二 家庭教師は何を教えた?

文字数 941文字

 十分ほどで電車を降りた。アーケードの商店街を五分ほど歩くと、ルルは暖簾がかかった仏壇店に入った。
「今晩は、じゃない、まだ明るいから、こんにちは!
 おばさん!アッキ、借りま~す、家庭教師に。夕飯はあたしが食べさせま~す。
 もしかしたら、泊ってもらうかもしれませ~ん」
 店の奥から、「はーい、よろしくね」と声がする。

「これでよし。さあ、帰ろっ」
 ルルは俺の手をひいて三分ほど歩き、とある玄関のドアを開いた。
「あがってね。
 ママっ。アッキ先生を連れてきたよ。夕飯、頼むね!」
 ここでも奥から、はーいと声がする。

 手をひかれて二階の部屋に入った。ドアがしまるといきなりルルが俺に抱きついて首に腕を絡げた。
「ギューッとして!チュウして!いっぱいして!」

 俺はルルを抱きしめて腕に力をこめた。
 ルルは俺の胸に胸を密着させたまま動けなくなって、俺の肩に顎を乗せている。これでチュウはできない。
 どうしたのか問うと、
「前回、最後だからといって、チュウをしたよ。
 あたしもしたかった。アッキはもう決めてるのだから、いいと思った」

「で、どうした?」
「いっぱい、抱きしめてもらって、いっぱいチュウした・・・」
「とんでもない家庭教師だな。俺・・・」

「そんなことないよ。勉強、教えてもらった。最後にチュウも。
 チュウが一番効果があったよ。あたし、うれしかった。
 小学校の時、チュウはしたことあった。いたずらで女子と。チットも良くなかった。男子に無理矢理されたことあった。全然良くなかった。

 だけど、アッキは違った。とっても良かった。ほんとのチュウって、こんななんだと思った。何も知らないまま歳をとるとこだった。
 だから、あたし決めたんだよ」

「なにを?」
「ひ み つ 。ねえ、つぶれちゃうよ・・・」
「あ、ゴメン」
 抱きしめた腕を解いた拍子にドアが開いた。

 ルルのママがお茶のお盆を持って立っている。
「いつまでも休憩はだめよ。お勉強してね。未来の夫でも、今は家庭教師。勉強しなさい。
 アッキさん。しっかり勉強させてね。ベタベタするのは受験が終ってからよ」
 そう言ってルルのママはほほえみながら、家具調炬燵に御茶を置いた。

 どういうことだ?ルルのママは何を言ってる?
 俺は理解できないまま、ルルを抱きしめていた。
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