第7話

文字数 445文字

 碧との思い出は、一夏の思い出に過ぎない。シャボン玉が割れるくらいに短かったが、死ぬ間際に振り返るには余りにも濃過ぎた。どの記憶も愛おしすぎた。だが、次々と浮かぶ記憶も捉えきれないほど俺に死が迫っていた。もう、終わるんだな。でも、俺は幸せ者だ。お前にいつも助けられてばかりだったな。救われてばかりで。蝕んでいた憎悪も、薄らいでいて。碧への愛だけが残ってて。幸せだったよ。碧、お前と居られて。
 ああ、でも。それでも、後悔があるんだ。どうすれば俺達はもっと長く一緒に居られたんだ。余りにも短すぎると思わないか。
 ああ。嫌だ。死にたくない。今から生きても、お前はもうどこにもいないのに。
 そうか。碧もこうやって苦しんで死んだのか。
 碧。碧。碧。苦しかったろう。辛かったろう。
 お前に会いたい。抱きしめたい。
 最期にお前の笑顔が見たかったよ。
 なあ、碧。久しぶりに空を見上げてるよ。でも、お前が愛した空の青はこんなにも沁みて痛いものなのか。
 俺の目が最期、捉えたそれは絶望を含んだ深い深い青だった。
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登場人物紹介

喫茶店の店主

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