【ブランコ】(5) 

文字数 1,005文字


視線すら逸らせずに、ただその光景に見入っている私のことを嘲笑うかのように、

ぎいぃぃぃぃぃっ……っと、一際大きな音が響いたその後、ブランコが動きを止めた。

『がさっ』、と下草が揺れる。

『がさっ、がさっ、がさっ』

草を踏み分ける音と共に、何かが近づいてくる。

いやだ、何これ、動物!?

『がさっ、がさっ、がさっがさっ』

姿が見えない『それ』は、もう私の目と鼻の先まで来ていた。

不意に、草の音が止む。

1分。

2分。

ただならぬ気配だけを漂わせ、永遠とも思える時間だけが過ぎていく。

もしかして、もう、どこかへ行ってしまったのかもしれない。

ゴクリ――。

私が唾を飲み込んだ次の瞬間、ツンと、コートの右裾を引かれた。

「お姉ちゃん……」

この場には一番不似合いな、ハイトーンの可愛らしい子供の声が耳に届いて、私は更にギクリと固まった。

ぎこちない動作で引かれたコートの先、自分の右足下に視線を這わせて、ひっと、思わず息をのむ。

そこに居たのは、幼い子供だった。

妙に白い、子供。

青白いような肌をした5歳くらいの男の子が、ニッコリと笑顔を浮かべて、私のコートの裾をぎゅっと掴んでいた。

少年らしい丸いラインの頬の下で、きゅっと上がる口角とは対照的に、ニコニコと下がる両方の目じり。

満面の笑顔に、一瞬今何処にいて何をしているのか分からなくなる。

何でこんな時間に、こんな所に子供がいるの?

迷子かなにか?

「あ……、あなた、どうしたの? なんでこんな所にいるの? お母さんは?」

少年は、冬だというのに半袖半ズボン姿で、私の質問の意味が分からないのか、それとも分からないフリをしているのか、ただニッコリと笑顔を浮かべている。

「とにかく、これを着て。風邪を引いてしまうから」

急いで自転車のスタンドを立ててから、コートを脱いで少年の肩からすっぽりとかぶせてあげると、一瞬触れたその華奢な肩が、氷のように冷え切っているのが分かった。

無理もない。

この寒い季節のそれも夜中に、こんな薄着でいたら体が冷え切って当たり前だ。

コートを脱いでしまった私も、凍てついた冬の夜気に見る間に体の熱を奪われ、思わず身震いが出る。

この子の保護者は、こんな寒空に子供を放り出して、いったい何をしているの?

――もしかして、幼児虐待とか、そう言うのだろうか。

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