第2夜 【冷蔵庫】(1)

文字数 917文字

安価でお手軽な、リサイクル家電。

例えば、そう。



十月も半ば。秋が足早に過ぎて行き、大分冬の気配が強くなったころ。

私、佐藤弘恵(さとうひろえ)は、これから始まる二十歳にして経験する初めての一人暮らしに、心を躍らせていた。

やっと就職先が決まり、長いアルバイト生活に終止符を打つことができたのだ。

今日は母と一緒に、一人暮らしに必要な家財道具を購入するため、新居のアパートの近所にあるリサイクルショップに買い出しに来ている。

テレビ・洗濯機・コタツにガスコンロ。あらかたのものは揃った。あと、必要なのは――。

「ねえ。この冷蔵庫、いいんじゃない?」

母が指をさしたのは、白い冷蔵庫。

ツードアで、サイズも一人暮らしには丁度良いコンパクトなものだ。

「うーん。どうしようかな……」

「だって、安いわよ。これで二千円はお買い得じゃない?」

確かに、他に比べると格段に安い。傷や目立った汚れはなく、見た目も綺麗だし、母の言う通り買い得な感じがした。

でも、こういうのは、慎重に見極めないとね。

「中はどうかな?」

私は中を見てみようと、冷蔵庫のドアに手を掛けてぐっと引っ張った。

が、ドアはびくとも動かない。

「あ、あれ? 開かないよ?」

今度は力を込めて引っ張ってみたが、やはりドアが開かない。

「あ、それ、脇にドア開き防止用のフックが付いているんですよ」

不意に、後ろから飛んできた男性の声に思わずドキリとして、母と二人、同時に振り返った。

「ほら、ここにフックがあるんですよ。きっと、小さいお子さんがいた家庭で使われていたんでしょうね」

黄色い太陽のマークが入った、店のロゴ入りの妙に派手なエプロンを付けた中年の店員さんが、ニコニコ営業スマイルを浮かべて立っていた。

彼は笑顔のまま、二人の間から手を伸ばして、冷蔵庫の扉の上部に付けられていた黒いフックをカチャリと外す。

「どうぞ。中もご覧になって下さい。とてもお買い得な商品だと思いますよ」

勧められるまま、私は冷蔵庫のドアに手を掛けた。

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