第一場
文字数 2,123文字
もうこのお家には花瓶、家具、食器、何でも揃ってらっしゃるではありませんか。この上何の極上の品を取り揃えようと云うんです? 倉庫部屋の骨董品はあなたに片付けられるのを待っていますし、上等な食器はとっかえひっかえ使われるのを心待ちです。ましてお嬢様をこれ以上甘やかしてはいけませんよ、何かと理由を付けて、何でもお買い与えになるんですから。もう。
いつもあんなにきちんと帳簿をお付けになって、細大漏らさぬ細密な遣り繰りをなさっているくせに、いざや御自分の娘御のこととなりせば、そんな不確かなことさえ儲け話と嘯けるくらいに盲目をおやりになられるんですから。そもそも都会で行われる大会なんでしょう? 都会のエルフに勝てるわけ無いでしょう?
あの、まさかのときにショック死されないようにご確認しますけど……
ご主人様は御自分の娘がどれほどのところまで通用する才媛なのか、いちど公の場に出してお確かめになりたいだけであって、まさか本気で優勝するとまでは思ってらっしゃいませんわね?というのも先云った通り、大会は二人一組で挑むものなのだから、娘がどれほどの才を輝かせようとも、相手となる男次第で結果はどうとでも変わりうるのだからな。これは納得しなければならん。さりとてゆめゆめつまらぬ匹夫と組ます積りなどないよ。つまり、此度の大会で夫を組む相手は、娘の古くからの許嫁だ。商売仲間のスィンディーナとだいぶ前に約束したのを忘れていたのだが、これを機にと縁談を進めることにしたのだ。これは宴席で重々検討仕合った上でのことで、大きな話が進んだといったのはそれだ。