第一場②

文字数 1,069文字

御機嫌よう。わたくしに何か御用ですの? お父様、エスレさん
噫、おはようございますお嬢様!
おはよう! 我が愛しの娘よ。今日もまた一段と麗しい。

さあエスレ、配膳をしてくれ。朝餉のあとは昼日中まで一眠りとしよう。

ところでメイ、きっての話があるのだが…

申し訳ありません。お話なら、さっき戸扉の外で立ち聞きしていました。

あんまりにも荒唐無稽なことを仰るものですから、出るにしのびなく。

そうかい? では説明する手間が省けたね。お前の意志に関わりなく婚約を復活させたことは悪かったが、どうか分かっておくれ、こうしないことには時間が無かったのだ。
それも既往にしていたお約束である上は、妾は一向に構いませんで、お父様が見込んだお相手なら猶更ですわ。
そうとも、いつまでも未婚ではおれん。相手は寡婦スィンディーナの一人息子だ。私の眼鏡に間違いはないよ、今までこの眼で、すべての商物をじかに見極めてきたのだからね。
あら、スィンディーナさまの一人息子、ローランさんですか? ではお父様のわたくしが、安心して身を落ち着けられる相手として、深く考えてくだすってのことですのね?それなら不満も言えません……。
して、大会には出てくれるのだね?
それは、わかりませんことよ。ローランさんともお話して見ませんと。

さりとて、お父様の期待を裏切るようなことは心苦しくて……。

ふむ。

〈耳打ち〉

ご主人様、ゝ。

あんまりに無理強いしてはいけませんよ。

ああ見えてお嬢様は怒ってらっしゃいます。声でわかります。機嫌が悪いんです。

普段からご主人様に格別の目をかけられて、

遠慮している手前、はっきりとは曰わないかも知れませんが、

わざわざ変な祭りのために都くんだりまで行くなんて御免だと、

顔に書いてあるようなものですよ。

〈独白〉

いかにも、勝手にこんなことを決めてしまって怒っているのも当然だ、だがしかし、私はお前の実力をどうにも発揮させてやりたかったのだ。否、己の欲望にかこつけて、ただ見てみたかっただけといったほうが正しい。この大会がなくんば、お前はこの片田舎で成年し、何をするでもなく凡常の縁談も結び、その実力をいかんなく発揮することも無く、旦那を引き立て/\生きていく人生を選択したことだろう。持ち前の才能がありながら、それは余りに勿体が無いではないか。あんな出場条件が付いている手前、短兵急におまえの婚約を進めてしまったわけだが、もしこれがスィンディーナの息子以外だったらば、こんなことは允さない。世界一愛する娘が、半端な男と縁を結ぶなどもっての他だからだ。どうかそれは、わかっておくれ。


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登場人物紹介

エルダー・レイド・アレイ:無窮の森のハイエルフ族族長

イルビス・メリキュール:メイの父、商人。精霊派。

メイ・メリキュール:イルビスの一人娘。ヒロイン。

エスレ:メリキュール家の小間使い。レチオの母。

レチオ:〃。エスレの娘

スィンディーナ・バランス:イルビスの知己で、同じく精霊派。宝石商人。

ローラン:スィンディーナの息子(本編に登場せず)

キュベレ:露店商人。

フローリア:森林派の村娘

クウェンシー:メイのパートナー

サリア・ヴァルサリス:レイド・アレイの侍女

ジェムナル:フローリアの恋人。森林派

マルキス:ジェムナルの友人

ポアゼ:ジェムナルの友人

ピューリ:ジェムナルの召使い

ロリス:フローリアの女友達

その他 

大会に挑む若者。

物見客、大会の警邏。

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