三話・五頁

文字数 690文字

 囚人のいる房への鉄格子はロボットが開けてくれた。許可が出ているから、フリーパスだ。
 最初の方は新人ばかり、1年か2年重労働をさせられて地球へ帰る口だ。
尤も殆ど帰らないのだが。家族も仕事も無いのが普通だからだ。
 彼らは疲れと絶望で項垂れている。本など読まない。

 更に進むと、ニヤニヤ笑う常連達、長期刑の者達だ。俺は頼まれ物が無かったので、更に奥へと進む。
そこには無人の鉄格子ゲート。俺が立ち止まると勝手に自動で開いた。
 ここからは重犯罪人しかいない。
思想犯、又は政治犯そしてテロリストだ。
ここが地球が最も恐れる、月の革命戦士達のいる房だ。
殆どが思想犯で、政府のやり方に異を唱えて
冤罪で送られた人達だ。
 俺の雇い主、同士でもあるのだ。

「先生!頼まれ物です」

 俺は難しそうな科学の本を、鉄格子の隙間から渡した。この人は学者さんで、革命の思想的先導者の一人だ。
名前は知らないが、先生で通っている。
彼の名を口にすると、何かと疑われるので教えてくれないのだ。何とも馬鹿げた話だが。
俺は秘密工作員、安全の確保にやり過ぎと言うのはない。
 すると髭面の先生は、

「こいつでもテロリストに読ませたら、少しは改心するかもな」

と本を1冊返してきた。
 買ったものだから、返す必要は無いのだが。
狭い房なので、増え過ぎた本を時々返却する者もいるのだ。
それらは月のコロニーで売り捌くのだが。
これはテロリストと呼ばれる、奥の房の者に届けろと言う意味だ。
俺は監視カメラに見えない様、素早く本に貼られたバーコードを、他の物と差し替えた。
中を確認する事は無いので、これで充分なのだ。
 まったく地球人は、隙だらけだねぇ〜。
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