古井戸

文字数 213文字

昔、祖母の家の井戸に落ちたことがある。
かくれんぼの最中だった。役目を終えて久しい古井戸は、それでも底に水を湛えていて、私は運良く助かった。

それから十年あまり経った夏の終わり、叔母から電話が入った。祖母の三回忌を機に、あの家を取り壊すという。
私が、井戸はどうするのかと尋ねると、叔母は一言、埋めると答えた。
「あそこ、人が死んどるんよ。もうずうっと、昔のことだけど」

あの時髪に絡みついたヘドロの感触を、私は未だ、忘れられずにいる。
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