魔の甲高い笑い声だった。


______「ぉぃ、、おい!何やっとるんじゃお主は。  妹!玉藻!こやつの肩をつかんどれ!わしは手を引き剥がす!」


「掴んだぞ兄貴!」
 
「ぐぬぬ、こやつ力が強いな。
      ん?急に力が弱まった。

          嗚呼!気が付いたか!」

「おまえ、とんでもねぇいかれポンチだな。自分の首を自分で締めて、自分で苦しがってる奴なんて初めて見たわ。」

「違う。あいつは僕じゃない…」

「お主、誰かにやられたのか?いったい誰にやられたのじゃ?」

「僕の友達。ほら、こいつ。」

「あぁ??何いってるんだ?それはお前だろうが。」

「違うんだ。この体は、"すずろ"の、あいつの、体なんだ。僕が奪っただけで。」

「そうか、なら、少し外に出てそいつと話し合ってみてはどうかの?あれだけの騒動でそいつもへばっとるだろうから、また首を締めにいくこともないじゃろ。」

「はあ、、わかりました。」

_______________________


「ふーむ。あやつ、自分が体を動かしてるんじゃのうて、すずろっちゅう奴が自分の意思関係なく動かしてるって思い込んどるってことか。」

「ちょ、ちょい待てよ。兄貴、のみこみが早すぎんだろ!」

「このくらい、わしにかかれば簡単な推理じゃよ。
口をはさむでない、玉藻。

あやつがすずろっちゅうやつだと思ってるのは、あやつ自身。
精神障害にはたくさんの種類があるが、
あやつの症状から見て、離人症と二重人格が当てはまる。
離人症とは自分の意思と体が分離され、自動的に動かされているように感じたりする病気じゃ。おそらく、体が自動的に動かされているように感じるときの人格があやつ、檀堕で、それ以外のときは、すずろの人格に交代する。」

「ふーん、よくわかんないけど、兄貴、さすが生前は精神医だったことはあるな。」


_______________________


体が勝手に動いて外の、人のいないところに着く。

すずろ、お前の頭はどこにあるんだろう?

あの後、お前の身体がついた後のことは、自分が何をしたのかすら覚えていない。

お前は、いつもニヒルにニヤついていて、猫みたいな顔をしていたなぁ。

そうだ、もし、お前が良ければ、お前の頭を探して地獄内を探検してみるのはどうかな。

もし、お前の頭を見つけられたら、また、閻魔に頼んで、元に戻してもらおう。うまくいけば、ちゃんと元通りにしてもらえるだろう。


____そこで、体が自分の意思で動くのを感じ、つぶやいた。

  ったく、そーゆーわけならしかたねーか。

__はながきくから簡単に見つけられるにゃあん。        なんちゃって〜。

   ニヤニヤとした、ニヒルな笑顔だった。

















         







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