第6話

文字数 518文字

 それからの月日は、大人の俺たちには余りにも刹那すぎた。俺も彼女もお互いの感情に気づいていたし、関係も深いものになっていた。
 空が晴れた、とある夏の日。俺は意を決して告白をした。彼女は喜んで、涙していた。しかし、告白に特別感と緊張を抱かないほど、俺は彼女と親しい間柄になっていた。俺は彼女を愛していた。彼女はきっと運命の人だった。
 晴れて恋人同士になった俺達は、空を撮るため色々な場所に出向いた。ほぼほぼ貸し切り状態の田舎の電車に揺られたり、外れにある浜辺に行ったりした。
 碧はよく笑った。自意識が過剰かもしれないが、付き合いだして、笑顔が増えていたような気がした。本当に可愛らしい、愛らしい笑顔だった。カーテンの隙間から溢れる日差しのように、温かく柔らかい笑顔だった。碧が笑うたび、俺はたまらなく嬉しかった。
 俺達は恋人らしいこともした。キスをした。ハグもした。その先だってした。身体を重ねた後は抱きしめあって寝た。碧の寝顔も好きだった。幸せだった。多分世界で一番俺が幸せだと思った。
 幸せ過ぎていたのか。平穏な日常が当たり前に続いていくと信じて疑わなかった俺達への報いがこれなのか。
 あっという間に暑苦しい、愛おしい夏は席を立った。
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登場人物紹介

喫茶店の店主

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