文字数 1,488文字

 二
 
 俺と渋谷であった一週間後、統真は予定通りヨーロッパに旅立った。
 統真がヨーロッパ六カ国を回っている間に俺は海ちゃんに十二回射精する。ダブルスコア。
 二週間が過ぎそろそろ連絡あるかなと思って待つけれどなかなかなくて、俺も連絡しようかと思っているうちにずるずると七ヶ月が経ってしまう。
 海ちゃんの他に仕事で知り合った取引先の新人ちゃんとも浮気をしてしまう。かといって俺は翔子との回数も減らさない。むしろ増やす。だからなんだという話ではあるけれど。
 一ヶ月ぶりに会った海ちゃんとホテルのジャグジーで十五回目になるかならないかの射精を終えたとき、ソファにかけていたスーツの内ポケットに入れた iPhone は統真のメールを受信している。ジャグジーを出て海ちゃんが部屋備え付けの PS4 で太鼓の達人でドンドンドン! カッカッ! やっているのを見ている時にそのメールに気がつく。

野沢温泉!?!?!?!?!?  
 
 統真は普段あまり返信が早いほうじゃないけれど、今回はレスポンスがものすごくよてくホテルを出るまでに会う日時まで決めてしまえる。
 十日後の一月三十日。
 七ヶ月前恵比寿の店で教えてもらってブックマークして直後に数回読んだだけになっていた統真のブログを思い出して覗いてみる。
 最後の更新は六月二十四日。
 ……えーと、海外旅行から帰ってきて少し経ったあたりか。
 で、その最新のエントリのタイトルが「退職しました」だったので、おいおい、これってもしやベタな展開なんじゃねえの? と予想しながらエントリを遡って「海外放浪1」から読み始める。
 シャルルドゴール空港に降り立った統真は数日間フランスを旅行した後、南下してスペイン、ポルトガルと周っている。そこからまたフランスに戻り、イタリア、ギリシャ辺りを見ていく計画だったようだけど、マドリードのレストランで一緒に旅をしている自称カメラマン友人がピザを食べている写真の下に「もうヨーロッパは飽きたので予定変更。ジブラルタルを渡って、モロッコへ行きます!」と書かれている。俺は新しいタブを開きジブラルタルをググる。アフリカ大陸の旅に切り替えたってわけだ。 「退職しました」の理由がそのエントリを読まずとも予想がつく。
 アフリカのカルチャーにアテられたのだ。広大な自然、日本とまったく違う文化やライフスタイルを見て、先進国の都市に住み大量消費にまみれて暮らす自分に疑問を持ったりしたのだろう。電話で自然関係の仕事に転職するつもりって発言からもそれは濃い。長野に引っ越したのはいわゆる田舎暮らしってやつに憧れたか?
 あいつの中で価値観ががらっと変わったのだ。
 そのわかりやすくて素直すぎてベタすぎる展開には苦笑も混じるけれど、俺は馬鹿にできないしすることじゃない。堅実に生きていくことこそが自分の人生と言っていた統真が、三十近い年齢でこの決断なのだ。俺はそれを軽々しく笑うべきじゃない。それにこれしかないと思って突き進むときってのは、周りの人間を唖然とさせるくらい突拍子もないものだ。
 俺は統真と会うことが楽しくなる。「退職しました」のエントリまで読むけど、そこにも会社を辞めたということだけしか書かれていなくて、その理由もその後転職したのかも書かれていない。まあいい、直接聞こう。
 しかし俺の読みは浅すぎていて、統真に価値観の転換が起こったのは確かだったのだけど、その原因はアフリカ放浪旅なのではなかった。
 統真にターニングポイントを与えたのは、日本の、東京は奥多摩にある白丸ダムだった。
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