第二場
文字数 3,040文字
なぜそんなことを云うんだい?
ここは君みたいな子がお金を無心するところじゃなくてね、商売者が何か新しい事業を始めようと思ったときに、足りないお金を都合していくところなんだよ。おお、これぞわが人生の歓び! まあ普通のエルフにも貸すことはあるがね、いずれも何かしら始めようと思っているから君とは別だ。私に言わせるとね、君の年時分にはお金なんぞ無くてもなんにも不自由は無かったよ、だから此処の扉を出ても、すぐに他の氷菓をはしごしたりしないで、まっすぐ家に帰るんだね
ベルモントの都で大会が開かれるのよ。最高のエルフのペアを決める大会!
参加するには男女一組でないといけなくって、それで私たち結婚することになったわけ。
彼も、それくらいのお金は余裕で持ってるだろうけど、結婚資金っていうのは
結婚式に使うお金じゃなくって、私が嫁ぐために払う資金だってことくらいは、
あなたも知ってるでしょう?
まあとにかくお金が必要なわけだ、君が立ち行くためには。
なにも私も君が出場したからといって、娘がそのことで敗けるなんてちっとも考えてやいないのだから、
それが証拠に、ここは一つ君が出場できるように佑助してあげよう
(ジェムナルか、この地方きっての名望家だ。結婚して家計がひとつになれば、金は余裕綽々と回収できるだろう)
だったら多めに借りたほうが良いだろう。
例えばこの窓から見える農家の四分の一を売り払えば、1タラントは手に入る。
私は君にそれくらいのお金を貸すことができるよ。この場でね。
なんという無茶苦茶なことだろう! なんと道理にはずれたことだろう!
そのジェムナルとかというのがどれほど遣り手な男かは知らないが、結婚資金でオークションをやるような奴に優勝の目などあるわけがない。気高さを決める大会なのだから、正気の沙汰とは思えない。証拠に、こうして借金地獄の娘をひとり産み出してしまったではないか。
それにしても、あの娘の言っていたこともまた事実だな、ペアで出場する大会なのだから、相手の男の力量にも結果は左右されるのだ。
メイとペアを組むスィンディーナの息子はまさかヘマをしないだろうな……私の金が賭かっているというのに。いや、スィンディーナの血を嗣ぐ者だ、彼女の聡明さはまた私も知っているはずではないか。往々にして優れた家系のものからは優れた子孫しか生まれないもの。
我が娘のメイにしても、我が妻の高貴さが遺してくれた才華の残り香をそっくりと受け継いでいるのだから、あの娘の利発さは全て妻のの遺産なのだ。なにせ、私はこのとおりの卑しい商売エルフ、わが血筋には何もない、悪いところこそ継がせはしなかったが、いいところなど唯一つも継がせては居ないのだ。
私がメイに負わすところなど、せいぜい自力で立てないうちの世話くらいで、それだって小間使いに任せきりだったではないか。どうして彼女にとやこう言えよう。生まれながらにして父親だったという、あの特権的地位以外で? ありえない。しかし、そんな私にもメイは従ってくれるのだ、あの子は本当に良く出来た娘だから。