【冷蔵庫】(3) 

文字数 895文字


母の手を借り、アパート二階にある自分の部屋に買い込んできた家電類を運び終わったのは、午後七時を回ったころ。

もうすっかり日も暮れて、住宅街から少し離れた造成地に建っているアパートの周りは、人通りもなくシンと静まり返っている。

「じゃあ、お母さん帰るわね。何かあったら、すぐに電話しなさいね」

「うん。分かった。今日はありがとうね。気を付けて帰ってよ」

アパートの裏手にある駐車場まで母を見送り、笑顔で別れを告げると、私はやっと一段落付いてほっとした。

多少母の軍資金協力もあって、予算内で全て収まった。

やっぱり、中古品で揃えたのが大きい。リサイクル様々だ。

本音を言えば、新品の方が良いに決まっているけど、しがないアルバイト生活では大した貯金があるわけでもなく、『人の使った物が嫌』と言うほどの潔癖性でもない。

『これで良しとしよう!』と、私は自分を納得させた。

二階の東の角部屋。

日中は日当たりも風通しも抜群で、内装も綺麗にリフォームされている。

「うーん、これが我が城かぁ」

私は玄関で腰に両手を当てて、改めてしみじみと室内を見渡した。

六畳の洋室プラス四畳半の和室。

決して広くはないけど、初めての一人暮らしには十分だと思った。

なんて言っても、マイルーム!

文字通り、『私の部屋』なのだ。

思わずニヤケてしまうのは、仕方がない。

「さて。夕飯、夕飯っと」

今日の夕飯は、コンビニのソバ。

ちょっと味気ないけど、これも一人暮らしの醍醐味よね。

私はソバを取り出そうと、キッチンの脇に並べて置いた買ったばかりの冷蔵庫に手を掛けた。

「あれ? 開かない。お母さん、フックしていったのかな?」

見ると、冷蔵庫のドアの右上に付いている黒いフックが掛かっている。

『子供がいるわけじゃないから、フックは掛けなくてもいいわね?』

買い出ししてきた食材を入れるとき、確かに母はそう言っていたはずだ。

「お母さん、ボケが入ったかな?」

クスクスと笑いながら、カチャリとフックに右手を掛けた次の瞬間、

チクリと、指先に鋭い痛みが走った。

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