第1話
文字数 809文字
カーテンから差し込まれる明るい朝の光。アイロンがかけられ、しわひとつない真っ白のワイシャツ。香ばしいトーストとコーヒーの匂いが届く。
いつもの朝___清潔で迷いのない、日常の景色。目覚ましの音に誘われるよう目が覚める。
斎藤優希はベッドの中で大きく伸びをすると、枕もとの携帯に手を伸ばした。
天気は晴れの予報。いくつかの予定が画面に飛び出して、忙しい一日になることを教えている。
起き上がり首を回せば、コキ、と軽い音を立てた。
「起きなきゃ……」
ベッドから這いだして洗面台にむかうと、まだ眠そうな自分が鏡にうつっている。
綺麗と形容されることの多かった容姿もくたびれてきたなと思うことが増えた。
そりゃそうか、と鏡の中に自嘲する。
来月、30歳の誕生日を迎える。ため息を一つつきながらひとりごちる。この穏やかな暮らしって、なんなんだろう。
身だしなみを整えてキッチンに向かうと、ちょうど朝食ができたところらしかった。サーバーからマグカップへコーヒーをよそっていた妻の明日美が優希に気がつき、笑みを浮かべる。
「優希、おはよう!」
「おはよう」
「そろそろ起こしに行こうかなって思ってたところ」
朝だというのに、きれいにメイクされている明日美のほほのエクボが深くなる。
ナチュラルな天然木で作られたダイニングに腰掛け、向かい合って朝食を取る。彼女が弾んだ声を出した。
「今日だね結婚記念日。6時にレストランで待ち合わせ、でいいのよね」
「そうだね」
ふふ、と楽しそうに笑い、「3年目、かあ」と壁に飾られた写真に視線を送る。
真っ白でふんだんに使われたレースが広がるウェディングドレスに身を包んだ明日美が、今よりほんの少し幼い笑顔で笑っている。その隣には穏やかに微笑む優希がいる。
あの日も晴れやかで、すべてに祝福されている一日だった。
「オシャレして行くから。楽しみにしてて」
それは「幸せ」と呼べるような、ありふれた日常の景色。
いつもの朝___清潔で迷いのない、日常の景色。目覚ましの音に誘われるよう目が覚める。
斎藤優希はベッドの中で大きく伸びをすると、枕もとの携帯に手を伸ばした。
天気は晴れの予報。いくつかの予定が画面に飛び出して、忙しい一日になることを教えている。
起き上がり首を回せば、コキ、と軽い音を立てた。
「起きなきゃ……」
ベッドから這いだして洗面台にむかうと、まだ眠そうな自分が鏡にうつっている。
綺麗と形容されることの多かった容姿もくたびれてきたなと思うことが増えた。
そりゃそうか、と鏡の中に自嘲する。
来月、30歳の誕生日を迎える。ため息を一つつきながらひとりごちる。この穏やかな暮らしって、なんなんだろう。
身だしなみを整えてキッチンに向かうと、ちょうど朝食ができたところらしかった。サーバーからマグカップへコーヒーをよそっていた妻の明日美が優希に気がつき、笑みを浮かべる。
「優希、おはよう!」
「おはよう」
「そろそろ起こしに行こうかなって思ってたところ」
朝だというのに、きれいにメイクされている明日美のほほのエクボが深くなる。
ナチュラルな天然木で作られたダイニングに腰掛け、向かい合って朝食を取る。彼女が弾んだ声を出した。
「今日だね結婚記念日。6時にレストランで待ち合わせ、でいいのよね」
「そうだね」
ふふ、と楽しそうに笑い、「3年目、かあ」と壁に飾られた写真に視線を送る。
真っ白でふんだんに使われたレースが広がるウェディングドレスに身を包んだ明日美が、今よりほんの少し幼い笑顔で笑っている。その隣には穏やかに微笑む優希がいる。
あの日も晴れやかで、すべてに祝福されている一日だった。
「オシャレして行くから。楽しみにしてて」
それは「幸せ」と呼べるような、ありふれた日常の景色。
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