第一場②
文字数 1,069文字
〈耳打ち〉
ご主人様、ゝ。あんまりに無理強いしてはいけませんよ。
ああ見えてお嬢様は怒ってらっしゃいます。声でわかります。機嫌が悪いんです。
普段からご主人様に格別の目をかけられて、
遠慮している手前、はっきりとは曰わないかも知れませんが、
わざわざ変な祭りのために都くんだりまで行くなんて御免だと、
顔に書いてあるようなものですよ。
いかにも、勝手にこんなことを決めてしまって怒っているのも当然だ、だがしかし、私はお前の実力をどうにも発揮させてやりたかったのだ。否、己の欲望にかこつけて、ただ見てみたかっただけといったほうが正しい。この大会がなくんば、お前はこの片田舎で成年し、何をするでもなく凡常の縁談も結び、その実力をいかんなく発揮することも無く、旦那を引き立て/\生きていく人生を選択したことだろう。持ち前の才能がありながら、それは余りに勿体が無いではないか。あんな出場条件が付いている手前、短兵急におまえの婚約を進めてしまったわけだが、もしこれがスィンディーナの息子以外だったらば、こんなことは允さない。世界一愛する娘が、半端な男と縁を結ぶなどもっての他だからだ。どうかそれは、わかっておくれ。